山崎地区商店街の一角にある安井書店は、1905(明治38)年創業の老舗で、95年には郊外の幹線道路沿いに約500㎡の大型店を開設。以来、旧店舗に文具や事務機器を扱う外商部を置き、本屋との二本柱で経営を続けてきた。社長の安井唯善さん曰く、「90年代は郊外の大型店が花形の時代。平日でもレジ客数は1日300人以上でした」。
 だが、10年ほど前からネット書店の普及で来客数は半減。大型店は品ぞろえは充実するが、その分在庫の増加や人件費などの経費がかさむ。安井さんは「郊外の大型店の役目は終わった」と判断し、今春24年ぶりに創業地で本屋を再開した。

店内の売り場面積は約70㎡。奥にはレジカウンターを挟んで、外商部の事務所を併設した。本の品ぞろえが少ない分は、取次のネット書店(約100万点の在庫倉庫)からの取り寄せでカバーする

 売り場面積は、郊外店の8分の1に縮小し、外商部の事務員が店舗販売員を兼ねる。商店街が小学校から高校までの通学路となっていることから、絵本や児童書、学習参考書、資格・検定対策本を常備するほか、高齢化が進む近隣住民の需要を見込んで料理や健康などの実用書を充実させた。また、大型店のころのCD・DVDの販売、ポイントカードのサービスも継続している。
 安井さんの原点回帰の理由は、もう一つある。近年、山崎中心市街地活性化委員会による「よいまちプロジェクト」で、シャッター通りの商店街が活気を取り戻しつつあることだ。IUターン者が空き店舗を改修し、地酒バーや訪問介護ステーション、セレクトショップなどを次々オープン。郊外の大型ショッピングモールに移転していた店も商店街に戻って、安井さんと同様に店舗を再開している。「小型店が生き残る道は地域密着。徒歩や自転車で来る近隣住民に、本やCDを選ぶ楽しみを提供したい」と安井さん。本屋が商店街に人を呼び込むきっかけになればと考えている。

24年ぶりに創業の地・山崎地区で本屋を再開。町家の景観に合わせて旧店舗をリフォームした

安井書店
〒671-2577 兵庫県宍粟市山崎町山崎90
TEL0790-62-0700
営業時間10:00〜19:00(日曜・祝日定休)

文=農文協東海北陸近畿支部 野村収平

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