未来を生きる子供たちにとって大事なもの。それは、『他者を思いやる力』と『自分の好きなことをとことん突き詰められる力』の2つだと思う。その手助けとなるのが、先哲の知恵が詰まった本です」と森忠延店長は言い切る。
井戸書店では、地元・板宿小の子供たちに読書の機会をと、毎月第2日曜日の朝9時から30分間、「板宿子ども論語塾」を開講。今年で6年目に突入した。
毎回店のスタッフが交代で先生になり、時流に合わせて『論語』から2題セレクト。全員で音読してから、意味(教訓)について学ぶ。
以前「食品偽装」が社会問題になった際、森さんは「子曰く、巧言令色、鮮し仁」を引いて、「上手いことを言って、うわべだけ取りつくろおうとする人は思いやりに欠ける、という意味です。このことがわかっていたら事件は起きなかったのにね」と解説した。
じつは『論語』には難しい話はひとつもなく、小さい頃お年寄りに教わったような話が中心。だが、そこにモノの見方や人との関わり方のヒントが隠されていると森さんは考える。
最初は数人の参加だったが、参加した子供たちや板宿小の先生たちがPRしてくれ、今では毎回30人以上が集まるようになった。
一方、3年前に始めた「大人の人間学塾」も評判で継続中だ。こちらは、同店の看板でもある「すべては人間学から始まる!」の棚から課題図書を毎月1冊選択。新渡戸稲造の『武士道』や世阿弥の『風姿花伝』など、参加者で素読してから感想を語り合う。
子ども論語塾での学びが社会に出るための知恵ならば、大人の人間学塾はいかにシンプルに生きるか、丸くなるかがテーマ。年齢を重ねてからも、価値観を共有できる仲間がいるということは最高の喜びだ。そうした身近な人と人をつなぐ拠点に本屋はなれる。
「常にアンテナを張り、お客さんに必要な最高の一冊を届ける。残りの人生は読書推進に全力を注ぐ!」
そんな森さんの姿を見て、子供たちは「好きなことをとことん突き詰める力」を学んでくれるに違いない。
井戸書店
〒654-0021 兵庫県神戸市須磨区平田町2-3-9新板宿ビル1F
☎078-732-0726
営業時間8:30〜22:00(日祝は9:00〜19:00)
文=農文協近畿支部 大森史子