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季刊地域Vol.60(2025冬号)試し読み

栃木

最も美しく、最も収穫多き里山林のつくり方 誰でもできる里山林業

里山林業とは、山に勝手に生えるお宝植物(天然枝物)で稼ぐ新しい林業の形。ナタ1本で、適度に手を入れながら、美しい里山林を取り戻す。『ナタ1本ではじめる「里山林業」』の著者がそのエッセンスを紹介してくれました。

津布久 隆(栃木県県北環境森林事務所)

里山林業 ―― 手間をお金に換える知恵

高齢者でもできる3Kの仕事

 山づくりを進めるには、育てようとする樹木の生長を妨げる植物を除去する必要があります。このため幼齢林では主に草本を刈り払う下刈り、若齢林では灌木などを切り払う除伐を行なうのが常です。 

 1955年頃までは、これらの施業で切り払った植物は資源として活用されていましたが、化石燃料や化学肥料が手軽に手に入るようになった現代では、林内にそのまま放置されるようになりました。

 でも、何かもったいない。「収穫下刈り」や「搬出除伐」にして小遣い稼ぎにできないものか……。それを行なうのが里山林業です。販売先は主に花卉市場。用途は生け花やインテリアなどに使われる「枝物」です。徳島県上勝町で有名な葉っぱビジネスを小枝で行なうと思っていただければ、わかりやすいかもしれません。里山林業は、ナタ1本あれば高齢者でも女性でも始められ、軽くて綺麗で気楽な3Kの仕事です。そんなのは机上の空論だといわれそうですが、実際に私は山から木の枝を採ってきて、花卉市場に出荷しています。高いものでも1本100円程度にしかならないので、採取して梱包して発送するという手間を考えれば、けっして儲かる作業ではありません。でも、これまで価値がないとされてきた植物たちを、おカネにできるのは事実です。Time is Money ならぬ Tema is Money とでもいいましょうか。

筆者。知り合いから管理を任された山で里山林業を始めて5年目。自ら収穫するだけでなく枝物狩りツアーも開催

枝物は今後が期待される商品

 生け花をたしなむ人は年々減少していて花材の需要は先細りだろうと思われがちですが、そんなことはありません。

 試しにスマホで「花いけ」と検索してみてください。「全国高校生花いけバトル」のサイトが見つかり、とても躍動的な作品の数々が目に飛び込んできて、これまでの生け花に対する印象が大きく変わるはずです。わが国伝統の花を生ける文化は、形を変えつつもしっかりと若者たちに受け継がれているのです。

全国高校生花いけバトルの様子。枝物を使った生け花も数多くみられる

 また、インテリア用の枝物は近年輸出が好調で、特にドウダンツツジは供給が追い付かないほどの人気です。枝物は今後が大いに期待される商品なのです。

必要な初期費用はごくわずか

 枝物の採取に必要な道具は、基本的にはナタ1本ですが、柄の長い鎌や小型のノコギリ、剪定バサミはあったほうが便利です。さらにお勧めしたいのが、長い収穫物をコンパクトにまとめて運べるベンリークロスという収穫布。

 それ以外にはバケツと枝を束ねる梱包用のビニールヒモ、ラッピング用の透明マルチなどがあれば出荷できます。里山林業を始めるのに初期費用はたいしてかかりません。

 枝を切る長さは、運びやすいように自分の背丈くらいを目安とします。多少短いと思える枝は無理に採取せず、翌年まで待ちましょう。新緑や紅葉が美しい枝は特に人気があり、真っすぐな形状より多少曲がっていたほうが好まれるようです。

 また、樹木だけでなく、雑草が商品になることもあります。このため、山で収穫する時は、上だけでなく下にも注意を払ってキョロキョロしながら歩く必要があります。この様子を私は「里山林業メガネをかける」と呼んでいます。

写真=曽田英介

セリ、直売所、ネット産直……販売方法はいろいろ

 お宝になりそうな植物が収穫できたら、収穫布で包んで作業場まで運び、すぐに水を入れたバケツに挿します。出荷する際は、一般的な枝物は10~20本程度、草本は30本程度で束ねます。あとは輸送中に葉や花が傷むのを防ぐため、透明マルチで包めば商品の完成です。

