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試し読み季刊地域Vol.57 (2024春号)

和歌山

応援される秘訣 1029万円を調達したクラウドファンディング|地域マーケティング講座 #2

2025年10月23日、『季刊地域』の執筆陣が語る全2回のセミナー「ゆるがぬ暮らしをつくる~『季刊地域』セミナー」が開催されます。セミナーを記念して、第1回講師・猪原さんの連載をご紹介。セミナーへの参加前に、ぜひお読みください。

執筆者:猪原有紀子(和歌山県かつらぎ町・くつろぎたいのも山々)

人生初のクラウドファンディング

 「想いに共感してくれる仲間や、応援者がほしい。でもどうやって仲間を集めればいいんだろう」

 そんな読者の皆さんに、今回は私の人生初のクラウドファンディングの話を通して「応援される秘訣」についてお伝えしようと思います。

 2021年レディーフォーというサイトで、733人の方から1029万円のご支援をいただいた私のクラウドファンディング。お会いしたことのない数百人の方々が、フェイスブックやインスタグラムで私の挑戦をシェアしてくれました。誰にも知られていない私の小さな挑戦が、あれよあれよと拡散され、51日間で1029万円というとてつもない金額に到達。それだけではなく、オープン前に全国から200人以上の方が現地を訪れてくださり、応援者に恵まれました。

著者:猪原 有紀子

兼業農家でありながらソーシャルビジネスを複数立ち上げる。「無添加こどもグミぃ〜。」販売、「くつろぎたいのも山々」運営、女性の社会起業スクール「SBC」主宰、株式会社やまやま代表取締役。

「クラブハウス」に飛び込んだ

 「子連れでも疲れない観光農園をつくりたい! 」と、農業未経験だった私がなんとか認定新規就農者になり、800坪の耕作放棄地を見つけ、3700万円の借入をしたのは2021年の頃でした。

 当時、まだ6歳、5歳、2歳の3兄弟を育てながら、地域のママ友に助けられなんとか開拓を始めていたわけですが、その途中でコロナがやってきて、800万円の資金が足りなくなってしまったのです。

 私が移住した和歌山県かつらぎ町は人口1万5000人ほど。SNSの発信などもスタートしたばかりで誰も私のことを知りません。もちろん「かつらぎ町ってどこ? 」そんな状態でした。

 資金が足りないため、クラウドファンディングという選択肢をずっと前から考えていましたが、勇気が出ないし、1人で挑戦するには大変すぎる、と数カ月間、見て見ぬふりをしていたのです。

 しかし、これ以上オープン日が延びてしまってはダメだと切羽詰まっていたある日。どうしても夜寝ることができずに、クラブハウスという音声SNSを初めて聞きました。

 そこで、当時読んでいたメールマガジンの著者が話されている様子を聞いて、とっさに「これはいかなければ!!」と思い、「和歌山県のいのはらゆきこです! 子連れでも疲れない観光農園をつくっています!」と必死でお伝えしました。

 すると「すごいじゃん」と、その場にいた50人ほどの方とつながることができ、クラウドファンディングも考えているという話をすると「応援します!」と言っていただいたのです。

 そのとき夜中の2時をまわっており、翌朝は「夢だったんじゃないか」と不思議な気持ちでした。誰も知らない私の取り組みを50人の方に一度に知っていただけるなんて。そして「応援します! 」と言っていただけるなんて。クラブハウスすごい! と思いました。

可視化して人に伝える

 応援される秘訣その1は、自分の考えや想い、取り組みを人に伝えるということです。どれだけ熱く深く自分の中だけで考えていても意味がありません。現実は動かないのです。その取り組みが誰を笑顔にするのか? 誰の役に立つのか? わかりやすく、たくさんの人に伝えてみましょう。

 私がおすすめするのは段ボールで制作する「プレゼンブック」です。私はこのプレゼンブックによって、1人も知り合いのいない町でたくさんの応援者と出会うことができました。自分のつくりたいものを写真や絵で可視化するのです。

段ボールでつくったプレゼンブックを持つ筆者。パワーポイントやA4サイズの紙の資料よりインパクトがある。詳しくは次号で
段ボールでつくったプレゼンブックを持つ筆者。パワーポイントやA4サイズの紙の資料よりインパクトがある。詳しくは次号で

なぜ?を伝える

 応援される秘訣その2は「なぜそれをやりたいのかを伝える」。例えば私の観光農園「くつろぎたいのも山々」のコンセプトは「子連れでも疲れない観光農園」なのですが、何をするのか、の「WHAT」だけでは共感は生まれません。なぜ、そもそもこの場所をつくりたいと思ったのか? 「WHY」の部分に共感が生まれるのです。

 私は都会で子育てをしていたので、子供たちに自然体験をさせてあげたいと、イチゴ狩りやシイタケ狩りによく出かけていました。しかし、ほぼすべての観光農園には、授乳スペースがありません。きれいなおむつ替えスペースもありません。

