このコーナーは、「ゆるがぬ暮らし」「ゆるがぬ地域」づくりに取り組む、全国各地の耳寄りな情報です。webではその中から“ちょっとだけ”公開します。

ガードレール洗いでむらに活気が戻ってきた

山下春奈


ガードレール洗いの様子

大分から
 日田市の山間にある出野地区では、2018年から自治会でガードレール洗いをしている。自治会長の佐藤利文さんは「これが正解だった!」と話してくれた。
 川に沿った道が多いこの地区のガードレールの全長は15㎞ほど。泥はねやスギの花粉でかなり汚れていたそうだ。軽トラに載せたタンクからホースを引き、高圧洗浄機で水を噴射。その後に洗剤を付けたタワシでこすり、雑巾で拭き上げる。それでもきれいにならないところは再度高圧洗浄する。
 農繁期を避け、年に4回実施してすべてを洗い終えた。1回目は10人だった参加者は、4回目には50人になった。
 出野地区のある旧前津江村が日田市に合併してから、「村民体育祭」や「ふるさと祭り」など村の行事はやらなくなったし、12年3月には出野小学校が閉校して、地区行事もほとんどなくなった。ものさみしい地域を盛り上げたいと、市の美化推進モデル事業を活用し、様々なメニューの中から他の地区が選ばなかったガードレール洗いをやってみようと提案したのが佐藤さんだった。
 慰労の芋煮会も開催。参加者の多くから、「またみんなで集まる機会ができてうれしい」という声が上がった。ガードレール洗いをきっかけに、出野地区に活気が戻ってきた。

おじさん13人が活躍、
干支のジャンボワラ人形

市村将大


2020年の干支の「子」。
軽トラ2台分のワラが使われている

静岡から
 島田市大代地区にある「王子田会」は、大代を愛するイベント好きなおじさん13人の集まりです。農家やサラリーマン、定年退職した人もいます。1977年に結成したこの会の「ジャンボ干支」がおもしろい。
 それは、全長4mにもなる巨大なワラ人形。毛並や表情が細かく表現されていて迫力があります。メンバーの杉山恵よし則のりさん(78歳)が、25年前に実物大でイノシシのワラ人形をつくってみたところ、本物そっくりだと評判になりました。それ以来、会で毎年ジャンボ干支を製作して県道81号沿いに設置しています。
 毎年11月末から取りかかり、およそ10日で完成させます。作品は12月初めから2月いっぱいまで展示。年賀状に写真を使いたいと、わざわざ県外から撮影に来る人も多いそうです。
 会の特徴は強い地元愛です。人形に使うイナワラや竹、間伐材などの材料はすべて地元産。また、展示会場では、土日限定で茶や野菜、焼きイモなどを農家自ら販売します。どれも大代地区の住民の店です。
 代表の片岡幹男さんは「自分たちが楽しく活動して、そこに関わった人たちが楽しんでくれる。おかげで地域がにぎわって、また自分たちの喜びになる」と話します。

地区の魅力を発見
それを伝えるための収穫祭

西ノ坊夏生


花炭。トレッキングで拾ったクリを焼いた

秋田から
 10月末、湯沢市の松岡地区では収穫祭が開かれます。トレッキングや、母ちゃんたちによる「なべっこ(芋煮)」、各戸で育てたヒマワリの写真展、花炭つくり、和太鼓や銭太鼓の演奏会など、盛りだくさんな内容です。
 トレッキングでは、松岡地区の山を巡りながら、かつて坂上田村麻呂が悪路王を退治したといわれる岩と洞窟、樹齢千年のスギなどを、有志の住民が語り部となって案内。「地区の伝承や地史をみんながわかるように」と実行委員長の佐藤肇さんは話します。
 また、銭太鼓は住民の兄弟が静岡で教えていたことから、地区の高齢者たちも教わるようになりました。銭の鳴る音でリズムを刻む楽器です。「年寄りが元気なむらはいいだろ」と佐藤さん、昔に比べて子供が少なくなった実感はありますが、そこに住む人たちで活気をつくりだしていくことが大事なことだと教えてくれました。
 収穫祭を始めたのは2006年。きっかけになったのは、中山間直接支払の集落協定と県の地域活性化事業でした。住民がまだ気づいていない地区の魅力を見つけて、それを発表する場として収穫祭を位置づけると、豊富なプログラムが生まれてきました。
 様々な縁や伝承を繋いで生まれた収穫祭は、19年も大盛況で終わりました。

