JR元町駅から徒歩4分、元町商店街のアーケードの一角に海文堂書店はある。1914(大正3)年、海事書専門の出版社として設立した海文堂は、70年代に品揃えを広げて総合書店となり、間もなく創業100年を迎える地元の老舗店だ。店内2階では、地元書店が合同で「元町・古書波止場」(17坪)も開設する。
取締役店長の福岡宏泰さん(53歳)は大学卒業後、県内の金融機関へ勤めたが、本が好きなことから27歳のとき海文堂に転職を決めた。
阪神・淡路大震災を経験したのは、その10年後のこと。震災直後、姫路市の自宅からなんとか神戸・元町に入れた福岡さんは、同僚とともに直近の避難所で生活しながら、店の復旧作業を続けた。くり返す余震。電気も断たれたなか、懐中電灯の明かりだけを頼りに、散らばった本を棚へ戻した。やがて取次などの人的な支援もあり、震災後8日目、海文堂は被災した書店のなかで一番早く店を再開した。
「再びシャッターをあげた日のことは、いまでも忘れられない。書店に明かりが灯ったことが、震災復興を予感させる希望になったのでは」と、福岡さんは語る。
だからこそ東北の出版文化を応援したい。海文堂では、東北地方太平洋沖地震で被災した仙台市の出版社「荒蝦夷」(『仙台学』『みやぎ手仕事めぐり』など、郷土色豊かな本を刊行)の全点フェアを2カ月開催した。
「荒蝦夷」代表の土方正志さん(48歳)と旧知だった人文書担当の平野義昌さん(57歳)は、被災地の書店が営業困難と知ると、すぐにフェアを提案。震災から2週間後、版元から直接仕入れた30点、合計120冊が宅配便で店に届けられた。
特設コーナーには『激励の言葉より本を売る!』のポップが掲げられている。福岡店長も平野さんも「頑張れ」とは決して言わない。書店として本を売ることで被災地を元気づけたいのだ。
「また店を開けよう。そして面白いフェアを企画しよう。被災地の書店さんが、そう思ってくれればうれしい」と福岡さん。平野さんの夢は1年後に「東北版元フェア」を開催することだ。
海文堂書店
〒650-0022 兵庫県神戸市中央区元町通3-5-10
電話 078-331-6501
http://www.kaibundo.co.jp/
文=農文協近畿支部 大森史子