松山市駅前に松岡省自さん(63歳)が店を構えて35年になる。大学を卒業後、家業の水道工事を手伝っていたが、一念発起して書店を開業。当時、市内には書店が少なく、大手量販店もなかった。「ビジネスチャンスを求めた開業」と語る松岡さん。事業はそこそこ順調で、今では郊外も含め3店舗になった。

 そんななか2009年、松岡さんは創業店を突如、郷土本専門店に衣替えしたのだ。きっかけは、現在の出版流通への疑問からだ。 書店の収益源となる雑誌はコンビニに食われ、中央の出版社の洪水のような新刊配本と返品に追われる日々。郷土本はすぐに店頭から姿を消してしまう。

「本が好きだし、郷土に生きる人間として無念もある。郷土本がある限りは、みなさんに知ってほしい」。中央偏重の出版流通からの離脱と郷土文化への想いが、松岡さんに決断させた。

 現在取り扱っている郷土本は450点。県内には地元出版社が5社あるが、既刊本はすべて取りそろえた。なかには書店流通に必要なISBNコードがない自費出版の本まである。

「これ以上の郷土本専門店はないと、お客さんに胸を張って言える」と松岡さん。松山空港の売店にも郷土本コーナーを設置し、全国の郷土本フェアも開催した。やがて空港店は郷土本が市内で一番売れる店となった。

「地元出版社は販売面で不利だが、本があるということは、そのまちの文化レベルが高いということ。郷土本は手にとってもらうことで出版が続けられる。そのための場所を提供するのが、地方書店のあるべき姿ではないか」

「のぼさんのひと箱古本市」を毎週土曜日に開催。1冊が10円から50円と安価でお客さんにも大好評

 日常のなかにある文化をくみとるのが地域出版。いま残さねば、地域文化の火が永遠に消えてしまう。

 そうした想いから2011年、松岡さんは地元の商店連盟と『のぼさんとマツヤマ』(アトラス出版)という本を制作した。松山に生家がある正岡子規を題材に、知られざる少年時代を漫画でつづった本だ。

 まちの歴史や文化を次世代に引き継ぐための拠点でありたい。郷土本専門店は地域社会への還元でもある。

県内の地元出版社は、愛媛県文化振興財団・愛媛新聞社・創風社出版・晴耕雨読・アトラス出版の5社

アテネ書店
〒790-0023 愛媛県松山市末広町18-8
電話089-946-2307

文=農文協中国四国支部 野村収平

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