1975年、初代の中田弘さんは52歳で脱サラして、奈良市西之阪町に19坪の店を開いた。

 当時、開店資金といってもわずかな退職金しかない。弘さんは奈良県下の知人をはじめ一口1万円で融資を募ったところ、集まった金額は900万円。協力者には年利10%を店独自の図書券で還元する特典を付けて返済した。その後は郊外店の出店ラッシュなどもあり、店の経営はきびしかったが、再び融資を募り、1990年、教育書・絵本を中心とする新店舗が完成した。

「『豊かな出会いをともに創ろう』をスローガンに掲げ、地域に根ざした書店を目指してきた」と、2代目の純さん(64歳)は語る。

 創業以来37年間、十津川村の巡回販売も継続。奈良市から車で3時間、「村に書店がない」という教師や子どもたちの熱心な要望を受けて毎年2回訪れている。また、県内の学校巡回販売や教育研究集会の出張販売は年間50~60日にのぼる。

 とはいっても、お客さんの代替わりは進む。若い世代のファンづくりは不可欠だった。そこで13年前から妻の睦子さん(65歳)が始めたのが、子育て世代を対象とした「パーソナルブッククラブ」(会員制)である。

パーソナルブッククラブの「カルテ」は、
厚さ8㎝のファイルで2冊分になった

 現在、会員は0歳児から大学生まで160人。睦子さんは一人ひとりの個性に合わせ、絵本や書籍を1~2冊選び毎月配本している。選書する本は、大手書店の○○コースや○歳用といったセレクト本とは違う。

「たとえ齢は同じでも、子どもの関心や性格は千差万別。昆虫好きの子がいれば、車が好きな子もいる。親が伸ばしたいと願う個性だっていろいろよ」と睦子さん。

 クラブの申込書には、お子さんの特徴、今まで好きだった本などの記入欄があり、まるで問診票さながらだ。

 以前、市内に引っ越してきた4歳の女の子に「引っ越し先に新しい友だちができる」という絵本を選んであげた。やがて母親から「子どもに何回も『読んで』とせがまれています」と、感謝の手紙が届いたそうだ。

 子どもたちの読書歴はA4判の「カルテ」と呼ばれるファイルに保管、いまでは店の宝物になっている。

現在は、1990年に移転したならやま大通り沿い

新風堂書店
〒631-0805 奈良市右京3-2-2
電話0742-71-4646
http://www5d.biglobe.ne.jp/~shinpudo/

文=農文協近畿支部 矢田哲臣

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