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連載「集落機能強化加算」廃止でいいのか?

【「集落機能強化加算」廃止でいいのか?⑧】紛糾した第11回第三者委員会

2024年11月19日、第11回の中山間地域等直接支払制度に関する第三者委員会が開かれた。この場で農水省から正式に集落機能強化加算廃止の意向が示された。ただし、第5期対策で集落機能強化加算に取り組んできた集落協定に対しては、「経過措置」として新設のネットワーク化加算の中でこれまでの取組を継続できるよう配慮するとのこと。

文=編集部

第三者委員会の役割を軽視

集落機能強化加算廃止の問題については、この加算の活用実態とともにこの間の連載で7回にわたって取り上げてきた。問題が広く知られるようになるにつれ、中山間地域の再生を目指す産・学・民・官のネットワーク「特定非営利活動法人中山間地域フォーラム」や全国町村会が、廃止に対する懸念を相次いで表明した。町村会の意見書には次のようにある。

「集落への一層の支援が求められる中にあって、『集落機能強化加算』は年々利用実績も増加している。それにもかかわらず、検証の議論や明確な理由を示すことなく廃止することは、中山間地域に暮らし、懸命に営農活動を続けている人々の期待を全面的に裏切るものであり、到底容認できない」(注1)1

ここでもふれられているように、この廃止問題が異常なのは、8月30日公表の25年度概算要求により廃止がわかったことであり、中山間直接支払・第5期対策(20~24年度)を検証・評価してきた第三者委員会にはまったく知らされていなかったことだ。その役割を軽視というか無視された第三者委員会は、評価の機会を再度設けることを10月1日に農水省に要望した。それから50日たって開催されたのが第11回の委員会だった。(注2)2

高齢者の生活支援を否定

集落機能強化加算が支援対象に想定していた活動は二つに分けられる。「新たな人材の確保」と「集落機能(営農に関するもの以外)の強化」である。

委員会は農水省から第三者委員会への謝罪で始まったが、同省が示した集落機能強化加算の評価は次のようなものだ。

 ①新たな人材確保は中山間直接支払の趣旨に沿った取り組みが行なわれている。
 ②加算の利用は全国で555協定。全体の2%で、小規模な集落協定で実施率が低い。
 ③生活支援サービスは協定組織の強化や農業生産の継続につながったとは言えない。

異常に感じたのは③で、この加算を利用して各地で取り組まれてきた高齢者の生活支援を否定する農水省の姿勢だ。高齢者支援は農業生産につながっていない。これでは中山間直接支払の本来の目的からはずれている。ゆえに廃止する、というのである。しかもこうした見解は、24年8月に「最終評価」のために開催された第10回の第三者委員会までまったく示されていなかった。

だが、前述のようにこの加算の支援対象の一つは「営農に関するもの以外」の集落機能の強化である。それは、第5期対策についての農水省のパンフレットにも具体例として「高齢者の見回り、送迎、買物支援等」「高齢者世帯の雪下ろし作業」と明記されている。

集落機能強化加算の創設にあたっては、集落内外の組織との連携などが前提になっていたというが、ここには書かれていない(農水省・中山間直接支払第5期対策のパンフレットより)

委員の反論の中には、農水省が作成した取組事例集でもこうした生活支援が「地域の方に大変喜ばれている」と評価されているという指摘や、生活支援が農業生産につながっていないという客観的な検証結果もなしに否定する姿勢を疑問視するものもあった。

また②については、実施率が低い加算は集落機能強化加算に限らないこと、それが廃止の理由にはならないことが委員から指摘された。

営農と暮らしの分離へ方針変更!?

委員会の中で明らかになったのは、中山間直接支払の役割自体についての農水省と第三者委員の見解の違いだ。

会議の中で農村振興局長は、財政に余裕がないことも理由に挙げながら、生活支援的なものは本来は厚労省や総務省の仕事であり、農水省が行なう農村振興はあくまでも「業」としての農業がされる場について。生活支援に類するものを永続的に支援することはできないと明言した。中山間直接支払も、平場と中山間地域の営農条件の不利を埋めて農業生産の維持につなげていくのが目的。それなのに、個人ではなく集落を基盤にした制度になっていることが「混乱のもと」という言い方もした。

一方、委員の側からは「農村地域、特に中山間地域では、営農と生活の一体性がある」という考えや、2000年に中山間直接支払が創設されたときから「農業生産活動と農地保全を担保するにも下支えとして集落の維持が必要」という前提があった、という見解が示された。

付記しておけば、冒頭でふれた全国町村会の意見書にも同様の意見がさらに強く記されている。

「今回の方針変更の背景には、集落における営農活動と暮らしを分離する発想があるように感じる。そうであるならば、中山間地域に暮らす人々に思いを寄せない、実態も踏まえない、構想力が欠如した対応と言わざるを得ない。(中略)こうした考え方は、『地域社会の維持』を盛り込んだ改正『食料・農業・農村基本法』や、現行の『食料・農業・農村基本計画』にある、農業政策と農村政策を『車の両輪』とする、政府の方針にももとるものと考える」

委員会の中で農水省からは、20年に5期対策で集落機能強化加算が始まったときから「地域づくりなどの団体の設立」や「集落内外の組織との連携体制の構築」が前提だった(それができていないから廃止)という説明もあった。だが5期対策のパンフレットにそんな記述はない。委員の発言に「手のひら返し」という表現もあったが、大きな方針変更が先にあっての否定、廃止を決めてからのその論拠づくりという印象を受けた。

結局、第三者委員と農水省、双方の見解は最後まで対立したままで、8月30日に公表された第5期対策「最終評価」をもう一度見直すという異例の展開となっている。(注3)3


  1. 注1)全国町村会の「中山間地域等直接支払制度の見直しに関する意見」https://www.zck.or.jp/site/activities/32236.html ↩︎
  2. 注2)第11回第三者委員会の議論の様子が、日本農業新聞のウェブサイトで読めます。
    https://www.agrinews.co.jp/news/index/272204
    https://www.agrinews.co.jp/news/index/272205
    https://www.agrinews.co.jp/news/index/272206 ↩︎
  3. 注3)農水省の見解などが示された資料がPDFファイルで入手できます。
    https://www.maff.go.jp/j/nousin/tyusan/siharai_seido/s_daisan_5ki/11.html ↩︎
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小田切徳美 著
「にぎやかな過疎」とは「過疎地域にもかかわらず、にぎやか」という、一見矛盾した印象をもつ農山漁村のこと。14章からなる本文に加え、「農的関係人口」などの基礎用語を、著者独自の視点で解説するコラム「農村再生キーワード」を11記事収録。註には本書の背景の深掘り解説や、参考図書の紹介なども多数盛り込む。農村再生のための政策構想を論じた『農村政策の変貌』(2021年)の続編であり、コロナ後の社会と2025年基本計画以降の展開を見据え、農村の過去~現在、そして未来への展望まで総合的に見通す一冊。
佐藤洋平 監修、生源寺眞一 監修、中山間地域フォーラム 編
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