 ベビーカーのまま摘み取りができないので、抱っこひもをしたまま、上の子供たちの写真を撮影しながら、汗だくでイチゴ狩りをするという修行のようなことをしなければなりませんでした。一瞬たりとも子供から目を離せないので、シイタケ狩りにBBQがついていてもゆっくりご飯も食べられません。野外といえど子供たちが大騒ぎすると「すみません。すみません」と店員さんや他のお客さんに気を遣って、体力の疲れと、気疲れがMAX状態。

 そんな原体験から、子連れでも疲れない観光農園をつくりたいと思った私は、子供の遊び相手をスタッフがしてくれて、かつ授乳スペースやおむつ替えスペースも完備。土日祝日は小学6年生以下の子連れでないと入場できず、大騒ぎ大暴れ大歓迎。お母さんがいっさい疲れない観光農園をつくることを決めたのです。

筆者の観光農園・キャンプ場では、スタッフが子供の遊び相手をする
筆者の観光農園・キャンプ場では、スタッフが子供の遊び相手をする

 この話をすると「わかる!! そんな場所あったら最高!」とたくさんの子育てママ、そしてパパが共感してくれました。

 なんでそれをやっているのか? この「WHY」を伝えることで、同じ経験をしたことのある人たちが共感してくれるのです。

リスクをとる

 応援される秘訣その3は「やりたいことのためにリスクをしっかりとる」です。私は、子連れでも疲れない観光農園をつくるために、会社員の夫を連帯保証人にして3700万円借金をしました。そして10年勤めた会社も辞めました。「リスクをとらないとリターンはない」という言葉がありますが、自分がとれるリスクは何なのか? それをしっかりとるということが大事だと思います。私が「こんな観光農園をつくりたいんです!」と、声高に叫んでも、実際に資金の用意もしておらず、その取り組みに時間も使っていなければ、誰も応援してくれなかったことでしょう。リスクをしっかりとって挑戦していることで本気度が伝わります。

応援されるということ

 「応援してもらう」ということは当たり前のことではありません。ありえないくらい特別なことです。なぜなら、私を応援してくれたAさんは、自分の子供との時間や仕事の時間など、Aさんにとって大切な時間の優先順位を下げて、私を応援してくれているということだからです。

 Aさんが私に誰かを紹介してくれたとします。私が何者なのか情報をまとめて、メールを送ってくれたり電話をしてくれたりします。それだけでAさんの命の時間をいただいているのです。私と紹介された人がズームで話すとなった場合、Aさんも同席してくれたりします。その時間もAさんの命の時間です。

 応援されるということは、応援者の命の時間をいただいているんです。

 だから、応援されることって難しいんです。簡単なことではありません。その重みを理解して、誰かが自分に時間を使ってくれたら最大限の感謝を表わしましょう。

応援されない人

 クラウドファンディング期間、他の人もクラブハウスの中でクラウドファンディングに挑戦する、という状況が起きていました。他の人の言動を聞くとたくさんの学びになりました。なかなか応援されない人は、いくつかの共通点があることに気がついたのです。

▼長い話はストレス

 まず、話が長い。他人の話を聞くことは誰にとってもストレスです。それなのに、だらだら取り留めもない話を長くする人は、どれだけいいことをしていても、応援者が生まれません。会話のボールをずっと自分だけで持っているのではなく、その場にいる人に投げましょう。

 例えば、「私は子連れでも疲れない観光農園をつくろうとしているのですが、○○さんは子連れのお出かけで何に疲れますか? 参考に教えてください」といった形で、相手にどんどんボールを投げる。コミュニケーションが活発になり、結果的に自分の取り組みに興味を持ってもらえます。

▼マイナス発言の多用

 応援されない人の特徴その2は「でも」「だって」を多用する人です。

 クラウドファンディングに挑戦していると、たくさんの方が「もっとこうやればうまくいくんじゃない?」といったアドバイスをしてくれます。中には「それはもうやっている」とか「やってみたけど違った」とか「それは全然意味がない」などと感じることがあるかもしれません。

 しかし、「でも」「だって」などマイナスな発言は厳禁です。どれだけ的を射ていないアドバイスであっても、私のためを思って時間を使ってくれていることに変わりはありません。応援されない人はマイナスな発言をして、応援の灯火に水をピシャっとかけてしまいます。なので、すべてに対して「ありがとうございます! 」です。

応援されないことには始まらない

 私が提唱する「地域マーケティング」は、地域の資源を活用し、顧客が求めている魅力的なサービスをつくること。そして、それを提供することで利益を上げる営みのことです。サービスをつくる過程でターゲットに共感・応援されないものが魅力的なものになるはずがありません。サービスをつくっている人が応援されるから、サービス自体が応援され、魅力的なものに仕上がります。

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松永桂子 編著、尾野寛明 編著
いま地域をベースに活動する20歳代後半から30歳代くらいの世代からは、地域社会に貢献するというよりも、自分がしたいことに地域の課題解決の方向性をすり合わせていく――そんな生き方、働き方がみえてくる。そうした社会のデザイン能力が花開く場として地域が受け皿になっている。農山村や地方都市、大都市の下町で活躍する一人ひとりの「なりわい」づくりに光を当て、そのライフスタイルや価値観を浮き彫りにする。若者を地域の担い手として育成する中間支援組織についても詳述。
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