このコーナーは、「ゆるがぬ暮らし」「ゆるがぬ地域」づくりに取り組む、全国各地の耳寄りな情報です。

有志14人、キュウリとダイズで
耕作放棄地を減らす

櫻井歓太郎


キュウリを植える畑と土屋さん

福島から
 土屋安弘さん(68歳)が暮らす福島市松川町下川崎の北集落は、山間にある70世帯の集落です。農家は10戸ほど。昔は養蚕が盛んでしたが、廃業する人が増えたことで荒れたクワ畑が目立つようになりました。
 55歳で定年退職した土屋さんは10年ほど前、集落の有志を募って、「下川崎活性化委員会北組」を立ち上げ、耕作放棄地を減らす活動をしてきました。現在のメンバーは60代を中心に、週末に参加するサラリーマン4人も含めて14人。土屋さんが耕作放棄地だった畑を借りて、ここ数年はキュウリとダイズを栽培しています。
 昨年は、10aに露地キュウリ600本を植えました。管理、収穫作業は2人1組となり1日2組ずつローテーション。農協へ出荷し、その収益から作業賃を払います。売り上げは340万円で、時給1500円ほどになりました。
 ダイズのほうは1・5haに作付け、JAでレンタルしたコンバインで65袋(1袋30㎏)収穫できました。土屋さんが認定農業者になることで畑作物の直接支払交付金を活用し、ダイズの売り上げは60㎏約1万7000円になります。それで時給1000円に届くくらいだそうです。
 ただし、自身の作業賃はなし。毎月の飲み会を楽しみに、「儲けは出んけど、農地が守られるならそれでいい」と話していました。

地元の温泉に地元の薪

栗山清美


薪ボイラー。導入には県の「森林そ生緊急対策事業」を利用

愛媛から
 松野町には、松丸駅の駅舎内に「森の国ぽっぽ温泉」という天然温泉があり、日帰り入浴や無料の足湯が楽しめます。ただ、源泉は25℃以下。これを沸かす熱源に活用しているのが地元の薪です。当初は灯油ボイラーを使っていましたが、林業研究会の会長・谷清さん(77歳)が間伐材を薪にしようと提案したのがきっかけで、薪ボイラー3台が導入されました。
 町の総面積の8割は山林。最初は、切り捨て間伐された針葉樹をペレットやチップに加工して発電用に販売することも考えましたが、加工施設やそれを稼働させるエネルギー源が必要になることから、薪として利用することにしたそうです。
 2015年秋、「森の国まきステーション」を整備し、翌年から木材の受け入れと薪の生産を始めました。運営は38人からなる任意組織が担い、木を持ち込む出荷会員は50人。買取価格は針葉樹は1t6000円、クヌギやナラ、カシの生木は8000円で、水分量25%未満の乾燥した木は、生木より1000円高くします。代金の半分は町内で使える地域通貨で払い、商店街にお金が落ちるようになっています。
 20年度の受け入れ量は351t。そのうち220tほどがぽっぽ温泉で使われました。残りは道の駅で販売するほか、ふるさと納税の返礼品にもなっています。

農高生がシカ肉加工、
解体処理施設も手づくり

大池俊二


シカ肉ジャーキ―「でぃあでぃあ」

長野から
 上伊那農業高校(上農)を訪問すると、「今、生徒たちがシカの解体処理施設を手づくりしているので見ていきませんか?」と境久雄先生に声をかけていただいた。
 上農のシカ肉加工の取り組みは、2017年の農業クラブ全国大会で最優秀賞を受賞した実績があり、生徒が開発したシカ肉ジャーキー「でぃあでぃあ」は地元に定着している。
 これまでは解体処理されたシカ肉を仕入れて製品化してきたが、その業者が廃業することから、生徒自ら「解体処理施設をつくろう!」となった。肉牛の受精卵採取室だったところを改装。食肉処理の基準をクリアするため、獣を吊るして解体する荷受け室と、枝肉を部位ごとに切る処理室の間に仕切りを設けるなど、水回り以外はすべて生徒の手づくりだ。
 2月に完成し、食肉処理業と食肉販売業の営業許可も得た。これで解体から加工、販売まで上農で一貫してできるようになった。
 また、施設をつくったことでシカの胃の内容物を調査するという新たな研究テーマもできた。食性を分析したり、ビニールやプラスチックがないか確認する。
 でぃあでぃあは月50袋ほど生産し、イベントを中心に、地元のパン屋などでも販売している。帰りにお土産としていただいたものを、さっそくビールのつまみにさせてもらうと、しかるべき味でたいへん美味だった。

