「本屋で野菜を売るなんて、よく考えたね」。オープン直後のお客さんの反応に、田中良朋店長は「これはいける!」と手応えを感じた。
 2015年3月、店舗の改装を機に、店の空きスペースに農産物直売所「ほんのえき田中屋」を開店。本の売り上げが低迷するなか、本屋と直売所を合体したら人が集まって面白いと考えた。この辺りは市場に出荷するほど生産量はないが、自家用では余るという農家が多く、直売所出荷に向いていた。
 だが、開店までは1年がかりで予想以上に大変だった。そもそも直売所を運営するノウハウがないので、市役所で農業委員を紹介してもらって出荷者を募集、最初は30人でスタートしたが、出荷が少なければ、田中さんが自ら農家を回って集荷もした。

店内の空きスペースに設置した農産物直売コーナー。トマトを買ったついでにトマト料理本も買うなど、相乗効果も出ている

 おかげで農家からは「熱心だから応援したくなる」と可愛がられ、今では400人が出荷登録。昨年の来店者数は開店した当時の3倍、販売額(仕入品含む)は1億円に達した。
 出荷者の最高齢は92歳の男性、80代のおばあちゃんも娘の車に同乗して朝どりのキュウリやトマトを持ってくる。
「お店がお客さんとの交流の場にもなっているので、ますます元気が出るようです」
 さて、肝心の書店の売り上げはというと、コミックが減り、雑誌と料理書が伸びるようになった。農産物直売所目当てで客層が若い人から年配層に変わってきたので棚の配置を変える必要も出てきた。
「構想中だが、今後は行政と連携して地元の土産品も店で販売してみたいし、外商で本と野菜を一緒に届けることができたら面白い」。田中店長の挑戦はまだまだ続きそうだ。

1933年創立の㈱田中書店(本店は宮崎市)は、見聞読タナカ日南2号店をはじめ、宮崎県下に6店舗を展開

見聞読タナカ 日南2号店
〒887-0031  宮崎県日南市戸高3-5-3
☎0987-23-0001
営業時間8:00〜20:00(年始は3日まで休み)

文=農文協九州沖縄支部 青田浩明

コメントは受け付けていません。