タネの図書館が好評!
野村収平
兵庫から
図書館が貸し出すのは本だけではありません。豊岡市立図書館の但東分館では、タネも貸し出しているのです。
きっかけは2016年、利用者にアサガオとフウセンカズラの種子をもらったことでした。これらで窓際の日差しを防ぐグリーンカーテンを始めました。このときアサガオの芽がたくさん出たので、ポットに植え替えて配布したそうです。さらに、分館で栽培していたヒマワリとマリーゴールドからも採種し、翌年から「タネの図書館」がスタートしました。
利用者は、必要なタネを持ち帰って栽培し、タネがたくさんできたらその一部を図書館に返します。必ずしも返却しなくてよいので、気楽に取り組めるのもいいところ。年間の利用者は40人ほどです。
とくに子供がいる家庭での利用が多く、植物の栽培方法などの本の利用にもつながっています。お盆の花用にとヒャクニチソウのタネを借りていく高齢者や、「食べられるから」と黒豆を借りていく人もいます。
タネは小さなポリ袋に小分けされ、館内に設けた専用コーナーに置かれています。この活動を知って、家庭で育てている花のタネを寄付してくれる人もいるそうです。おかげでタネの種類は年々増え、コスモスとワタも利用できるようになりました。担当する西村範子さんは「タネの輪が広がっていくのが嬉しい」と言っています。
大きくなりすぎのサツマイモで
干しイモ!? 焼きイモ!?
三輪里子
愛媛から
「内子アグリベンチャー21」は、内子町の農家のお母さんたち約20人からなる加工グループで、2001年に発足しました。地場産品をおいしく食べてもらおうと、農家レストランや食農体験プログラムにも取り組んでいます。
なかでも農産加工品の商品開発には発足当初から力を入れてきました。「出荷できない野菜もおカネにしないともったいない」と、メンバーの野田文子さんはアイデアをこらして様々な商品をつくってきたことを教えてくれました。
そのなかでとくに人気なのが、干しイモのような焼きイモです。原料は、大きくなりすぎて売れずに困っていた規格外のサツマイモ。農家から1㎏120円で、年間約3tも買い取っています。
イモ10㎏を砂糖1㎏、塩小さじ1杯でやわらかくなるまで茹でたら、茹で汁につけたまま一晩置きます。翌朝、水気を取り、長さ10㎝、厚さ1・8㎝に包丁で切り揃えます。それをクッキングシートを敷いたバットに並べ、160℃のオーブンで75分。軽く焦げ目がついたところで扇風機で冷まし、袋詰めして完成です。一度に25〜30袋でき、1袋200g入りで300円(税込)で販売します。
農家は規格外品をおカネに換えられ、消費者は添加物なしのおいしいおやつがリーズナブルに食べられる。加工グループのお母さんたちも張り合いが出て、まさに「三方よし」のヒット商品です。
ゼロからの出発、
壱岐の納豆ものがたり
山下春奈
長崎から
壱岐市で33年間も納豆をつくり続けるのは、5人のお母さんで構成された勝本地区納豆生産組合。原料の大豆は壱岐産100%だ。
米の生産調整で奨励された大豆を地産地消で生かそうと始まった。壱岐でつくられているのはフクユタカという粒の大きい品種で、ふつうは豆腐の原料として使われる。小粒品種と比べると納豆菌の浸透が遅れるのだが、それを逆手に取り、大豆本来の甘みが味わえる納豆ができた。また、ふっくらとした食感を引き出すために圧力釜で炊いている。納豆独特のにおいが少なく、食べやすいのも特徴だ。
そもそも、壱岐では納豆を食べる習慣がなかったので、販路を広げるには苦労したそうだ。島内の民宿や旅館をすべて回ったり、「いき壱岐納豆の歌」をつくったりして販売努力を重ねてきた。今では県内の学校給食へ年間10万食を納品し、民宿やホテル、スーパーにも卸している。
年間の大豆使用量は9t。地元農業者の所得向上にも一役買いたいと、地元の大豆を農協から買い続けてきた。「壱岐のためになる納豆づくりを目指して頑張ってきた」「歳を重ねて嫁さんに引き継いだ元メンバーもいる」と、代表の松熊節子さん。
給食や家庭でこの納豆を食べて育った人は「島外に出ても壱岐の納豆が食べたくなる」そうで、今ではすっかり故郷の味として浸透している。
山のなかの棚田を
山菜園にした
櫻井歓太郎
新潟から
「山菜で人の集まる山をつくりたい」と話してくれたのは、糸魚川市上南地区の室橋美代子さんです。所有する山林とその周りに放棄されていた棚田、合わせて4haを「山の遊び場にしたい」と、4年ほど前から整備を始めました。地元住民も誘い、現在は16人が手伝ってくれています。2017年に「おおかやば山菜園」をオープンしました。
冬は3〜4mの雪にすっぽり埋まる山間地で、5月でも残雪があります。冷たくて適度な水気がある地面は山菜の生育に適しているそうで、フキノトウやコゴミ、ゼンマイ、フキ、ヨシナなど数多くの山菜が収穫できます。山菜採りは6月下旬まで楽しめます。
