2012年6月31日発売 定価926円(税込)
受け継ぐもの、受け継がせてはならないもの
5月上旬、大分県豊後大野市の夢市場直営農場、天の川生産組合取材の際に立ち寄った名勝「原尻の滝」の上流に、草むした5連アーチの石橋があり、川の手前の田を耕していたトラクターが、この橋を渡って行ったと思ったら川向こうの田を耕し始めた。付近には何の案内板もなかったが、右側の親柱には「原尻橋」、左側には「大正十二年五月」と刻まれ、100本以上の欄干すべてに「一金~円」と、寄進者の名前と金額が刻まれていた。90年近くも前の先人のおかげで、いまも地域の人びとがこの橋を行き来できているのだと思い、昨年取材した同じ水系の富士緒井路第1・第2発電所、白水ダム、長谷緒井路発電所でも、明治、大正の先人のおかげでいまも田に水を引くことができ、さらに売電収入で土地改良区の賦課金が軽減されていたことを思い出した。
福島県飯舘村で和牛繁殖を営んでいたが、福島第一原子力発電所の事故によって、いまは北海道で暮らしている菅野義樹さんは、こう述べている。
「私たち農業者は、土地は先祖から受け継いできたもの、という意識を強くもっています。土地は所有したり売買するものではなく、『受け継ぐもの』といった観点で捉えているのです。(中略)このことは農業をしていない人には理解しづらいかもしれません」(97ページ)。
土地は所有や売買の対象ではなく、「受け継ぐもの」という意識。その受け継ぎのために家があり、むらがある。「いったい何のために集落営農つくるんじゃ? おい、答えてみい。そうじゃ、正解。むらが続くため、地域を守るための組織じゃろう」と、島根県津和野町の(農)おくがの村代表・糸賀盛人さんも語っている(32ページ)。夢市場直営農場を「卒業」して新規就農した千綿学さん、前田直人さんは、農地だけではなく、獅子舞、羽熊というむらの文化をも受け継いでいる(54ページ)。
そんな「むらの意識」からすれば、子孫に「負の遺産」は絶対に受け継がせてはならない。「『人・農地プラン』を農家減らしのプランにしない」と、「原発再稼働 私たちは許さない」は、その意識でつながっている。
──編集部