このコーナーは、「ゆるがぬ暮らし」「ゆるがぬ地域」づくりに取り組む、全国各地の耳寄りな情報です。

被災地にもちを届ける「農民住職」

横田江莉子


地元の子供たちともち米の
イネを植えた真出さん

長野から
 高山村の真出智真さん(59歳)は、光西寺の住職をしながら、遊休農地を借りて無農薬でイネを70a栽培する自称「農民住職」。多くの人にイネの生命力を感じてほしいと1本植えにこだわり、田植えやイネ刈りの体験イベントも開催。その米は「1本立ち」と名付け、村の給食センターなどへも無償で配っている。
 活動は村内だけにとどまらない。東日本大震災の1カ月後、真出さんは、地元の寺の住職たちと軽トラに野菜や果物を積み込み、岩手県南三陸町へ届けた。
 2014年からは自分でもち米もつくるようになった。肥料には南三陸から持ち帰ったカキ殻やウニ殻を使う。ついたもちは、ともに生きるという想いを込めて「きずな餅」。「白餅」と、古代米入りの「紫餅」があり、毎年小正月に南三陸の住民へ送る。そのほか、県内外の社会福祉協議会へ送って生活困窮者に渡してもらったり、刑務所を出所した若者の就労支援施設へも届ける。
 昔、檀家の農家は、収穫した米をいの一番に寺に持ってくるのが普通だったが、いまは逆。それどころか光西寺の檀家はゼロで、年収は120万円ほどだそうだが、「いただいたものを地域や社会のために使うのが寺の役割なんですよ」と、軽トラを駆り、あちこちに米やもちを配る超アクティブな住職だった。

村人憩いのカフェが美容院に

櫻井歓太郎


カフェの外観。営業は土日のみ

京都から
 福知山市の中心部から車で20分ほど離れた山間にある奥榎原集落は、世帯数80戸ほどで、住民の半分以上が高齢者の集落です。
 そんな奥榎原で「みんなが集まってのんびりできるところをつくりたい」と、10年前から「カフェ木楽里」を経営しているのが、大槻勝彦さん。ソバを栽培する農家です。
 大槻さんは芸術家としての才能も持ち合わせており、木を切り出してプランターやベンチをつくったり、野菜や果物を描く絵手紙もお手のもの。カフェでは、絵手紙教室やそば打ち教室、フジづるの籠づくりなど、様々なイベントを開催しています。「おしゃべりが弾んで楽しい」と、住民からも好評とのこと。まさに、むらのカフェです。
 そんななかで大槻さんは、散髪に行くのが一苦労だという高齢者の話を耳にしました。美容院があるのは市の中心部。息子や娘にも都合があるから頼みにくいし、バスは1日2〜3便と少なく、往復1000円もかかります。
 そこで美容院の休日に奥榎原に来てもらい、カフェの一部を使って出張散髪屋をしてもらうことにしました。美容師さんの厚意で、ヘアカットに顔剃りがついて1500円ほど。1カ月おきに定期開催し、毎回5〜6人が利用して喜ばれているそうです。

地エネのむらでミツマタ栽培

瀧澤宏明


中島俊則さんとミツマタ

京都から
 地元の滝を利用した小水力発電に取り組む福知山市夜久野町の畑地区。発電した電気は、地元のお母さんたちが運営する食事処や、EVトラクタなどに使っています(2017年秋31号p117)。その陣頭指揮をとる中島俊則さん(77歳)に最近の活動をうかがうと、耕作放棄地対策を兼ねたミツマタ栽培が拡大中とのことでした。
 ミツマタは紙幣の原材料の一つ。ネパールが主要な輸入先でしたが、15年のネパール大地震で産地が被災しました。以来、輸入量が減少し需要が高まっているのを受けて、16年から山に自生するミツマタの出荷を開始。有志10人ほどで「みつまた特産研究会」も立ち上げました。
 19年には山際の耕作放棄地20aで試験的に栽培も始めました。ミツマタは市の転作作物に指定され、10a3万円の補助金が受け取れます。また、市内の里山にも同年から毎年500本植えています。今のところ出荷は自生のものだけで、出荷量は年間6tほどです。
 同じく紙の原料であるコウゾがシカなどの食害を受けるのと比べ、ミツマタは獣害もなく、害虫もつかないため、山間部での転作に適しています。
 ゆくゆくは、ミツマタの皮を剥ぎ、ごみを取り除いて乾燥する加工所を地区に設置し、そこで使用する電力も小水力発電でまかなう予定だそうです。