寺の門徒で野菜づくり

藤川直人


サツマイモを収穫したメンバー

島根から
「浄福寺チッタ農縁」は、大田市にある浄福寺の門徒が運営する野菜づくりグループだ。70〜80代の高齢者が中心。ワイワイと30aほどの農地でサツマイモやネギなどを栽培している。
 十数年前、本山の京都・本願寺への寄付金を工面するためにサツマイモを植えたのが始まりだったが、思うようにいかず赤字が続いた。けれども、作業のために皆が集まり繋がりができていったことがよかったと活動を続けてきた。
 2017年からはネギの栽培を開始。年間1万本ほど植えている。高齢者でも負担なく農作業できるように定植用の穴開け機具をつくるなど、作業の省力化も図っている。18年は、11〜2月の4カ月間で、白ネギを1.2t出荷した。商品がきれいだと評判がいい。
 サツマイモもネギも、学校給食用の注文が定期的にあったり、農協を通して地元や関西圏の市場に出荷したりと、おかげで黒字も見えてきた。代表の松下誠さんは「仲間と協力し合って自分たちの農業の形ができてきた」と話す。
 寺の行事のときは、サツマイモをふかし、お参りにきた人々に食べてもらう。これが反響を呼んだのか、浄福寺にはよその町からも足を運ぶ人たちが増えた。 
 19年はソバにも挑戦。新しい品目をつくるのも楽しみの一つだ。

小規模農家や高齢者を助ける農機具店

児嶋佑香


色彩選別機と清塚則和専務

新潟から
 魚沼市に株式会社キヨヅカという農機具店があります。農機具販売だけでなく、小規模農家や高齢者の手助けをするお店です。
 2000年には地元の農家50人ほどと「みのり会」を結成し、同会の事務局を担っています。会では、キヨヅカが指定した肥料や農薬を使い、定期的に圃場に出向き、メーカーの担当者も呼んで稲作指導を行なってきました。できた米はキヨヅカが買い取り、消費者に直接販売します。
 また13年には、店内に色彩選別機を設置し、30㎏500円で誰でも利用できるようにしました。カメムシ等の被害で米粒が変色すると穀物検査で等級が下がります。色彩選別機があればそれを取り除けますが安い機械ではありません。店内に置いた機械は小規模農家にも喜ばれ、遠方から来る農家もいるそうです。
 近年は高齢化が進み、以前はよく顔を出してくれたお客さんがパタリと来なくなったりします。キヨヅカではそんなお客さんを救おうと、農機だけでなく、生活に必要なものの配達や家電の取り付けにも力を入れています。「地域の『何でも屋』だ」と清塚長なが徳のり社長。「農家や地域に役に立つことに率先して取り組みたい」と話します。
 地域の人に合わせて商売の幅を広げていくことが大切なのだと感じました。

お客さんも従業員も
集落住民の農家レストラン

青山和樹


来店1万人目のお客さんとの記念写真

徳島から
 美馬市穴吹町の渕名集落。世帯数60戸の集落のほぼ真ん中に「農家レストラン風和里」があります。ここでは、地域住民が従業員で地域住民がお客さん。来店1000人ごとに撮られた記念写真を見ると、ほとんどが集落の住民でした。
 近くに飲食店がなくて不便だと、木造平屋の倉庫を改築し、2017年7月にオープンしました。オーナーは小泉靖雄さん。地元食材を使ったそば米雑炊や煮物などの郷土料理・家庭料理の定食を4種類提供し、昼時はお客さんでにぎわいます。
 渕名の農家に協力してもらい野菜は地元産を使います。自分でつくった野菜を持ち寄るお母さんたちには「捨てずに済む」と喜ばれ、店側は食材を確保できて、お互いに助かっています。
 店を切り盛りする大竹一さんは、「地元の食材をふんだんに使って、地元の味つけで、地元の人に愛されるレストランに」と話します。彼の息子さんも、地元のお母さんたちと調理場で働いています。地元の味を担う世代交代の準備もばっちりです。
「快晴の日は淡路島まで見渡せるので、景色を楽しみながら渕名の食事を味わってほしい」と小泉さんは話します。 
 19年3月からは毎月料理教室を開催。単身のお年寄り中心に10人ほどが集まり楽しんでいます。

福祉作業所発の薬草ビジネス、入浴剤とお香

吉田祐貴


お香と竹細工箱

広島から
 一般社団法人「百人邑」は、障害者の就労継続(A型)と自立訓練を支援する多機能事業所。広島市安佐北区にあります。約10人の就労者がスタッフや地域の農家とともに、薬草のトウキとミシマサイコの栽培や加工をしています。
 薬草づくりは2014年にスタート。トウキとサイコはどちらも根を利用しますが、ものになるまで3年もかかります。その間、葉や茎で商品化できないかと、就労者で話し合いを重ねました。
 トウキの葉や茎は自然乾燥させて入浴剤にしました。6包入りで税込2000円です。
 サイコのほうはお香にすることにしましたが、乾燥後のヒビ割れや燃焼速度、香りの調合などで失敗の連続。京都で100年続く老舗の線香屋「徳泉堂」に相談して完成しました。サイコにカモミールを加え、粉にしてから円錐形に成形します。
 できたお香は化粧箱(12個)入りが2000円、竹細工箱(10個)入りが3000円。サイコの甘い香りに心安らぎます。19年11月から販売を開始。竹細工の箱は、裏山にたくさん生えた竹を見ていた就労者のアイデアです。
 百人邑では、薬草の栽培や加工、商品企画、販売まで、すべてを就労者が協力して行なっています。就労者には、作業に対する責任感とやる気が感じられます。

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