このコーナーは、「ゆるがぬ暮らし」「ゆるがぬ地域」づくりに取り組む、全国各地の耳寄りな情報です。webではその中のむら・まち元気便から“ちょっとだけ”公開します。

哲学者・内山節さんと考える
「100年後に残したいもの」

編集部


付箋に書いた思いを語る参加者

大分から
小学校の旧校舎の講堂で、模造紙に描かれた大きな樹に、参加者が次々と付箋を貼っていく。まるで木の葉が繁ったようになった。
これは2015年11月28日、大分県日田市の羽田多目的交流館で開かれた「第5回現代農業読者のつどい」(農文協九州沖縄支部主催、参加者84名)のひとこま。つどいの講師である哲学者の内山節さんは、新聞に「行政は何でも5年計画。目先の利益を追うから理念が生まれない。5年から100年に時間軸を延長すれば、“何をつくるか”から、“何を残すか”という計画にかわる」と書いた。それにちなんで、参加者それぞれが「100年後に残したいもの」を付箋に書いたのだ。
「自然のなかで遊ぶ子供の笑顔」と書いた女性は、Iターンで田舎に移り住んだものの、地元の子供たちが、必ずしも恵まれた自然の中で遊んでいないことを残念に思い、自然と子供たちとの関係復活の願いを込めたという。
ちなみに会場は旧羽田小学校を宿泊もできる交流施設としてきれいに改装したもので、地区協議会が市の委託を受けて運営している。校庭には樹齢100年の栴檀の大樹があり、この冬にはアオバズクが久々に巣をつくった。地元の方は「学校がなくなってしばらくフクロウがいなくなったが、ここがにぎわいを取り戻したので帰ってきたのかも」という。この施設は自然体験の合宿などにも使われるほか、四季折々に行事も行なわれ、地元の子供たちも集まってくる。
栴檀の大樹が見守る施設で「私は、ここで暮らす。」をテーマに開かれた「読者のつどい」は、それぞれの「百年の大計」を心に刻む機会となった。

農家と下着メーカーのコラボ商品
腰痛も治る「アグリパワースーツ」

編集部


ベストのように見えるのが
「アグリパワースーツ」

兵庫から
本誌15号で農商工連携のコツを語ってくれた姫路市の衣笠愛之さんから、久しぶりに電話があった。「地元の下着メーカーと一緒に農家専用の補助下着をつくったんです。これが評判いいんですよ」
その名も「アグリパワースーツ」。見た目はピタッと体にフィットするベストのよう。ポイントは脇腹から腰にかけて6本内蔵したステンレス製のコイルバネで、腰の負担を軽減してくれる。重いものを持ち上げるときや中腰の姿勢から戻るときには、このバネがアシストしてくれるのでとってもラクになるという。「作業効率は確実によくなりますよ」。通気性のいい素材を使っているため、汗をかいてもサラッとしているし、背中の内側にはメッシュ素材のポケットがついていて、夏には保冷剤、冬場にはカイロを入れることも可能だ。
製品化まで、衣笠さんは何度もメーカーに試作品を改善させた。「腕まわりまで布があるとキツくて動きにくい」「バネが前にあると苦しい」「若いもんに売るにはオシャレさも大事」などなど。「農業したことない人が『農家専用』はつくれんでしょ。これは農家監修だから間違いない!」とかなりの自信作ができた。
実際、製造した㈲アトリエケーが、「㈱兵庫大地の会(代表が衣笠さん)監修」として売り出したところ大人気! 1着1万5000円(税別)と少々高めだが、現在6カ月待ちの状態だそうだ。
ちなみにアトリエケーはもともとスタイルを整える補正下着をつくっているメーカーだからだろうか。毎日着けている衣笠さんはウエストが15㎝も縮んだという。これは試してみる価値がありそう!?

㈱兵庫大地の会(衣笠愛之)
☎090‐8930‐8124

家ごとの出店だから家族の絆も強くなる
「お散歩マーケット」

水野研介


2015年秋のお散歩マーケットの様子

埼玉から
飯能市上直竹上分自治会(細田・黒指集落)は、全二十数戸の小さな集落ですが、10年以上前から春と秋の年2回開かれる「お散歩マーケット」の時だけは、東京や近隣都市から春1000人、秋800人もの観光客が訪れます。お散歩マーケットとは、住民がそれぞれ自宅の庭先に小さな直売所や飲食店を出し、集落全体をマーケットに見立てたイベント。参加者は集落への入場料300円を払って、決められたコースを歩きながら、買い物や食事、そしてのどかな集落の雰囲気を楽しみます。
主催しているのは住民たちでつくるお散歩マーケット実行委員会。「無理して頑張っても続かない」と、あくまで集落の景観と温かい人柄を魅力として、あえて人寄せのための催しなどはせずにきました。そんな自然体がウケたのか、来場者のうち60%がリピーターだそうです。
最初は知らない人を自宅の敷地に入れるのに抵抗感をもつ人もいたそうですが、今ではすっかりみんなマーケットの日を楽しみにしています。多くの人が来場するからだけでなく、接客で大忙しとなるこの日だけは地元出身者たちが手伝いに戻ってきてくれるから、というのも理由のひとつ。
最近は法事などでも仕出し弁当で済ますことが多く、嫁いだ娘たちと一緒に台所に立つ機会もずいぶん減りましたが、お散歩マーケットでは娘も孫も、他の親戚も一緒になってお店を切り盛りするのだそうです。家族の絆が深まるいいイベントだなと思いました。

