淡路島タマネギの「吊り玉」文化を祭りで守る
宮地美里
兵庫から
淡路島のタマネギはなぜ甘いのかと農家に聞くと、小屋で干してるからだと言います。畑に隣接した小屋に手作業でくくったタマネギを吊るして乾燥させる「吊り玉」は、淡路島で120年以上続く技術ですが、機械化や高齢化によって途絶えつつあります。
そこで、淡路島希望食品㈲マネージャーの井川翼さん(33歳)と地元大学生が実行委員となり、吊り玉祭を企画しました。内容は、15mのウネに並んだタマネギを、ビニールヒモですべて10個ずつの束にまとめる速さを競うというもの。島ではタマネギの収穫期になると「あのおばちゃん、くくるの速いで」といった噂が立ちます。祭りで誰が一番速いかを決めて、技術を共有、継承しようというのです。1位10万円、2位5万、3位3万と、賞金も高めです。
2019年6月の第1回当日には、選手60人を含む400人以上が集合。ばあちゃんが出るからと子供が見に来たり、食事の出店が並んだり企業の展示があったりと大盛り上がりだったようです。
優勝はタマネギ栽培歴40年以上の女性。井川さんによると「想像よりめちゃめちゃ速かった」とのこと。競技終了後には教えてほしい人が群がりました。
新型コロナの影響でまだ第2回は開催できていませんが、実行委員でタマネギの絵本をつくり3000部の販売を目指すなど、新たな活動を精力的に続けています。
大規模法人でも、生きものと一緒に農業
辻 涼香
島根から
安来市にある農事組合法人ファーム宇賀荘は、イネとダイズを合わせて192haつくる大規模法人。安来市といえばどじょうすくいの安来節が有名ですが、ファーム宇賀荘では「どじょう米」という無農薬・無肥料で生きものに優しいお米づくりをしています。
品種はヒノヒカリときぬむすめで栽培面積は10ha。田植えの終わった6月に、地元の養殖組合から13万円ほどで購入したドジョウの稚魚25万匹を田んぼに放します。ドジョウはユリミミズなどを食べて成長し、イネ刈りのため田んぼの水を抜く11月には16㎝まで大きくなるそうです。ドジョウを組合に買い取ってもらっても捕獲を委託していることもあり、元の金額の8割程度にしかなりませんが、薬の混入がないのを確かめるために飼育しています。米の収量は平均して10aあたり6俵前後。JAを通じて企業に販売しています。
2022年の3月に自社の乾燥調製施設が完成し、今年度の収穫分からは有機JAS認証を取得しています。法人設立当初から目指していた念願の認証取得です。施設の容量には余裕があるため、自社の有機栽培の面積を増やしつつ、希望があれば他の有機農家からの米の受け入れも行なう予定です。
なお雑草対策で12月から6月には10〜15㎝の深水を維持する冬期湛水を実施しています。冬の水田ではハクチョウの姿が頻繁に見られるようです。
ダイコン栽培を経験した中学生が
農薬の賛否を考える
原田順子
広島から
2022年11月、東広島市立西条中学校技術科・山田祐希先生の「農薬は良い?悪い?持続可能な社会のために、農薬とどう関わっていくべきか考えよう」という授業を見学しました。
「生物育成」という単元で、自分たちでダイコン栽培を土づくりから経験した後に、生産者の立場になって農薬使用を考えるというこの授業。農薬使用の是非という難題を、生徒とともに深く考えるのが狙いです。
まず、授業を始める前に農薬使用に賛成か反対かと手を挙げてもらうと、ダイコン栽培の経験を踏まえてか賛成26人・反対4人と賛成が圧倒的です。理由は「薬を使うほうがラクだから」、「虫を潰すのは大変」といった答えが多数でした。
その後、主要国の農薬使用量や農薬を使わなかった場合の収穫量の減少率、農薬使用野菜と無農薬野菜の販売価格の比較、農薬による健康や環境への影響など、農薬のプラス面とマイナス面の情報を伝えて意見交換します。
授業の最後に賛否を改めて聞くと、賛成17人・反対13人と変化がありました。「生きものにも優しい農薬が開発されないか」「農薬をかけて見た目をよくした野菜にしないと購入されないなら、農薬を使わせているのは消費者。消費者が農作物を選ぶ基準を変えることも必要では」など、具体的な意見が多数出て驚きました。
猿害から集落を守る柴犬
モンキードッグ!