趣味の木工で地元の木が素敵に変身

高橋真央


エンジュ(左上)、サクラ(右上)、リョウブの皿。
どれも地元の木でつくった

宮城から
 木材遊びの達人、登米市の岩淵髙雄さん(70歳)は、木を使って皿やボールペン、アクセサリーなどをつくり出す。木工を始めたのは役場職員だった40歳の頃。地元の木が紙の原料として出荷されるのを見て、「ここまで育った木をチップにしてしまうのはもったいない」と思ったそうだ。また、役場の仕事で学校を建てるのに関わったとき、大工さんたちから聞いた材木を活かす話がおもしろかった。以来、木工が土日を費やす趣味になったそうだ。
 作品づくりは木工旋盤が中心。高速で回転する木に刃物を当てて削る手法で「木工ろくろ」「ウッドターニング」ともいう。その道にドハマりし、定年退職してからは、世界的な木工旋盤作家に会いにアメリカまで行ったほどだ。
 木は山から切り出すほか、地元の製材所から買う。お気に入りの木はリョウブ。スギやマツ林に生えれば、真っ先に切られてしまう木だ。「削りやすくて乾燥するとガチッと硬い。小皿にぴったり」と岩淵さん。また、庭のイチイでつくったという皿はボコボコした質感を活かしていた。
 岩淵さんの皿を愛用している近所の人にも会った。孫がスープを飲む写真をケータイで見せてくれた。木を身近なものにしてものづくりを楽しみ、それを周りの人と分かち合うよさを感じた。

「多面」で田んぼの隅に洗い場をつくった

篠田将汰


及川さんが洗い場を案内してくれた

宮城から
 登米市吉田地区で、水田の隅に不思議なスペースがあるのを何度か見かけました。コンクリートで舗装された一角に、石でつくられたベンチもあったりして、一見すると休憩スペースのようです。
 地元の農家に聞いてみると、これは「吉田地域保全向上クラブ」が多面的機能支払の交付金を利用してつくった「洗い場」だそうです。作業で泥まみれになったトラクタや田植え機、苗箱などを家に運ぶ前にここで洗い流します。
 つくったのは15年ほど前。8人ほどで自主施工しました。費用は、コンクリートなどの資材代と作業日当を合わせ、1カ所10万円ほどでした。場所は、通行に支障がない農道わきの一角や水路の上などの公有地。県や市と何度も交渉して使わせてもらえることになりました。
 洗い場は地区に3カ所あり、使えるのは5〜8月の用水期間中だけ。蛇口から出るのは、農業用水路の水です。地元では利用したことがない農家はいないくらい親しまれています。近くの国道から見える洗い場には、ドライブ中の家族連れが立ち寄ることも度々。ちょっとした水浴びや休憩の場にも提供されています。クラブの代表・及川昭喜さん(78歳)は、「他地区の農家によくうらやましいと言われてね。私たちの自慢の場所ですよ」と話していました。

中山間直接支払で導入、共同利用のアゼ塗り機

細田実生


共同利用のトラクタとアゼ塗り機

岡山から
「アゼつけできます」の張り紙を見つけたのは、新見市の大野本村集落の集会所でした。集落の中山間直接支払の事務をしている恩田寛さんに話をうかがうと、集会所に併設された車庫に共同利用のアゼ塗り機とトラクタが置いてあることがわかりました。
 導入したのは約15年前。全16戸のうち農家が14戸で、各農家には機械の更新にお金がかかるという悩みがありました。その負担を少しでも減らすために、各家で持たなくても営農に支障が出ない機械は共同利用することにし、アゼ塗り機とそれを装着する20馬力のトラクタを購入したそうです。
 中山間直接支払の交付金を活用し、年間交付額140万円のうち半分の70万円を使って5年年賦で購入しました。市の許可を得て集会所に車庫をつくり、これにも中山間の交付金を充てました。
 利用料はアゼ塗り機が1m20円、トラクタが1時間1000円で、燃料代は自己負担。利用料は機械の維持管理費に充当します。最近は、近隣の集落に移住してきた人たちに貸し出すこともあります。
 大野本村は現在も個人で米をつくる水田が多い地域です。「15haある農地をみんなで協力して減らさない」と恩田さん。高齢化が進むなかでも中山間地の農業を守っていきたいという思いが込もったトラクタとアゼ塗り機でした。

毎月第3火曜、有機農家とママ友消費者がテイケイ

小森智貴


野菜を仕分けているところ

栃木から
 有機無農薬で野菜を栽培する市貝町の小野寺幸江さんに、3年前にできた「テイケイ3時」というグループの話を聞きました。
 小野寺さんら有機農家2人と、地元のママ友など5人が提携し、2人が栽培した野菜を定期購入するグループで、毎月第3火曜日の午後3時に集まるからテイケイ3時です。野菜は季節によって量の多少がありますが、費用は毎月2000円。消費者5人は、当日に収穫された野菜を自分たちで運び、自分用の野菜セットをつくります。脱プラの精神でビニール袋は極力使わず梱包します。
「農家が野菜を売って、消費者が買うという一方的な関係を越え、一緒に取り組むことでわかることがある」と小野寺さん。とれる野菜が少ない時期があるなど、畑や農家の実情を知ってもらう大事な機会だそうです。
 もう一つおもしろいのは、メンバー7人が、地元では手に入らない食材や気になる生活用品を共同購買したりもしているところ。「生協のような宅配サービスもあるけど、考え方が近い人たちで一緒に買ったほうが楽しい」と言っていました。
 そのほか、映画好きなメンバーがいるので観賞会をすることもあります。「テイケイ3時」の小さい農家と消費者の関係に新しい可能性を感じました。

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