生まれて初めての日本酒、
みんなでつくって一緒に飲もう

渡辺謙吾


酒米を収穫した若者 *興味のある方はホームページから応募https://uiyoi.fukushima.jp

福島から
 丹野友幸さんは、福島市松川町にある水原地区で、イネを中心に25ha経営しています。高校卒業後、新聞記者やパンの配達などをし、2001年に父の跡を継いで就農しました。お酒が好きで酒米づくりに力を入れ、福島地域酒米研究会の会長も務めています。
 46歳にして福島大学食農学類の2年生でもあり、忙しい農作業の合間に大学へ通い、農業経営や酒米の栽培技術などを学んでいます。
 そんな丹野さんが1年生の時(20年)に始めたのが「19歳の酒 初酔プロジェクト」です。大学の同級生など19歳の若者に田植え、イネ刈り、酒の仕込みを体験してもらい、出来上がったものを成人して初めての日本酒としてみんなで楽しく飲むというもの。参加費は無料で、現地までの交通費は自己負担です。
 丹野さんが栽培する酒米の主な品種は夢の香や福乃香ですが、プロジェクトで植えるのは山田錦です。東北での栽培にはあまり向かない品種だそうですが、「つくってみたくて。半分趣味だね」と笑っていました。40aに作付けます。
 プロジェクト初年は13人、2年目は17人が参加。お酒の名前は「初酔」で、売り出す分は「初祝」です。丹野さんは「若者に日本酒文化を知ってほしいし、農業に興味を持つ人も増やしたいよね。19歳の若者、大募集中でーす」と言っていました。

まちぐるみの多面活動組織、
各地区の課題を共有

細田実生


地区を越えてコンクリート舗装の自主施工

高知から
 担い手の高齢化と減少で、農地を継続するのが難しくなってきているのは本山町も同じです。山間部なので水路や農道も長く、修繕も大変です。
 こうした課題に、集落単位ではなく、町ぐるみで対処できないかと、2020年3月、430人と2法人から成る「土佐天空の郷保全会」が設立されました。保全会は多面的機能支払の広域の活動組織になっています。町内18地区を越えて草刈りや補修の人手を融通し、日当を支払います。
 各地区には担当委員を配置し、農地面積に応じて振り分けた予算内で活動します。事務作業は町の農業公社に委託。委員の負担を減らすため、活動実施報告にLINEを活用することも始めました。活動した際の写真や記録を農業公社とLINE上で共有すれば、公社のほうで報告書を作成してくれるというわけです。
 費用が大きくなる長寿命化の活動は、保全会で年間200万円の予算枠を設け、各地区から出された案件に優先順位をつけます。その際、農地面積が小さい地区には配慮もするとのこと。
 保全会が各地区の課題を共有、集約する場として機能するようになり、活動を通じて他集落の人との交流も生まれ、他集落の課題もわが町のことととらえる気運が高まってきているようです。

摘み取り会員と貸し農園で非農家とつながる

小森智貴


栽培指導の様子。フェイスブックは
「ふるさと山菜株式会社」で検索

埼玉から
 飯能市の永山隆さん(63歳)は、サラリーマンだった40代の頃に野菜づくりを始めました。定年退職後は農地1haを借りて、1人で管理しています。品目数も多いことから収穫が大変で、これがなければもっといろんなことができるのにと考えていました。
 そこで思いついたのが、農園へ来て収穫・購入してくれる「摘み取り会員」を増やすこと。地元のイベント会場で地道にビラ配りから始めました。100枚配れば、2〜5件は関心を持ってくれるとのこと。フェイスブックも活用し、5年ほどで会員は300人まで増えました。子供のいる家族から人気があります。
 収穫時期にはメールでお知らせ。好きな時間に来て収穫・購入してもらいます。会員とバーベキューもするようになりました。ワナ免許を持っているので、自ら捕獲したシカやイノシシも提供します。
 また、1区画25㎡の貸し農園を15区画設けて年6000円で貸し出しています。地元の市民農園(年2500円)に比べると割高ですが、それでも借りる人が多いのは、永山さんが栽培指導をしてくれたり、収穫・購入に来る家族がいてにぎやかだから。かん水用の井戸も近くにあり、農機具もそろっています。
 非農家とつながったり、消費者のいろんなニーズに対応できる農業経営だと思いました。

人生最後の仕事はモミジの植栽

渡辺世奈


植木として育てているモミジ

福島から
 福島市にある西勝沢集落の果樹農家・加藤武夫さん(73歳)は、15年ほど前からモミジを植えています。持て余した農地を荒らさないために植えたのが始まりで、50aに1000本ほどあり、今は3〜4mの高さがあるとのこと。植木として肥培管理するので農地転用は不要です。
 モミジには四つの利点があると教えてくれました。
①秋の紅葉観賞
②庭木として売れる
③床柱になる
④防風垣になる
 加藤さんは、自分でもモモ園の防風垣にしていて、せん孔細菌病の対策にもなるとのこと。ヒバを植える農家もいるが、ヒバは生長が速く管理が大変だそうです。モミジにはさまざまな種類がありますが、加藤さんは虫に比較的強く枯れにくいというイロハモミジを植えています。
「人生最後の仕事は、後世にいいふるさとをつくって死んでいくことだと思ってるんです」と加藤さん。畑で大きく育ったモミジを集落の共有林に植えてもいいか提案したところ、賛成が得られたとのこと。みんなで協力し、今年から移植作業を進める予定です。
『季刊地域』2020年春41号の「山に農地にむらに 木を植える」特集もお気に入りで、「ここは天国に一番近い桃源郷(p26)」を見て、「私もこんな里をつくりたい」と言っていました。

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