このコーナーは、「ゆるがぬ暮らし」「ゆるがぬ地域」づくりに取り組む、全国各地の耳寄りな情報です。

廃クローラを利用した小さな池

藤川直人


スイレンがある池の中にたくさんのメダカを泳がせていた

鹿児島から
「庭にスイレンを植えてる」と、さつま町の森重利夫さんが見せてくれたのは、直径1・5mほどの池。なんとトラクタのクローラの廃品でできている。横に倒して丸く広げると池の骨格ができあがる。底と縁に肥料袋を敷き、その上から大きなビニールをかぶせて水を張ったら完成。「畑に置いて水溜めにしてもいいよな」と言っていた。

趣味のキクで秋も地域に人を呼ぼう

渡邊紗恵子


ざる菊が並ぶ桜里の菊楽園

福島から
 趣味の花好きが高じて、もともとタバコをつくっていた畑にざる菊を植えている郡山市の木目沢久一さん(79歳)。植え始めて4年ほどになるこのキク畑が、見ごろになると2000人もの人が訪れる名所になりつつあります。
 ざる菊とは、1株に2〜3㎝の花が数千個も咲くキクで、ザルを伏せたような丸い形の株が特徴です。10〜11月にかけて、ピンクや黄色、赤、白などの花が咲きます。
 木目沢さんの住む木目沢地区には、春に花見客が多く訪れる「地蔵桜」があります。この地の利を生かして、木目沢さんは「秋にも人を呼びたい」と考えました。近くの田村市や川俣町にざる菊をつくっている人がいたので、栽培方法を教えてもらったそうです。およそ30aに2500株を植え、「桜里の菊楽園」と命名しました。
 サクラは毎年自然に咲きますが、キクは手がかかるので大変です。また、せっかくの見頃の時期にやってくる秋雨にも悩まされます。でも、「『また来年も見にきますね』って言われたらやめるもんもやめられない」と木目沢さん。
 高い場所に畑があるため、畑から遠くに望める安達太良連峰の景色もとても美しいです。

所在地:郡山市中田町木目沢字岡ノ内76
開園時間:8〜16時
入園料:運営協力金として200円

復活の肥後米「穂増」で酒を醸す

青田浩明


花の香酒造で栽培している穂増

熊本から
「酒蔵の使命は地元を守り、人と社会を動かすこと」と語るのは、和水町の花の香酒造社長・神田清隆さん。6年前から農業部門を立ち上げて米づくりをしている。
 今年からつくるのは、「穂増」という、江戸時代の終わりに高い評価を受けていた肥後の在来品種だ。明治末期には熊本県で4000ha近く作付けされていたという記録がある。
 2017年、菊池川流域の農家が、茨城県つくば市にあるジーンバンクに保存されていたわずか40粒の種モミからこの品種を復活させた。花の香酒造でも、管理する水田40haのうち2haに作付けた。本誌の兄弟誌『現代農業』でおなじみの菊池市の農家・村上厚介さんなど、穂増のタネを増やしてきた農家にも助言をもらいながら、株間45㎝の「超疎植1本植え」で栽培している。神田さんは、「どこでもつくれる栽培法ではなく、和水の地力を生かした、ここでしかつくれない酒造りがしたい」と無肥料・無農薬にこだわる。
 酒の製法も江戸時代に主流だった生酛造りにこだわり、そのために使用する木桶(スギ樽)をわざわざ大阪の堺市まで買いに行ったそうだ。
 土を固めすぎないように、来年はできるだけ農機を使わず、農耕馬で耕耘する予定だ。「穂増を守りながら江戸時代の原風景を取り戻したい」と神田さんは話していた。

定年帰農者が
草刈り隊を立ち上げた

原 敬介


飯田次郎さん

静岡から
 富士市松野地区の飯田次郎さんは、5年ほど前に「おぐるま農園」という定年帰農者の集いを始めました。今では17人が参加し、野菜づくりなどを通して交流しています。昨年、そのメンバーを中心にした8人で「小車草刈り隊」を結成しました。
 荒廃農地が増え、「自分たちが立ち上がらないといけないと思った」と飯田さん、草丈1m以内であれば10aあたり1万5000円で草刈りを引き受けます。現場の状況に応じて依頼主と相談し追加料金をもらうこともあります。
 報酬の1割は隊の運営費とし、残りを作業したメンバーで等分します。例えば、10aを5人で草刈りした場合、かかる時間はだいたい2時間半で、1人分の手当ては2700円。刈刃代や燃料代もこの手当てで賄います。
 草刈り隊は依頼を待つだけでなく、「草を刈りませんか」と地主に交渉もします。「米の売り上げもない田に金かけられないよ」と断られることもありますが、草が茂って迷惑に思っていても「草刈りして」と言い出せない近所の人には喜ばれています。昨年の依頼数は12件でした。
 じつは飯田さんの出身は埼玉県松伏町。ミカンに惚れ込んで静岡へ移住し、定年間近までJAに勤めました。富士市に住んで40年が過ぎたそうです。「いまではすっかりこっちが『地元』ですよ」と笑う飯田さん。暮らしを営むことで生まれる土地への愛が言葉の端々に感じられました。

