このコーナーは、「ゆるがぬ暮らし」「ゆるがぬ地域」づくりに取り組む、全国各地の耳寄りな情報です。webではその中から“ちょっとだけ”公開します。

タネを継ぐことは文化を守ること
タネ交換会も開催

阿部真弓


山根さんが継いできたタネたち

山口から
 防府市で小さな八百屋「たま屋」として活動する山根たまみさんは、非農家出身だが、大学の卒業論文でタネとそれにまつわる文化について研究した。タネ採りの技術、伝統的な食べ方、作物を使う地域の行事にも関心があるそうだ。
 伝統が失われるとタネが失われる。タネが絶えると、技術や文化も継承されない。例えば、地域の祭りで奉納される野菜や、昔から地域に伝わる漬物も、地元の在来種を使う。タネと文化は表裏一体なのだ。
 そのことに気づいた山根さんは、近隣でタネ採りをしている人を訪ねてタネを集めた。とりわけ大事にするのは、何十年も自家採種し続けているおばあちゃん、おじいちゃんの存在。「お年寄りにタネありますかと聞くと、『珍しいものはないよ』と返ってくる。違うんだよおばあちゃん。あなたがずっと守り続けたタネが欲しいんよ。つくれなくなったら誰かに受け継いでほしいんよ」
 4年前から年に1度、山口市のアースデイのイベントでタネの交換会も開く。山根さんが手伝いに行く「あわや自然農園」から引き継いだタネや、自ら有機農業をする家庭菜園で自家採種したタネ計10種類ほどと、苗も持参し、希望者に渡している。「タネを持ってこない人には『採れたら来年持ってきてください』と伝えています」。

パン用小麦
ユメシホウがアツい

堀籠勇希


ゆめ紫峰の会の小麦粉

茨城から
 桜川市にはパン用小麦「ユメシホウ」を広げる活動をする「ゆめ紫峰の会」があります。2010年に発足しました。会員は11人で、生産者と加工部、事務局に分かれています。栽培面積は約1・5haです。
 ユメシホウは、関東地方に適したパン用品種として作物研究所が開発。強いグルテンができるタンパク質が多い小麦です。
 その特徴を生かして会でつくる食パンはとってもふっくら。他にも、まんじゅうやピザ生地、うどん、チーズケーキ、カステラなどをつくり、ひな祭りや桜祭りなどの地域イベントで販売してきました。知名度を上げ、今では念願の学校給食のパン用にも提供できるようになりました。
 様々な困難も乗り越えてきました。なかでも一番は製粉所の確保。地元の小さな製粉所ではソバ粉が混入してしまいます。これでは給食用には出荷できないことから、大手製粉所を頼る必要がありました。県外の製粉所と交渉し、17年からは約10tという小ロットでも挽いてもらっています。
「今の若い人はパンばっかり。輸入小麦じゃなく国産小麦のパンをぜひ食べてほしい」と会長の深谷加津子さん。事務局の鈴木眞美子さんは「ここ桜川は農林61号が麦秋の景観で、ユメシホウもそこに加えたい。栽培面積を増やしながら耕作放棄地を解消したい」と語っていました。

野生モモのロマンを追う
研究会発足、栽培も始まる

原田順子


一般的なモモ(左)と野生モモ

岡山から
 野生モモとは、一般的な栽培品種とは異なり自然に自生するモモ。栽培品種が野生化した野良モモとも違い、病害虫に強くやや過酷な環境に生育し、岡山県内では約350本が確認されています。「桃太郎伝説」では、野生モモを食べて若返ったおばあさんが赤ちゃんを産んだという話もあり、若返り効果も期待されています。
 そんな野生モモに魅せられた赤磐市の平松裕美子さんと、岡山県下の農業高校で実習教諭をしながら、三十有余年にわたりモモの祖先を調べ続けた苅田実先生がタッグを組み、2019年4月に野生桃研究会を設立。会長の岡山大学大学院・清田洋正教授を筆頭に、研究者など16名で活動しています。
 研究会では、昨年6月に桃太郎伝説ゆかりの吉備津彦神社に野生モモの苗木を3本奉納。さらに野生モモ2本が自生する吉備中央町の土地7500坪を購入し、研究用のモモ園整備も進行中です。
 もともと無農薬や自然農、発酵に興味があった平松さんは、葉を焼酎に漬けてリキュールをつくったり、砂糖漬けで実のエキスを抽出したり、葉や実の加工品を岡山の特産にしたいと試行錯誤中です。
 また県内で栽培されるモモの台木の多くが長野県産である現状から、野生モモで岡山県産台木をつくる研究もしていく予定です。
*研究会では協力者を募集中。興味のある方は事務局(TEL080-3878-8172)まで

