家から見えるお盆の花火
津田美優
岩手から
毎年8月14日、奥州(おうしゅう)市江刺藤里地区の空には花火が打ち上げられます。地域づくりの一環として2019年から始まりました。13日のお盆休みに遠くに住む家族が帰省しても、翌日すぐに戻ってしまうことが多い。もう1泊して地元にいる日数を増やしてもらうことを狙って、花火は14日に上げています。
主催は藤里ファイヤーワークス(FIREWORKS)。花火といえば「遠くに出かけて観るもの」というイメージがありますが、代表の佐々木嘉春(よしはる)さん(52歳)は、移動の足がない人も、気軽に外出できない事情の人も、家から打ち上げ花火が楽しめたらいいなと、地元で花火を上げることにしたのです。
打ち上げ場所は地域内3カ所。1カ所だけだと家の近くから見えない集落が出てくるからで、さらにその場所も毎年変えています。
ファイヤーワークスの7人のメンバーは、その年花火を上げる場所周辺の人を重点に1口1000円からの協賛金を募ります。なかには3万円出してくれる人もいて、昨年は99件(個人88人、企業6、団体6)の方々から約55万円の開催費用が集まって、無事に花火が上がりました。
佐々木さんは「花火なら手間もかからないし、嫌いな人はいない。メディアにも取り上げられやすいから地域のイベントに打ち上げ花火はオススメだよ」と言います。
誰でも本屋になれるイベントを開催
江崎嵩弘
栃木から
宇都宮市の書店・うさぎやでは「誰でも本屋さんになれる」という面白いイベントを始めています。名付けて「BOOK SELLERS」。同書店の副本部長・髙田直樹さん(48歳)によると、「本屋さんを自分ごとにして足を運んでもらう」のが狙いとのこと。昨年9〜11月の3カ月間、うさぎや宇都宮東口店で開催しました。
イベント用の棚には幅40㎝ほどのスペースを12区画用意しました。これをSNSで募った出店者に1カ月2200円(税込)で貸し出します。出展者はここに新刊でも古書でも自費出版の本でも置くことができ、それを自分の決めた値段で売るのです。自分の区画には「屋号(本屋名)」をつけ、本には値札シールをはります。みなさん、家に眠っていた本や買ってきた本を並べたそうです。
髙田さんも「NAYA BOOKS」という屋号で自分が選んだ本だけが集まったミニ本屋をつくりました。エッセイや海外文庫を1冊300〜500円で並べたそうです。
売り上げの10%は手数料としてうさぎやに入るものの、これが経営に直接貢献するわけではありません。それでも2回目の開催要望の声も上がる好評企画となったようです。お客様を「本屋」にして巻き込みながら話題づくりに生かす手法は面白いなと思いました。
妊婦さんも通う森の中で子供を育てる保育園
杉野沙歩
沖縄から
敷地内に森があり、子供もママも妊娠中の方も通える保育園。昨年4月に南城(なんじょう)市にできた、その名も「おなかの中から保育園」です。認可外保育園ですが、定員の13人は埋まっています。
無農薬マンゴーをつくる軌保(のりやす)博光さん(55歳)がその園長。育児放棄や児童虐待のニュースが流れるご時勢で、「安心して子供を産める環境が必要だ」と保育園設立を考えていた時、農園の手伝いに来ていた助産師から「妊娠中も通える保育園はどうか」と言われたことがきっかけでした。
妊婦さんたちは週に1度来てくれる「助産師」に会いに保育園に通います。子育ての不安や心配事を相談したり、森の中で体を休めたりしています。子育て中のママも、ハンモックで睡眠不足の解消。気持ちのよい環境で不安やストレスを減らせれば、それがそのまま子育てのサポートにつながるのです。
子供たちも森で自由に遊びます。自然は室内とは違って安全なものばかりではありませんが、屋外での遊びを通して子供は学び成長します。
働いている保育士さんたちからは「自然の中で育つからなのか、他の保育園に通う子供たちより言葉を話すようになるのが早かったり、成長が早いような気がする」と、うれしい声も聞いているそうです。
地元の野菜が詰まった「むろねの賛笑漬」
橋本和徳
岩手から
室根山の麓(ふもと)、一関市室根町に「道の駅 むろね」があります。その直売所に、ひときわ目立つポップで飾られた「むろねの賛笑(さんしょう)漬(づけ)」という瓶詰めの漬物が並んでいました。開発に携わった室根特産品開発プロジェクトのメンバー、小山美津子さん(75歳)にお会いしました。
2018年に始まったプロジェクトには、室根の特産品をつくろう!という農家のみなさんが集まりました。この地域には、細かく刻んだトウガラシ・醤油・こうじを1升ずつ漬けた「三升漬」という郷土の調味料がありますが、地元の農産物を使ったオリジナル「三升漬」を開発しようと意気込んだそうです。
