
米価高騰で、連日のように米の話題が報道されます。集荷業者、米卸、JAの概算金、相対取引……といった用語を、目にしたり耳にしたりする機会が増えました。10年前の『季刊地域』2015年冬号(No.20)では、現在とは正反対の米価がいちばん下落した年に「お米の流通読本2015」という特集を掲載しました。前回同様この号の記事を振り返りながら、米の流通について確認してみたいと思います。
文=編集部、イラスト=アサミナオ

●JA新ふくしまで聞いてみた
編集部の新人記者A子が訪ねたのは、福島県中通りのJA新ふくしま。米の独自販売に力を入れる農協だ。
「概算金は普通、JA単独では決めません。米は『県域共計』といって、売り上げや流通経費を県全体でプール計算(共同計算)するシステムなので、概算金も全農県本部が単協とも相談しながら決めて、発表するものなんです。ただ、うちの場合は独自販売をやっているので単協内での共計となり、独自の概算金を設定しています」
概算金とは
秋に農家に支払われる仮渡し金。その後、米の販売状況を見ながら追加払いもあるが、1 ~2年後にようやく県域共計で最終精算となる。全農としては、概算金より安くしか売れなかった場合、農家に「概算金を返してくれ」とはなかなか言えない。赤字になることがないよう、1割くらいは「危険率」を見て、低めに設定している。
そういう農協は少ないんですか?
「14年産はあまりに概算金が安かったんで、県内の農協は上乗せをしたところも多かったんですが、独自販売をまったくしてこなかったところは全農福島が決めた概算金で集荷したみたいです。福島は地区ごとに概算金が違って、このあたり(中通り)は、コシヒカリ1俵7200円。大変なことでした」
えっ!? 1俵(60kg)7200円ですか? それは安い。1袋(30kg)の間違いかと思いますね。
「そうなんです。そこまで安くなるとは思ってなかったので、農協独自の概算金も予定より下げざるを得ませんでした」
概算金ってどうやって決めるんですか?
「年間の販売計画を練って、どこにどれくらいの量が、いくらで売れそうかをエクセルの表に入力して考えます。概算金が1万円の場合、9800円、9600円……という感じで何パターンかシミュレーションして、いくらまで農家に払えるか決めていくんです」
へえ、緻密に考えるんですね。だけど、県の概算金が下がると農協独自の概算金も下がっちゃうんですね?

「独自販売率は4割で、全農出荷分がありますから。それに、県の概算金が安くなると、卸の相場観も影響を受けます。うちの販売分も多少安くせざるを得ないでしょう」
そうか。概算金って影響力大きいんだよな。全農が発表したとたん、全国で米の値下げ合戦が始まった、って誰か言ってた。概算金が安くなると農家が大変って思ってたけど、世の中全体にとってもこれは一大事なのかも。
●研究者にも聞いてみた
ここはもう少し客観的な視点も持たないと、と思ったA子、シンクタンクで米政策や農協のことを調べている若手研究者に会いに行った。でも……概算金や米価のことはA子が思っているよりもずっとセンシティヴな問題のよう。「インタビューには答えるけれど、誌面に名前は出さないで」と言われてしまった。ちょっとドキドキ。
あのぅ、概算金ってどういうふうに決まるんでしょうか?
「概算金は社会的影響力が大きくて、その年の米の相場をつくってしまうものではあるんですが、各県事情も違うので、決め方についての全国統一のルールなどはないようです。米の売れゆき・相場観、それから各県全農のフトコロ事情などが影響してきます。

今回、概算金が下落することは、流通に携わる方々は、市場の雰囲気からある程度予想してたことなんですが、軒並み1万円割れで過去最低となったことは、農家の方々にはショックが大きいだろうなと思います。皆さん概算金=米代金というイメージを持ってますから」
概算金=米代金という考えはおかしいんでしょうか? 「追加払いは期待できない」っていう農家のほうが多いんですが。
「概算金はある意味、信用取引といいますか、まだ売り先も販売価格も決まってない米を農協が預かって出来秋に仮払いするわけですね。これまでは最終精算額に近づける形でできるだけ高く設定するのが普通でしたが、そこまで出さず、たとえば5000円を内金で払ってあとは追加払いでというやり方も、とれないわけではないのです。もし概算金というシステムがなければ、農家は秋に当座の運転資金を借りて、1年かけて自分で米を売りながら借金を返していくという形になる。実際、農協に出していない農家はそうやって売っている人もいます」
なるほど。概算金ってありがたいシステムなんですね。
「ただ、概算金もそうですが、食管制度をひきずったまま長いこと続いてきた米のシステム、たとえば出来秋に一括して払いますとか、売り先が決まってても決まってなくても、品質が違っても、みんな同じ価格で計算するとかいうことは、仕組み的にいずれ持たない。変わっていかざるを得ないと思います。米政策自体も、売れるか売れないかわからないのに米をつくる、水田面積を維持するためにつくる、ということでは限界が来るのではないでしょうか。国も、今回は米の買い上げなどの価格介入をせず、ある程度、流れにまかせてみようとしているようです。ある意味、社会実験ですね」
社会実験かあ。でも実験してるうちに、おじいちゃんやむらの人たちがどんどん米づくりやめちゃうんじゃ困るんだけどなあ……。ん!? それが国のねらいかも。今回の米価下落、じつは奥が深いのね。
(この記事は、『季刊地域』2015年冬号「A子、農協へ行く! 『概算金』ってなに? なんでそんなに下がったの?」の一部抜粋です。全文は「ルーラル電子図書館」でご覧ください)
ちなみに2024年産米の概算金は、たとえば秋田県のあきたこまちでは1万8800円と、10年前(2014年)の2倍以上です。しかし、これだけでは現在のような高騰にはなりません。次回は米卸のインタビュー記事を振り返りながら、相対取引価格について見てみましょう。
米価高騰を考える(全6回)
- Vol.1 ご飯1杯54円は高いか?安いか?
- Vol.2 お米の値段はどう決まる①――JAの概算金とは?