このコーナーは、「ゆるがぬ暮らし」「ゆるがぬ地域」づくりに取り組む、全国各地の耳寄りな情報です。webではその中のむら・まち元気便から“ちょっとだけ”公開します。

「もうひとつの津波」のその後
奇跡のあじさいプロジェクト始動

佐藤嗣高


アジサイ畑とプロジェクトメンバー。
左端が深谷武雄さん

福島から 3・11の日、須賀川市長沼地区の農業用ため池・藤沼湖の堤防が決壊。150万tもの水が下流の集落を襲い、死者7名行方不明者1名を出す大惨事となりました。本誌6号で紹介した「もうひとつの津波」です。

震災から4年、福島県中通りには今も3・11の暗い影が色濃く残っていますが、まだほんの小さいながらも確かに明るい動きを長沼地区で見つけました。

2013年春、「復興を行政まかせにせず、地域でできることは地域でやろう」と立ち上がった長沼商工会と一部住民が「藤沼湖の湖底を歩く会」を企画。下見を兼ねて何人かで湖底を歩いていたところ、15​㎝ほどに育ったアジサイの群を発見しました。これを「奇跡のあじさい」と名付け、300株を畑に移植、新芽を挿して2000株ほどに増やしました。

来年、藤沼湖の堤防が復旧予定。「そうしたら湖畔にアジサイを植えたいんだ」と奇跡のあじさいプロジェクトを先導する深谷武雄さんは夢を語ります。そしてそれまでアジサイを育ててくれる里親を募集。現在、北海道から九州まで全国に約530人の里親がいるそうです。深谷さんは「奇跡のあじさいが広がることで地域の元気につながれば」と考えており、実際、震災後バラバラになった地域が同じ目的をもって動くことで、少しずつ盛り上がってきているようでした。

また長沼地区では「奇跡のあじさい」の紫色を復興のシンボルカラーにしようと、紫イモの特産品開発もはじまっています。

長沼商工会
電話:0248‐67‐3121

季節によって味が変わる
旬の農産物で育つ「四季豚」誕生

屋宜菜々子


「四季豚」の加工品。左からベーコン、ハム、
レバーの味噌漬け

茨城から クリの産地・笠間市で、旬の農産物を給与し、季節ごとに味が変わる豚肉「四季豚」を消費者に届けようと挑戦している若き養豚家がいます。その方は(農)諏訪畜産組合の柏井一斗さん。春には飼料米を、秋には地元の特産であるクリを、冬はサツマイモの皮を、豚の体重が70㎏を超えた出荷2カ月前頃からエサ全体の2割程度になるように与えています。

四季ごとにエサを提供してくれるのは、地元の消防団や4H(農業青年クラブ)の先輩方。そもそもこの活動を始めたきっかけも、先輩クリ農家の「イベリコ豚が食べたい!」の一言でした。ドングリを拾ってくるのは面倒だから、先輩の家の規格外のクリをブタに与えてみると、喜んで食べる食べる。最初は砕いて与えていましたが、イガイガだけ取って殻のままエサ箱に放り込んでおいても、通常のエサよりも先に食べるそうです。クリ給与をきっかけに他の規格外の農産物でも挑戦。今後、ダイコンなどでもできないかと検討中です。

地元のものを食べて育った豚を地元の方に食べてほしいと、食肉加工所も設立。屠畜場でブロックにバラしてもらい、スライスなどは自宅の加工所で行なっています。これからは自宅で四季豚の肉やベーコンなどの販売もしていきたいそうです。
柏井さんの家では、四季豚とビールを囲み4Hの仲間でよくバーベキューを楽しんでいるそうです。この活動をきっかけに、飼料米を始めた先輩農家もいて、地域全体が動き始めています。

(農)諏訪畜産組合(柏井一斗)
電話:090‐9672‐8348

バラバラ販売作戦で大成功!
異業種若旦那3人衆の特産品開発

藤谷拓馬


ニューサマーサイダーを持つ若旦那3人衆。
右が田村雅彦さん

静岡から 「農業を盛り上げたい、地域を盛り上げたい」とオリジナル商品の開発に打ち込むのは、東伊豆町稲取地区の(農)二ッ堀農園(観光農園)、稲取園芸㈱(造園業)、飯田店(酒屋)の若旦那3人衆です。特産のニューサマーオレンジを使用して、5年前に「ニューサマーサイダー」を開発しました。

