農文協が運営する農業情報サイト「ルーラル電子図書館」で読者が注目した『季刊地域』の記事を連載形式で公開します。
今回ご紹介する「水田フル活用」コーナーは、各市町村で作成されている「水田収益力強化ビジョン」に基づく、地域の特色を生かした魅力的な産地つくりの実現に向けて、基礎知識の再確認、栽培技術、各地の実践事例など参考になる記事を作物別にセレクトしました。*この記事は『季刊地域』2022年秋号(No.51)に掲載されたものです。
イラスト=河本徹朗、まとめ=編集部
小麦の流通
国産小麦は民間流通で取り引きされており、国内需要の不足分を政府が国家貿易により海外から計画的に輸入し、需要者に売り渡している。このところ国産小麦の生産量が増えているものの、需要量の8割以上を輸入に頼る。国産も輸入も、おもに製粉会社が小麦粉にし、それを原料に二次加工メーカーがパン・麺・菓子などを製造する。
大手製粉会社4社で8割のシェア
大手製粉会社4社の小麦粉の生産量は全体の79%。これに年間小麦粉生産量が3万t以上の会社の生産量を加えた計13社では、全体の91%を占める。
輸入小麦の価格が急上昇!
輸入小麦は、政府が購入者となる国家貿易により商社を通じて輸入され、製粉会社などの需要者に売り渡される。売渡価格は4月と10月の年2回、直近6カ月間の平均買付価格をもとに改定される。
2022年4月の売渡価格は、昨年夏の高温・乾燥によるアメリカ・カナダの不作の影響が大きく、前年10月に続いて2期連続の大幅引き上げとなった。次の10月改定では、ロシアのウクライナ侵攻の影響でさらに値上がりするはずだったが、家計負担を和らげる狙いで政府が据え置く方針を示している。
国産小麦の取り引きの仕組み
需要に応じた計画的生産を促進するため、収穫の前年に生産者と需要者(製粉企業など)との間で播種前契約を結んで取り引きを行なう。
輸入小麦の値上がりは国産小麦にも連動する
播種前の入札もしくは相対で契約された価格は、そのまま取引価格になるわけではない。4月と10月に決まる輸入小麦の政府売渡価格の変動率を乗じた「事後調整」により、外国産との価格差が大きく開かない仕組みになっている。
中小製粉会社が活躍、小麦の「小さい流通」
大手・中小製粉会社別国産小麦の買受状況(2014年度)
大手製粉会社
大手4社は、海の向こうから大量にやって来る輸入小麦に対応するため臨海部に工場を持つ。生産性向上のため、内陸工場を閉鎖し、海外からの原料調達に有利な臨海工場へさらに集約する動きがある。
中小製粉会社
年間小麦粉生産量1000〜3万tの中小製粉会社はおもに内陸にあり、地元のパン、麺等の加工業者に小麦粉を供給するほか、乾麺等の製造を兼ねる会社も多い。
埼玉県の前田食品(p12)や京都の井澤製粉(p28)では、地元の生産者・JA・製パン業者・飲食店を巻き込んだパンや中華麺の地産地消を推進。他にも、地元産小麦の使用拡大を図る事例が続々。
パン・中華麺用はもっと増やせる!?
今から13年前、09年時点の国産小麦の用途は日本麺用が55%と圧倒的に多く、パン用は6%、中華麺用は3%にとどまっていた。だが、国産小麦の生産量が2009年産から21年産(110万t)にかけて63%増加したうえ、パン用、中華麺用品種の生産が急拡大して、現在は作付比率で小麦全体の20%を超えている(『現代農業』22年7月号p266、吉田行郷氏)。
ただし、輸入小麦の使用量に比べればまだわずか。小麦の自給率アップには、地産地消にもつながりやすいパン・中華麺用品種がやはり狙い目か!?
うどん用も求められている
国産小麦は19〜21年産が3年連続の豊作で、北海道産を中心に、需要者側に当初の希望量を上回る量を購入してもらう状態が続いた。しかしその中でも、おもにうどんに使われる佐賀・福岡のシロガネコムギ、茨城のさとのそらは希望量を満たせていない。
農家の収入はどう決まる?
需要者への小麦の販売価格は、国産も外国産も同額程度になるように調整されているが、農家の収入には、その販売代金に直接支払交付金が加わる。
国産小麦供給体制整備緊急対策事業(22年度)
ロシアのウクライナ侵攻にともなう価格高騰を受けて、国産小麦の安定供給体制を強化する事業が設けられた。
●国産小麦産地生産性向上事業
このほか、国産小麦供給円滑化事業として、実需者による国産小麦の一時保管や保管施設の整備を支援する。また、麦や大豆の国産シェアの拡大は23年度予算でも重視されている。
『季刊地域』2022年秋号(No.51) 「図解 小麦の流通」より