新宿から快速で50分、JR青梅線中神駅前にあるオシャレなブックカフェが、創業40年のかつざわ書店が2年前に開いた「マルベリーフィールド」だ。本棚に囲まれ落ち着いた雰囲気の店内では、コーヒーやランチとともに読書やおしゃべりをするお客さんで賑わっている。
そんな店の前にはまるで八百屋さんのように本と一緒に野菜や果物が並ぶ。「どうです。これ全部、親父が外商帰りのワゴン車で集荷してきた地元の農産物なんですよ」と説明してくれたのは、勝澤店長だ。
きっかけは2010年の春、隣の八王子市で農業をしている親戚から「タケノコが採れすぎたので売ってくれないか」と頼まれたことだった。とりあえず店先に置いてみたところ、これが飛ぶように売れたという。
当時、話題の新刊が大型書店にばかり配本されてしまい、小さな書店には1冊しか入ってこず、「売りたい本が売れないし、このまま普通に本屋をやっていたら先がない」と考えていたときのことだ。タケノコ販売で気をよくした父親が、親戚の山でタケノコを採ってきて店で販売をくり返しているうちに、1冊しか配本されなかった新刊の500冊分の利益が1週間で上がってしまった。
そこで、地元の市役所の紹介で近くの農家から農産物を仕入れることにした。父親が外商で本を配達した帰りにカラ荷の車で集荷するのでムダがない。農家も畑に直接取りに来てくれるので助かる。やがて売れ残った野菜を調理して活用しようとカフェも始めた。

店先に本と一緒に並んだ野菜や果物。太くて立派なサツマイモが3本150円。地元の主婦の口コミでよく売れる

現在、店の収益は、本とカフェ部門(野菜の直売も含む)で2:8の割合だという。「目当ての本を買うだけならAmazonは便利だけど、知らない本に出会えるのが街の本屋の魅力。カフェ部門で稼ぎながら、本屋の文化を守りたい」
そんな勝澤さんは、月1回の朗読会のほか、物語に登場する料理を楽しめる「食べておいしい朗読会」、出版社を招いたブックマーケットの開催なども企画。今後も本にまつわるコミュニケーションの場をつくっていきたい、と夢は膨らむ。

店の外観。側面にはテイクアウト用の窓口も。人気は「かつざわ」にちなんだ自家製カツサンド

BOOK&Cafe マルベリーフィールド(かつざわ書店)

〒196-0022 東京都昭島市中神町1176-36
☎042-544-3746
営業時間7〜19時(土・日・祝は11〜18時、第2・第4日曜定休)

文=農文協新読書グループ 保原 樹

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