飯能市観光・エコツーリズム推進課
☎042‐973‐2123

地元の若手もターゲット
農村都市交流の「いなか体験」

瀬戸啓太郎


「いなか体験」当日は郷土料理でおもてなし

岡山から
鳥取県境に近い津山市加茂町の知和集落は、人口210人76世帯。2012年に、地域全体を大家族と位置付けて助け合おうとNPO法人スマイル・ちわを立ち上げました。除雪や庭木の剪定、お墓掃除などちょっとした日常の作業を有償で請け負う「便利屋」、不定期で地元の野菜や手づくり雑貨を販売する「ふれあいマーケット」、月2回のカフェ(参加費100円)や毎月第2土曜日の居酒屋(同500円)など、幅広い活動をしています。
そんな元気な知和集落ですが、課題はやはり後継者育成。NPOの中心メンバーの一人赤野美代子さんは、どうやったら地元の若いお嫁さんたちにも地域の活動に参加してもらえるか気を揉みます。「私たちが嫁に来た頃は村姑みたいな人がおせっかいしたけど、いまはそうもいかんでしょ。よそから来ると、地域に入りにくいっていう気持ちもわかるしね」
そこで、NPO主催で年に3回地域外から人を呼ぶイベント「いなか体験」(田植え、イネ刈り、餅つき)には、地元の若い人に、スタッフとしてではなく参加者として来てくれるよう呼びかけています。すると「子供にやらせてみたい」と参加してくれるお嫁さんも結構いるそうです。
「自分の家でお米をつくってても、手植えやはぜ干しはやらないから、子供はもちろん大人も楽しんでますよ」と美代子さん。こうしてちょっとずつ地域の人と馴染むことで、そのうちむらの活動にも積極的になってくれるはずと期待しています。

NPO法人スマイル・ちわ http://www.geocities.jp/smile_chiwa2012

ワラ焼きカツオが自慢の居酒屋
ワラ確保を目的に農業参入

川瀬菜摘


炙られるカツオ。
燃やした後のワラ灰は無償で近隣農家に配る

高知から
高知県内を中心に店舗をもつワラ焼きカツオのたたきが有名な居酒屋「明神丸」をご存知でしょうか。この居酒屋を経営する明神水産グループが、2年前に農業部門の㈱明神ファームを黒潮町佐賀地区で立ち上げました。きっかけは、農家の高齢化が進み、ワラ焼き用のワラが手に入りにくくなったことでした。
「カツオのたたきは絶対ワラ焼きでないと」という同グループ。温度変化に敏感なカツオは、高温で表面を一瞬炙るのがポイントで、ワラを焼いたときより温度が100度以上も低いガス火では風味が飛んでしまうのだそうです。
現在明神ファームの役員を務める山㟢太志さんは、2年前のある日、グループ内の中核会社で、カツオのワラ焼き加工や1本釣り漁船を運営する明神水産㈱の経営者に「お前が(農業部門)やれ」と指示され、突如農業への道を歩むことに……。もともと本社のあった黒潮町内で耕作放棄地3.5haを借り、地元の農家に教わりながらヒノヒカリをつくり始めました。ワラの確保が目的なので、コンバインはワラを裁断せず結束できるタイプを導入。収穫後は1~2週間干してから、専用倉庫に運びます。ひとシーズンで用意するワラは農家から買い取る分も含めて、直径20㎝ほどの束2万5000にもなるそうです。
人手が不足する農繁期には、グループ各社から助っ人を集めてみんなで作業しています。
ちなみに、とれたお米のほうは居酒屋「明神丸」で提供するほかインターネットでも「佐賀明神米」として販売しています。

株式会社明神ファーム
☎0880‐55‐3800

防災の備蓄燃料に最適
燻製薪「カラマツくん」なら長持ち

編集部

「カラマツくん」は燻薪5kgに
軍手、マッチ、着火剤がついて1箱2500円(税別)


地元の鉄工所が製作した燻製窯。
1回で350kgの燻製薪ができる

長野から
管内の65%がカラマツの森林という小海町の南佐久中部森林組合は、9年前から山の間伐材を使った燻製薪「カラマツくん」を製造・販売しています。
ふつう薪は3年くらい経つとヤニ成分が抜け火力が落ちてきたり、腐食することがありますが「燻製にしてしまえばヤニ成分がコーティングされるので熱量はそのまま、燻蒸効果で薪が長期保存できます」と、総務課長の新津清秀さん。
カラマツの薪は専用の燻製窯に入れて、夏は10日~2週間、冬は窯が冷えるので1カ月かけてじっくりと燻します。
水分が多い薪のほうが燻製にしたときに光沢が出るので、生木を使うのがコツ。燃料に使う広葉樹のチップは1日に2回補充し、薪の含水率が10%以下になったところで窯から出します。
燻製薪はしっかり乾燥しているので燃やしても煙がほとんど出ず、火力が強い。薪5㎏で40Lのお湯を3時間で沸かせます。新津さん曰く、屋外で暖をとったり、煮炊きするのに最適なんだとか。
発売当初は、年に90箱ほどしか売れませんでしたが、東日本大震災以降、防災用の備蓄燃料として人気となり、都市部の集会所やマンションなど、今では毎年1600箱ほど売れているそうです。

南佐久中部森林組合
☎026‐792‐2070
http://www.centralforest.jp

コメントは受け付けていません。