はじまりは商工会主催の地元農産物を使った商品開発のセミナー。二ッ掘農園の田村雅彦さんはもともとニューサマーオレンジをつくって、ジャムなどの加工品を販売してはいたのですが、「もっとインパクトがあって地域を盛り上げるものを」と、たまたま同じグループになった2人に提案。「地サイダーをつくろう」と意気投合し、セミナー終了後も話し合いを重ねて商品化につなげました。

原料のニューサマーオレンジは、市場では安値にしかならないB品を倍近い値段で地元生産者から購入。買い取り価格を上げたぶん販売価格も340㎖250円と少し高めの設定となりましたが、売り上げは累計30万本以上。昨年は果汁量をアップしてリニューアルし、ますます人気が出ています。

若旦那3人衆は同じ商品を同じ価格で扱いますが、販売はバラバラという変わった戦略をとりました。観光農園と造園業と酒屋は異業種なので、付き合っている相手は当然別々。酒屋ならスーパーや観光施設、造園業ならゴルフ場や別荘地などに売り込み、扱ってもらうことができるのです。3人が別々のお客さんをもつことで販売網がどんどん広がっていきます。現在、伊豆半島内で販売店は40~50軒もあるそうです。

(農)二ッ堀農園
電話:0557‐95‐2747
HP:http://www.geocities.jp/frdnr535/

土建業者の仲介で29人が移住してきた

向井道彦


「猫の手・孫の手」では
ハチの巣の駆除も請け負う

広島から 北広島町に、のべ29人も地域に移住・定着させたという建設会社があります。
大朝地区の㈲栗栖建設は2007年から、同じ町内の千代田地区の別の土建会社との共同事業で「孫の手・猫の手サービス」を始めました。これは、空き家の管理やお墓の清掃(孫の手)、農作業の手伝いや草刈り、雪おろし(猫の手)などを請け負う仕事です。

空き家の管理を請け負うようになり、雇い主と交流していると、「誰かいい人がいたら貸したいんじゃがのう」「近所にわからんように売ってもらえんかのう」という要望が結構でてきました。それに応えるかたちで、森田隆司社長は役場と協力し空き家の仲介をはじめました。仲介料は無料ですが、借りることになれば、駐車場をつくったり、道をつけたり、建設会社として仕事を受けられます。

「仲介料なぞもらわなくても、お客さんになってもらえたらそれでいいんだ」と森田社長。空き家の紹介は誰でもいいというわけではありません。「定年後でお金を持った年配の方らは、週末だけ来たいとかで、周り近所と接点を持とうとしない人が多い。だが、若い人らはこれから住んでゆくわけだからそうではない。入居希望者には私が直接会って、地域と一緒にやっていける人かどうか見る。こちらの判断で断ることもある。行政の空き家バンクなどではそうはいかないから、その辺も民間がやるいいところかもね」。
行政も協力的、町長も応援してくれていて、町が東京で開催するUターン支援イベントにも行くことになっているそうです。

猫の手・孫の手サービス(栗栖建設)
電話:0826‐82‐1700
Mail:morita@magoneko.jp

60歳以上の「古賀の元気おばちゃん」
最大100万円助成します

岩瀬繁信


スイートコーンを販売する
元気おばちゃんたち

福岡から その事業のチラシにはこう書かれています。「いまの農業『高齢化』だの『後継者不足』だの言われておりますが、古賀市では、『若いモンには負けんばい!』という農業でがんばる元気おばちゃんを大募集しています」

「古賀の元気おばちゃん支援事業」は、市職員が事業提案できる「ボトムアップ提案制度」を活用して、農林振興課職員が企画したもの。①古賀市在住の60歳以上女性②古賀市に農地がある③販売目的で農業を行なう、という3つの要件を満たす元気おばちゃんに、やってみたい農業にかかる費用の3分の2、最大100万円の助成をする。事業は2011年度から3年間で、対象は年に3人のみです。

自称「元気おばちゃん」はまず、エントリーシートに農業の現状と事業を使ってやりたい農業の計画を書いて提出。後日、自ら計画をプレゼンし、認定農業者の会長や直売所の出荷組合長などで構成される元気おばちゃん支援委員会で審査を受けます。審査のポイントは、自分だけでなく周りの農家や地域も元気にできる要素があるかどうか。審査をパスした3人が晴れてその年の「元気おばちゃん」となります。

事業は13年度で終了しましたが、3年間で元気おばちゃんは9人誕生。全員がパイプハウスを建設、高齢でもつくれる品目として甘長トウガラシやハーブを栽培して直売所へ出荷しています。また9人で特産スイートコーンを栽培、直売所での販売を先導するなど、とてもパワフルに活動しています。

古賀市役所農林振興課
電話:092‐942‐1120

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