コイのピザ窯で
地域資源がおいしくまわる

藤川直人


コイのデザインの「小似窯」

広島から
 三次市の青河町は、人口500人ほどの、市内で一番小さな地区です。ホタルと共存できる地域づくりを掲げて町おこしをしています。
 青河地区のコミュニティセンターには、目を引くピザ窯がありました。なんと魚のコイのデザインなのです。ホタルの生息地で地元のシンボルでもある小似川にちなんで、コイの形にしたそうです。
 青河自治振興会の有志8人と地区の小学生が6年前に手づくりした石窯で、高さ1・7m、幅1・3m、奥行きは2・2mあります。耐火レンガで窯を組み上げ、その上から粘土で造形し、カラフルなタイルや小似川の川原の石を飾りつけたそうです。製作費には市のまちづくり補助金を充て、設計が得意な住民が図面をおこしました。
 きっかけとなったのは「地域行事に花を添えたい」「余った野菜を活用できないか」という住民の声でした。地区の子供会や懇親会などの際に住民は無料で借りることができ、個人でも利用できるのがいいところです。
 窯焼きピザは、独特の食感や香ばしさがあって大人気。イノシシやシカの肉も塊で焼いたりして、これぞ田舎の楽しみですね。薪は窯を利用する人が準備することになっていますが、みなさん地元の薪を使うそうです。コイのピザ窯で地域資源がおいしくまわっているのだと思いました。

ふるさと納税を原資に
村と農協が共同で農業法人を設立

宮本奈緒


設立総会で握手する湯川村村長(右)と
JA会津よつばの組合長

福島から
 会津の湯川村は米の産地。担い手が徐々に高齢化して、次世代の養成が急務でした。とくに基盤整備が進んでいない圃場は休耕田になりやすく、その受け皿にもなる組織が求められていました。
 そこで村とJA会津よつばが共同で、2018年7月に㈱会津湯川ファームを立ち上げました。この法人の特徴は、資本金9000万円のうち、55%の5000万円を村が出資していることです。
 村が半分以上出資し、法人設立を主導できたのは、じつはふるさと納税のおかげです。湯川村は14年度から村産コシヒカリを返礼品としたふるさと納税を始め、寄付金を農業支援に活用してきました。たとえば、米価下落の年には、農家に10aあたり1000〜5000円を助成したり、非農家に村産米限定のお米券を配布したり、すべてを農家支援に投入しています。法人設立の出資金に充てた「農業支援基金」も、15年度から寄付金を使って積み立てを始め、18年度までに約1億3000万円を集めることができました。
 会津湯川ファームは、現在約5haに利用権を設定し、10?haほど受託作業をこなします。公共性のある会社だから、農家も安心して農地を預けられ、他の担い手との調整もスムーズだそうです。
 担い手農家と協力しながら、村の農地を守っていくことができるこの法人。今注目されています。

集落全世帯が株主の小水力発電

佐藤圭


建設予定地

佐賀から
 吉野ケ里町の松隈集落は、高齢化が進む中で自立した地域づくりを目指して、小水力発電に取り組むことにしました。一級河川の田手川から引いた毎秒200ℓの水量と、落差20mになる斜面をフル活用して発電し、その収益を集落の活動に使います。
 総工費は約6400万円。資金調達が課題でした。集落で話し合いを重ねて、昨年10月に松隈地域づくり株式会社を設立。集落の全40世帯が株主になりました。集落の自己資産と、設立した会社が受ける融資を建設資金に充てます。9月には完成する見込みです。
 建設は、佐賀県と九州大学発のベンチャー企業「リバー・ヴィレッジ」に協力してもらいます。発電機の出力は30kWで、年間の発電量は約22万kWh。発電した電気は、固定価格買取制度(FIT)の1kWh当たり34円で、九州電力が20年間買い取ってくれます。年間の収入は750万円ほどで、返済金を引いた200万が毎年集落に入ってくる見込みだそうです。
 各世帯への配当はせず、道路・水路の維持管理費や、地区運営費などに用います。
 代表取締役の多良正裕さん(69歳)は、かつて町長も務めた人です。「年金暮らしが多いから、地区運営費などの負担をなくしたいのです。小水力発電で農地を守り、お年寄りを守り、地域が長続きするようにしたい。小さな集落の大きなチャレンジです」

直売所の広域連携で
売り上げ50億円!

見上太郎


直売所「ほたるの里」

福岡から
 宗像市の「道の駅むなかた」「かのこの里」「ほたるの里」、福津市の「ふれあい広場ふくま」「あんずの里」の直売所5店は、生産者組合や農協など運営主体はそれぞれ違いますが、月に1度会議を行ない、お互いのやりたいことや課題を共有し合っています。JAむなかたの営農振興部販売企画課の安部亘さんが2年ほど前に呼びかけて始まりました。
 たとえば、ある店がバレンタインに花のセールを企画すると、それに応じて他の店が花卉生産者によるフラワーアレンジメント教室を開いたり、花を購入した先着50人に生花をプレゼントするなど、直売所同士が連携してイベントを開催します。そうすれば、イベントを1店舗で開催するときよりも広告宣伝の費用を節約でき、相乗効果でどの店舗もにぎわいます。
 また、出荷者講習や職員研修を5店舗でまとめて実施。運営にかかる経費や準備時間も削減できました。出荷者や職員にとってもいい交流の場になっているようです。
 ほたるの里の店長・井上猛雄さんいわく「一つの店の課題を五つの店で検討できるから、いいアイデアや解決策が出てくる」。安部さんは「協力したことで各店舗の活気が出た」と言っていました。
 全5店の売り上げの合計はなんと50億円近いそうです。集落営農だけではなく、直売所も広域連携が広がるかもしれません。

コメントは受け付けていません。