翌年から本格始動したものの、味や保存性の面で失敗の連続。料理研究家や微生物の専門家に指導を仰ぎながら、試行錯誤を重ねに重ねて、室根産のキクイモ・ゴボウ・ニンジン・シソの実を加えた室根オリジナルの三升漬が、22年末に完成しました。「ピリ辛」と「鬼辛」の2種類あります。
プロジェクト発足から商品化までなんと5年! 地元室根を想う農家たちが、地元の農産物を活かした「むろねの賛笑漬」。豆腐やギョーザ、パスタやピザなどなんにでも合う万能調味料として道の駅でも人気だそうです。
手軽な農業体験はいかが
オーナー制野菜づくり
辻 涼香
千葉から
古川亮太さん(26歳)は長生(ちょうせい)村でFarm Cafe Gonを営みながら、カフェと直売所で販売する野菜を10aほどつくっています。昨年6月、AaaS(Agriculture as a Service)と名付けた「農業をもっと手軽に体験してもらうためのサービス」を始めました。
野菜畑の一部を充てた、いわばオーナー制の野菜づくり。消費者は季節ごとに、品目と1㎡当たりの料金が載っているリストから栽培したい野菜と面積を決めてオーナーとなります。そして古川さんが、その土づくりから収穫までの管理を請け負うしくみです。
オーナーには、ウネ立てや播種、収穫と、イベントごとにメールで連絡し、好きな時に参加してもらいます。長靴や軍手も用意してあるので、手ぶらで農作業ができるのも魅力。
面積は1㎡からの契約で、人気の高かったダイコンの場合、1㎡で6㎏の量が保証されて料金は715円。収穫時に行けない場合は、送料はかかりますが送ってもらうこともできます。
今までに3組が、のべ44㎡の面積で、米も含めて25品目の農業を体験しました。消費者は食べたい野菜をスーパーで買うより安く入手でき、生産者は普通に出荷するよりやや多い収入を作付け前に得られるそうです。
サトウキビの作業受託法人
機械作業は女性に任せる
沖縄から
宮古島市の農事組合法人豊(ゆたか)農産は、地域のサトウキビ農家57軒から60haの機械作業を受託しています。
沖縄の農家には、先祖代々受け継いできた農地を大切にし「貸さない・荒らさない」の精神が根底にあります。しかし耕作放棄地が増えてきました。
それを豊農産が引き受けたいが、農地を借りるのは難しい。そこで地権者の農家には草取りなどをやってもらいながら機械作業を受託して、共に作業をすることを選びました。
その機械作業では女性が活躍しています。3年前にトラクタの自動操舵システムとドローンを導入しました。自動操舵で操作がラクになったこともあり、トラクタには3人の女性が乗るようになりました。また、ドローンの資格取得に必要な費用を法人が全額負担し、2人の女性がこれで肥料や農薬を散布するようになりました。
代表理事の辺士名(へんとな)忠志さん(61歳)は、「一緒に働いていると、機械操作の飲み込みが早くて驚いた。農業機械に慣れていない人でも、力仕事が苦手な人でも、簡単に使える機械が増えたことで雇用の幅が広がった。力仕事は男性に任せて女性に機械を使ってもらうと、地域の農業にはまだまだ伸びしろが生まれる」と言います。
集落機能強化加算で安否確認システム設置
岩手から
一人暮らしの高齢者や老老介護の高齢者世帯が増えている一関市千厩町小梨(せんまやちょうこなし)地区。民生委員や老人クラブの仲間同士で定期的に見回り活動をしていましたが、コロナ禍で最近は思うような活動ができていませんでした。
この課題を解決するために動いたのが、農事組合法人ファーム小梨。中山間直接支払・小梨地区集落協定の役員も所属する集落営農組織です。2021年度にファーム小梨が中心となり、集落機能強化加算を利用して安否確認システム「みまも郎」を導入・設置しました。集落機能強化加算は、高齢者の買い物支援など、営農に関するもの以外を強化する取り組みに使える交付金です。
「みまも郎」は、冷蔵庫やドアに取り付けた無線センサーが生活反応を感知し、その情報を民生委員・ファーム小梨・家族に定期的にメールで送信するシステムです。カメラで映像を撮ったりするわけではないので利用者も受け入れやすいうえに、利用料も月額198円と安い。
21年度に14台設置し、約150万円の導入費用に交付金を充てました。23年度までに4台増えた分も交付金で賄っています。
組合長の千葉賢さん(68歳)は「集落営農組織は農地だけではなく人も守っていく組織にしていきたい」と言います。