耕作放棄地と楽しくつきあう

2012年3月31日発売 定価926円(税込)

現場で「事実に驚く」ということ

土佐の森・救援隊「林業女子」

この春から自伐林家でアルバイトの予定
(撮影=高木あつ子)

 本誌の前身『増刊現代農業』の2001年5月号「地元学とは何か」に風土文化研究所の今井史さんが「『事実に驚け』という意味」という一文を寄せていた。要約すると――地元学では、地域はもともと個別であり固有のもの。過疎高齢化、後継者不足、耕作放棄といった通念や固定観念では、地域の営みはけっして見えてはこない。日本の農山漁村を通念や固定観念で切り捨てるのではなく、地域の今の実態、今までの歩み、これからという固有の事実に向き合って驚くことが、地元学という協働を可能にする。

 一方で、国の「人・農地プラン」「森林・林業再生プラン」の元となる「食と農林漁業の再生のための基本方針・行動計画」は、書き出しから通念、固定観念の羅列。
「我が国の食と農林漁業は、所得の減少、担い手不足の深刻化や高齢化といった厳しい状況に直面している。農山漁村も活力が低下しており、食と農林漁業の競争力・体質強化は待ったなしの課題である」――その競争力・体質強化のための手段は、あいも変わらぬ「大規模集約化」。そのために農地の「出し手」には「農地集積協力金」が支払われ、森林所有者の私権制限が強化される。大規模集約化の前提は、多くの人びとが農林業をあきらめたがっているという上から目線の通念、固定観念だ。

 しかし、NPO法人・土佐の森救援隊の中嶋健造さんは、3人で6m³のヒノキを間伐、搬出し、それが1日で15万円の収入になったという事実に驚き、高知県仁淀川町での住民アンケートで、回答者805人のうち704人が山林所有者という事実に驚く。そして、不在地主だけを取り上げ問題視するより、地元に住む多くの山林所有者を支援すべきだと、林地残材の収集運搬から自伐林家を育てる「土佐の森方式」の普及に全国を奔走する(52ページ)。漁業でも、現場で事実に驚くことが、上から目線・都市目線の通念、固定観念にもとづく「改革」プランを打ち破る(106ページ)。

──編集部

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