棚田には、山に自生するワラビやウルイ、ウドを株分けして移植しました。水が滞留しやすい区画は溝を設けています。
入山料は、昼食代と保険料込みで大人(中学生以上)2000円、小学生1500円、幼児500円。常時3人のスタッフを雇い、園を切り盛りします。採った山菜で炊き込みご飯や天ぷら、山菜汁などをつくる体験ができます。
山菜の時期が過ぎても楽しめるよう川遊びや自然観察、サツマイモの定植・収穫体験も用意。子供連れの家族に人気があり、昨年は約100人が来園しました。今年は新型コロナウイルスの影響で休園を余儀なくされましたが、山菜の市場出荷に力を入れたそうです。
集落ごとにワンチームの
獣害対策、大きな成果
向井道彦
島根から
イノシシをいくら捕っても被害が減らない。どの市町村も抱えている悩みですよね。しかし、大田市では年々被害が減少。その秘密は、獣害対策に地域住民が参加するしくみにありました。
まず、集落単位で3人以上の任意団体をつくってもらいます。その団体登録が済めば、団体は市から捕獲用の箱ワナを無料で借りられます。加えて、各団体には担当の猟師が割り当てられ、住民と猟師が連絡を取り合いながら箱ワナを運用します。活動を始めた2014年の登録数は67団体407人、現在は83団体501人まで増えました。
箱ワナの設置や止め刺しなど、狩猟免許がないとできない作業は猟師が行ないます。住民は、イノシシをおびき寄せるエサの準備やワナの移動補助、1日1回の見回り、埋却処理などを担います。
従来、猟師がすべて担っていた作業を住民が補助することで猟師の負担が減り、猟師はワナをより多く管理できるようになりました。また、住民も獣害対策に関わることで捕獲の大変さを実感したり、自ら狩猟免許を取得する人も増えてきました。
侵入防止柵の設置と合わせて、「山の10頭より作物に悪さをする1頭を捕る」捕獲により、以前1200万円あった被害額は、15年から半減して推移しています。住民が力を発揮できるしくみ、もっと広がればいいですね。
100歳体操の「家族参観」で
親も子もいきいき
見上太郎
宮崎から
西都市にある筑後集落には、「満月会」という60年も続く老人会があります。メンバー20人、平均年齢80歳の会です。週に1度の「100歳体操」を4年半続けてきましたが、自分たちの活動を子供たちに見に来てもらおうと、「家族参観」を開催することにしました。
企画したのは民生委員の齋藤末男さん。齋藤さんは、100歳体操が少しずつマンネリ化してきたのを感じていました。老人会が参加者とその子供たちのコミュニケーションの場になるように、また子供たちにも満月会に親しみを持ってもらえるようにと、企画したそうです。子供同士で誘い合って来てもらうように伝えました。
参観日当日は、いつもすっぴんのおばあちゃんが「子供が見に来るから」と張り切って化粧していたり、出欠確認の返事が皆大きな声で元気がよかったりと、いつもより活気があったそうです。見に来た子供たちも一緒に体操をしてくれ、楽しい世代間交流になったようです。
「自分には近くに住んでいる子供はいないから……」と元気のないメンバーもいましたが、じつは事前に娘さんと連絡を取り、孫・ひ孫を連れて来てもらいました。サプライズは大成功し、とても喜ばれ、会は大いに盛り上がりました。今後も年に1回ほどの頻度で家族参観を続けていくそうです。
郵便局跡を
子供の集う場にした
阿部真弓
山口から
宇部市小野地区の藤本恭子さんは、小野中学校の廃校阻止活動に携わった情熱的なばあちゃんです(23号p108を参照)。17年前に小野郵便局が移転することになり、その施設を購入し、改修。放課後に子供が過ごせる場所「小野っ子の家」をつくりました。
「共働きの家庭が増えたでしょ。放課後、家で一人で過ごす子供の受け皿になりたい」と、藤本さん。下校時間が早い毎週水曜日におのっこの家を開けています。藤本さんのほかに、5人のスタッフがいて、みんな小野地区の住民です。
14時頃、学校を終えた子供たちが帰って来ます。宿題を終えたら自由時間。コウゾやタマネギの皮、牛乳パックを材料に紙漉きをしたり、バケツイネやカルタづくり、朗読劇に取り組むこともあります。藤本さんの野菜を使っておやつを手づくりしたり、みんなで豆腐やおからドーナツをつくる日もあるそうです。
一日の利用料は50円で、親も助かっている様子。当初はボランティアで運営していましたが、今は市の補助金をうまく使って、スタッフの給料や経費をやりくりしています。小野小学校の児童23人のうち18人が通っているそうです。
郵便局という昔ながらの生活拠点を子供が遊び学べる場にした藤本さん。「小野だからこそできる教育があるはず」「地域みんなでむらの子育てを応援しなくちゃ」と言っていました。