JA女性部のササゲプロジェクト

細田実生


ササゲ畑の前で巨瀬支部のみなさん。
右端が上森宮子さん

岡山から
 旧JAびほく(現JA晴れの国岡山)では、職員の大場裕典さんの提案で、耕作放棄地解消の一手として管内をササゲの産地にしようというプロジェクトを2018年から始めました。つくるのは、ササゲの中でも粒がふっくらしている「だるまささげ」です。JAの中でも最大の組織である女性部の有志に無料でタネを配りました。
 プロジェクトの中心となっている高梁市巨瀬地区の女性部は、15aほどの放棄地を借り、全部員50人を挙げて栽培しています。2年目からは自分の農地に作付ける人も出てきました。収穫されたササゲは自分たちで食べるほか、JAを通して関東地方へ出荷されます。10aあたり120㎏ほど収穫でき、1㎏2000円ほどの売り上げになります。
 ササゲ栽培を始めたときに巨瀬支部長をしていた上森宮子さんは、「耕耘とかマルチ張りとか『日当は払えんけど、旨いもの食べさせるから』って男たちにも協力してもらってさ。地域を巻き込んだササゲづくり」と言っていました。
 ササゲは小豆よりひと回り大きいマメで、炊いても割れにくく、祝いの席の赤飯の材料として人気。地区のイベントで振る舞う1個50円の赤飯おにぎりは大好評で、7升分がすぐに売れてしまいます。
 もともとこの地域はササゲの産地ではなかったものの、プロジェクトをきっかけに身近な作物になってきたようです。

全国の農家を刺激、
若手農家3人の農業ラジオ

宮本奈緒


ラジオ収録の様子。左からジョンさん、
ペンダさん、ぎっちゃん

北海道から
 江別市で大規模稲作経営をする巴農場の中核、岡村若桜さん。青年部役員を歴任し、今ではJA道央の青年部部長、ニンニク部会長でもある熱心な若手農家です。
 若桜さんという素敵な名前でも有名なのですが、じつは彼には二つ目の名前があります。その名も「ジョンさん」。同じ江別市の伊藤儀さん(ぎっちゃん)、岸本佳代さん(ペンダさん)との3人組で数年間「バカ農業」というインターネットラジオを配信し、全国で人気を博していました。
 その話題がなんともディープなのです。青年部はどうしたらもっとよくなるのか? パートさんはどうして増えないのか? 子供を育てながら農業やるってどこが大変か? JA理事呼んで何考えているのか聞こう……。常に、どうしたらもっと農家の現状がよくなるかをラジオで話し合ってきました。赤裸々に語り合う3人の熱意に呼応する農家は全国にいるようで、遠くは九州からもやってきてゲスト出演しています。
 番組は1回30分前後。2012年6月に始め、毎週配信してきました。今年の3月にバカ農業としての配信は最終回を迎えましたが、6月からは岡村さんが一人で「営農とサブカル」という番組名で配信を継続しています。
 忙しい中でも、農業の未来と自分の農的好奇心を追求する岡村さんに感動しました。

孟宗竹の竹細工で脱プラ

江利そらむ


コーヒードリッパー(左)とスピーカー

茨城から
 笠間市の農家・三村茂美さんは冬場の農閑期に竹細工をします。脱プラのために身近な材料を有効活用しようと竹に注目し、地元の職人に1年ほど教わりました。
 つくり始めて6年。材料になる竹は、毎年秋から冬にかけて、荒れた竹林から切り出します。一般的に竹細工には真竹が使われることが多いそうですが、地元にたくさん生えている孟宗竹でつくるのが三村さんのこだわりです。孟宗竹は分厚くて重く、切り出すときはひと苦労ですが、丈夫な製品ができるそうです。
 ザルやカゴなど伝統的な実用品にこだわらず、竹ひごを円錐形に編み込んだコーヒードリッパー、竹の幹をまるごと使ったスピーカーのほか、竹ひごの網目模様がきれいなスマホケース、お薬手帳入れなど、現代の私たちの身の回りにあるものを竹細工で表現しています。スピーカーはふるさと納税の返礼品としても人気があり、コーヒードリッパーは県のコンテストで昨年、奨励賞を受賞してから注文が増えてきています。
「70年くらい前から、竹製品の多くはプラスチックにどんどん変わってきた。これから大事なのは、今あるプラスチック製品を、竹製品に替えること。そしてそれを使ってくれる仲間を増やすこと」と三村さんは話してくれました。

ブドウの搾りかすで色鮮やかなカンパチ

見上太郎


五ケ瀬ぶどう桜舞カンパチを手にする
堀田洋さん(中央)と宮野恵さん(右)

宮崎から
 五ヶ瀬町にある五ヶ瀬ワイナリーは、町産ブドウ100%でワインをつくっています。その過程で出るブドウの搾りかすは、毎年25tほど。産業廃棄物として処理したり、地元の農家に堆肥にしてもらったりと、処理にお金と手間がかかっていました。
「なにかうまい使い方があるはずだ」と考えていた支配人の宮野恵さん。2015年夏、延岡市北浦町の丸正水産の社長・堀田洋さんと居酒屋でたまたま同席したのがきっかけで、ブドウの搾りかすを粉末にして養殖カンパチのエサにすることを思いつきました。
 日向灘に面した北浦町は以前から魚の養殖が盛んな地域でしたが、30年前25軒あった養殖業者は今や数軒になり、お互いの地域のために何かしたいという思いで共感したそうです。
 それから1年半後、適度な脂が乗り、さっぱりした味の「五ヶ瀬ぶどう桜舞カンパチ〜AUBE〜」が誕生しました。養殖魚特有の生臭さも減ったそうです。
 さらに、ブドウの搾りかすに含まれるポリフェノールの一種・アントシアニンの効果で、鮮度の目安になる血合いの褐変が抑制されることもわかりました。通常のエサで育ったカンパチよりも3〜4日長く鮮やかな色みを維持できるそうです。注文数も年々伸び、今では年間生産量の5万匹を上回るほど。廃棄物をうまく活かした、山と海のすてきなコラボです。

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