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最新号より試し読み季刊地域No.61 (2025春号)

山形

【地域まるっと中間管理方式で農家を増やす】適地適作ゾーニングで特産品を栽培Iターン就農者を呼び込む

過疎化が進む中、地域農業を守る新たな挑戦が始まった。「地域まるっと中間管理方式」を導入し、農地集約や特産品のブランド化を推進。宇津沢カボチャや雪室ジャガイモなどの特産品を活かし、就農希望者も受け入れる。持続可能な地域づくりを目指す取り組みに注目が集まる。

飯豊町・一般社団法人ふぁーむなかつがわ、文=編集部

無住集落が出てきた

「もはや、地域自体がギリギリのところまできています。限界集落、消滅集落ですよね」

 そう話を始めたのは一般社団法人ふぁーむなかつがわの代表を務める鈴木泉さん(64歳)だ。

 山形県飯豊町の中津川地区は白川ダムのさらに上流、置賜白川沿いに広がる山間部の地域。1969年のダム着工とともに14集落のうちの四つが沈んだが、それを機にむらづくりに奮起。71年に立ち上がった住民全戸参加の組織は、中津川地区むらづくり協議会と名前を変えて現在まで活動を続けている。

 冬場は3mまで雪が積もる豪雪地。雪を夏まで保管する雪室をつくり、真夏の雪まつりを開催するほか、雪室で貯蔵した農作物をブランド化した生産組合もある。集落ぐるみの観光ワラビ園や農泊施設など、むらにあるものを存分に活かしてきた。

 それでも、簡単に人口減少や高齢化が止まるわけではない。現在90世帯200人が暮らす地区の中に2025年春にはいよいよ無住となる集落が出てきた。

鈴木泉さん(64歳)。中津川地区むらづくり協議会の代表も務める

農地利用を把握できる

 02年に中津川の農地を守るために立ち上がり、離農した人から順々に農地を引き受けてきた集落営農組織からは、これ以上は手いっぱいで遠隔農地を管理しきれないという声が聞こえてきていた。

 このままでは農地が荒れていってしまう。むらづくり協議会の中に農業検討特別委員会ができたのが、21年のこと。構成員は担い手農家や農業委員など9人だ。

「農業をどうにかしないといけないと考えているところに、町の農業委員会長だった方が、『地域まるっと中間管理方式』の情報を研修で仕入れてきてくれて。それで動き出したんです」

「地域まるっと中間管理方式」とは、営農と農地の利用調整を担う一般社団法人を設立し、農地中間管理機構を通じて、地域の農地をいったんすべて一般社団法人に集積する仕組み。担い手や自作希望者は「特定農作業受委託」で、これまでどおりの営農を続けられる。

「今、集落営農や認定農業者で頑張っている方がいる。さらに、高齢になってもしばらくは田んぼやるよという方もいる。そういった方が今まで通り耕作を続けながらも、一般社団法人ですべての農地の状況を把握できる形なんです」

 では、すべての農地を把握できるとどんなことが可能になるか?

 担い手ごとに農地をまとめて圃場間の移動時間が減れば、まだ面積を増やせるということもあるだろう。「まるっと」なら、こうした農地の集約が、法人内の調整だけでできる。

 もう一つは作物ごとのゾーニングだ。これは、雪室ジャガイモなど地域色ある作物の生産を一層盛り上げるのにも役立ちそうだ。品目ごとに適地適作でゾーニングすれば、栽培しやすくなるし、獣害の電気柵もまとめて張ることができるだろう。農地をどう使っていくか、耕作者も農地の出し手も、みんなが会員の一般社団法人で考えられるというのがポイントになる。

 こうして23年5月、むらづくり協議会の了承を得て一般社団法人ふぁーむなかつがわが立ち上がった。1年間かけて126haのうち59戸68haの利用権設定を済ませた。残りの農地の多くは集落営農が引き続き耕作している。

適地適作で稼げる農業に

「法人で地域の農業を担っていくとすれば、儲かる(労賃を払える)農業をやっていかないといけない。米に加えて特色ある園芸作物をつくっていきましょうという話もあるんです」

 法人には、直接耕作をして農地を守っていく役割もある。認定農業者になるための農業経営改善計画も策定し、24年には10haほどの面積で営農を始めた。

 耕作することになった農地の中には、遠隔農地でこれまでの集落営農では管理しづらかった場所も含まれる。

 例えば、川沿いの平地から山へ上がっていった場所にある宇津沢集落。ゾーニングのイメージ図をよく見るとそこには「宇津沢カボチャ」とある。じつはこのカボチャ、この集落でしか栽培できない伝統野菜で、なんと1個1500円で販売されているそうだ。

 作業効率はよくしたい。だが、遠いことを理由に敬遠していた農地が、何をつくるか、何に適しているかという観点を優先すると、見え方が変わってくる。

 法人では、特産品として販売できて管理に手がかからず、収穫時期をリレーできる露地野菜の品目にねらいを絞っている。宇津沢カボチャのほか、雪室ジャガイモや雪中キャベツなどだ。

 今後、直接耕作する面積を増やしながら、牧草などの転作作物や稲作も組み合わせて収入を確保しようと考えている。

就農希望者を受け入れる

 中津川に合った農業を構想しつつ、後継者の確保にも乗り出した。

「法人の農業経営改善計画には『目標とする雇用人数2人』と書いたのに、それ以上来てくれたらどうしようと思っているところ」と、冗談交じりに想定外のうれしい困りごとを話してくれた。

 聞くと、24年8月に就農希望者が集まるイベントに法人として参加して、20人もの人と面接できたそうだ。これまで他地区の大規模農家が参加することはあっても、地域ぐるみで農業者を呼び込もうと出かけたのは初めてのことだ。

 さっそく10月には神奈川から20代の男性が農業体験に・・・

集落営農・農村RMOで増やす」のコーナーには以下の記事も掲載されています。ぜひ本誌でご覧ください。

  • ・地域計画をきっかけに 農地と担い手のこと考えた
  • ・農村RMO立ち上げを機に「中継ぎ」世代が立ち上がった
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