3月11日の東日本大震災は、東北沿岸部に甚大な被害をもたらした。新学期を控えて教科書の準備をしていた書店・教科書取次供給所店(以下「取次店」)も例外ではない。まさに納品直前の教科書を、巨大な津波が飲み込んだ。

震災当時は津波で製紙工場が被災、インク不足で増刷も困難に

「教科書が心配だ」。2階にいた釜石市の書店の社長は3階に逃げずに、1階の教科書保管場所へと駆け下りた。数秒後、津波が店を襲い、教科書はもちろん社長の姿も一瞬で消えた。残された夫人が、3階の窓から両手をクロスして、高台に避難していた息子へ無言で夫が消えたことを伝えた。

 この出来事は、教科書を子どもたちに完全供給するという取次店の責務と使命感を物語っている。

 取次店の納品を段取りする岩手教科図書の冨山さんは、当時を次のように語る。

「一般書籍と比べ利幅のない教科書納品だけを考えれば、採算の合う仕事ではありません。だが、新学期に教科書を子どもたちに届けることは、子どもたちの未来、地域教育の発展にも直結する。新学期を迎える取次店の責任は重いのです」

 今回、取次店が被災した大槌町や釜石市、陸前高田市は、岩手教科図書が学校や各教育委員会と連絡をとり直接納品した。片道3時間、その数は40校にのぼる。

取次店への段取りを行なうのが、教科書特約供給所の役割

「きびしい状況のなか、本当にありがとう。これで新学期を迎えられます」と、現場の先生に大粒の涙を流しながら感謝されたことを冨山さんは忘れない。

 被災した家族の度重なる移動で、多くの子どもたちが転入、転出をくり返す。教育事務所が違えば採用されている教科書も異なるため、取次店は部数を確保しなければならない。最終的に岩手の子どもたち全員に教科書が無事に渡ったのは、6月初旬のことだった。

「被災地には、教育にかかわる支援物資が多く届けられました。だが今後、子どもたちに必要なのは、地域に根ざした教育文化の拠点です。そのひとつが書店・取次店。継続して支援することで、教科書の完全供給だけでなく、教育文化の復興にも努めたい」と、冨山さんは決意を新たにする。

岩手教科図書株式会社
〒020-0891 岩手県紫波郡矢巾町 流通センター南1-9-22
電話 019-637-7880
http://www.iwakyo.jp/

文=農文協東北支部 高橋宣三

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