三浦大弥
長野から
中山間地域の猿害の悩みは尽きません。木曽町三岳地区を訪れたところ、「付近で犬を使ったサルの追い払いを実施しています」という立て札を見つけました。
木曽町では、警察犬訓練所で3カ月の訓練を受けさせた犬を獣害対策に利用する取り組みを10年ほど前から始めました。費用はすべて町が負担します。訓練を終えて帰ってきた頼れる精鋭がモンキードッグとして活動します。
地区には現在3匹のモンキードッグがいます。普段はそれぞれ飼い主の家にいますが、サル目撃の連絡や追い払いのロケット花火の音がすると飼い主とともに現場に直行。一目散にサルへと向かった犬は、尾根近くまで追いやると、自分で家まで帰ってきます。人を襲うことはなく、ピンクの首輪が目印です。
日向集落の楯誠治さん(78歳)は町のモンキードッグ第1号の飼い主に任命され、その働きぶりの記録を取り続けました。当初は集団で畑や家の屋根を歩き回っていたサルが、今ではほとんどいません。時にはクマやイノシシを追い払うこともあったとか。
「毎日散歩に連れて行くずく(根気)は必要だけど、私たち夫婦にとっての癒しでもあった」と楯さん。
第1号として活躍した楯さんの愛犬サクラは3年前に死んでしまいましたが、今は3匹の子どもたちが立派にむらを守っています。
残念な県ジーンバンクの廃止
原田順子
広島から
広島県の農業ジーンバンク事業が2023年3月末に廃止されることが決まった。
この事業は、農作物の種子を収集・増殖・保存しながら積極的に配布するというもので、国レベルで遺伝資源の冷蔵保存に取り組むジーンバンクとは別に、30年以上広島県が独自に運営してきた。
在来種を含めた1万9000点近い種子を県内の農家は無料で利用でき、利用後は自分で採種して返却する仕組みだ。専任のスタッフが品種の特徴や栽培・採種方法を調べて利用者に伝え、県民とタネをつなぐ役割を果たしてきた。
廃止後は、一部品種は県の農業技術センターで研究のために保管され、残りは茨城県つくば市にある農研機構(国レベル)の農業生物資源ジーンバンクに移される。ここでも市民は500円程度でタネを活用することはできる。
だが、17年から始まった県のジーンバンク縮小の動きに対し、農家などからなる「広島県農業ジーンバンクを守る会」は反対運動を続けてきた。会の顧問を務め、20年以上ジーンバンクのスタッフとして勤務した船越建明さん(76歳)は「タネを活用するためには、冷蔵庫で保存するだけではダメで、特性や使い方を伝えることが重要。国の管理では難しい。廃止は金の問題ではなく、種子情報に対する県の認識の問題」と話す。
この廃止をどう考えるのか、多くの人と議論したい。
「ヘルスポイント」で約300万円の地域循環
島根から
人口2000人ほどの益田市中西地区は、地域通貨とも呼べる割引券によって地域経済を回している。これは中西公民館が2011年度から実施する「ヘルスポイント制度」によってできたもの。百歳体操やパソコン、手芸教室、月1回の朝市といった公民館活動に参加すると1ポイントずつもらえ、10ポイント貯まると400円の割引券が発行される仕組みだ。
朝市のほか、地域の温泉施設や商店、高齢者の生活支援を行なう「中西何でもお助け隊」などで利用できる。割引きの財源は公民館が開催する朝市の売り上げの1割で、今までに7000枚近くの割引券が発行された。
発案者の中西公民館・豊田忠作館長(71歳)によると狙いは地域経済の循環、公民館活動の参加者増、そして老人クラブの加入者減を食い止めることだ。そのため、老人クラブ加入者は、ポイントが2倍もらえるようにした。
制度の導入後、公民館活動の参加者は30%近く増え、老人クラブの加入者減少率は小さくなっている。また高齢者が野菜を積極的に出荷し交流の場ができるなど、多くの成果が出ている
「中西を80〜90歳になっても暮らしていける地区にしたい。行政のやることを待っちゃおられんけえ」とキラキラした目で語ってくれた豊田館長。このような活動が広がっていってほしい。
健康植物油として注目、
油糧種子カメリナを試験栽培
北海道から
留寿都村の留寿都高校では、3年前からカメリナの試験栽培を始めています。西洋ナズナの別名もあるアブラナ科の植物で、油は栄養価や機能性が高く、調理用として海外産が高値で取り引きされています。環境面からバイオ燃料の原料としても注目されています。3年生作物班とともに栽培に取り組む上野健一先生(55歳)が、栽培方法を教えてくれました。
タネ播きは6月。平ウネに播種機「ごんべえ」を使って播きます。互いに絡まりやすいため、播種密度は薄めがいいようです。
発芽率は90%以上と高く、病害虫は発芽後にウリハムシのような虫がつくくらいですが、倒伏しやすいので、バンドなどで補強しています。
播種後、90〜100日経つと1mほどの高さになり収穫。放っておくとサヤが開いてタネが落ちてしまうため、茶色くなりすぎる前に、早めに収穫する必要があります。なお、冬に雪が降ると枯れるので、北海道などの積雪地帯では雑草化の心配は少ないようです。
学校に搾油器がないため、タネをすりつぶして無水エタノールに漬けたものを紙で濾して油を抽出しています。採れる油の量は、収穫量に対し0.5%ほどです。
留寿都高校では試験栽培ですが、自分で栽培したカメリナ油の販売を始めている人もいるようです。今後の動向が注目されます。