山で収穫した枝を種類ごとに束ねて、透明マルチで梱包。山にあるたくさんの枝を少しの手間で稼ぎに換える 写真=曽田英介

 販売方法は、まずは花卉市場に販売委託するのが簡単でお勧めです。市場の多くは、週3日(月・水・金曜日)、朝7時頃からセリを行なっています。また、オークネットという会社は、インターネット上で在宅のままでセリができる専用サイト(ネット市場)を開設しています。

 こうした「市売り」に対し、地元の農産物直売所で直接販売する方法もあります。梱包の手間や運送費などをかけずに済みますが、花材の品揃えが豊富でそれを目的に訪れるお客さんが多い直売所であることが成功の条件です。

 近年は、インターネットを使って消費者に直接販売するというネット産直も増えています。自宅にいながら商売ができて、発送も近くのコンビニから送れます。まさに今の時代にふさわしいですね。

 地元の生け花教室に直接納める販売方法もあります。新鮮な花材を届けられるうえに、自分の商品を手にしたお客さんの笑顔が見られるという喜びもあります。

 どの販路にもメリット・デメリットがあるので、自分の里山林業の規模やコンセプトに合った売り方を探しましょう。

 なお、けっして山に生えている植物がすべて商品になるわけではありません。私がこれまで実際に販売してきた植物とその値段について、2024年11月に出版したばかりの『ナタ1本ではじめる「里山林業」 山採り枝物で稼ぐコツ』に詳しく記載してありますので参考にしてください。

里山林業に適した山づくり

手入れ不足の里山は若返りが必要

 里山林業を始めようとしたけれど、数十年手入れをしてこなかった暗い里山林には、枝物として商品になる植物は林縁に少し生えている程度だった、ということがよくあります。そのような場合は思い切って高齢木を伐採して山を若返らせましょう。

 太陽の光が林床に届くようになれば、さまざまなお宝植物に生育のチャンスを与えることができます。

 また、山の若返りは災害防止にもつながります。近年わが国では、大雨や台風などで重要インフラ沿いの立ち木が倒れて生活に大きな支障が出たり、キャンプ場などで人身事故が発生したりと、身近な樹木の高齢・高木化が社会問題になっています。これに追い打ちをかけるように健全なナラ類を突然枯死させてしまうナラ枯れ被害も全国に広がっています。里山林の高齢木を伐採して若い林に戻すということは、倒木事故や森林病虫害に対するとても有効な予防手段なのです。

皆伐ではなく抜き切りで山づくり

 森林を伐採する時には、そこに生える植物をすべて切る「皆伐」が一般的です。しかし里山林業を行なうのであれば、樹種や樹高、林齢などがいろいろ混在した森林のほうが望ましい。そのため、伐採の手間は多少増えるかもしれませんが、今後さらに生長させたい一部の高木を残す「抜き切り」で多様な環境づくりを進めます。

盛岡木材流通センターに並ぶ広葉樹の原木。年々その価値は高まってきている

 また、伐採した木は搬出して、用材として販売する道を探りましょう。昨今のウッドショックで広葉樹の原木が世界的に高騰。それを契機に、わが国に蓄積された広葉樹資源も国外から注目されています。従来から家具用やウイスキー樽材として価値が認められていたミズナラを筆頭に、クリや…

特集:里山・裏山林業を成功させる!」のコーナーには以下の記事も掲載されています。ぜひ本誌(紙・電子書籍版)でご覧ください。

  • ・山の多面を使って楽しむ林業
  • ・スギ林の林床キノコ栽培で稼ぐ
  • ・ススキ、コケ付きの枝、人気の実物
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津布久 隆 著
里山林業とは、山に勝手に生えるお宝植物(天然枝物)で稼ぐ新しい山林経営。ナタ1本で誰でもでき、肥料も農薬も要らない。売れる枝物リストから採取・出荷の実際、多様な販路まで、まるごとわかる「里山林業」入門
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