取材こぼれ話

『季刊地域』前編集長の甲斐です。新編集長から「これだけはやれ」との命令で、13号から「町村長インタビュー」を担当しています。記事では、各地の首長さんから「企業経営の論理とは異なる地域経営の原理」を聞き出していきたいと考えています。ここでは誌面に掲載しきれなかったエピソード、取材のその後などをご紹介したいと思います。

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人と金と仕事が逃げないまちづくり

『季刊地域』最新号(15号)の町村長インタビューで福井県池田町町長の杉本博文さんが、現在同町角間郷地区ですすめられているコミュニティ・コープ(Cコープ)事業について次のように述べています。

——これは「小さな役場」づくりのような地域自治再生プロジェクトで、住民約615人の地区(9集落218世帯)で、小学校の跡地活用の話から、沖縄の「共同店」の考え方を土台に「農村生活協同組合」のようなものをつくり、地域の課題を住民自らの力で解決していくことを事業化するというものです。
 そのための自主財源もつくり、スモールビジネス、コミュニティビジネスを展開する。医療や福祉などの大きな課題は行政しかできないかもしれないが、地域型集落農業をはじめ、グリーンツーリズムや灯油の配達、雪下ろしは自分たちの力でできる。子育て支援もできるし、オンデマンドタクシーやスクールバスの運営も、スキー場を町から委託を受けて管理、運営していくこともできる。事業はみんなで参加・利用することで回る。(略)役場はその援護射撃をするという関係です。

 これと同じようなことを、13号で長野県泰阜村村長の松島貞治さんも語っていました。JAが閉鎖しようとしたガソリンスタンドをJAのOBが一般社団法人「振興センターやすおか」を立ち上げて運営を引き受けたらJA時代の最高額を上回る売上を上げるようになり、村外の民間業者に委託していたスクールバスや福祉バスの運営まで引き受けるようになったと。ガソリンスタンド横のお店はOBの夫人が運営しています。

いま、「従前のように、お任せ民主主義のもとで国や自治体が潤沢な財政を基盤とし、公共的なサービスをパターナリズム(父子主義・干渉主義)的に上から下へ一方向的に供給することをもって地域経営とする時代は終焉した」と言われています(矢吹雄平『地域マーケティング論 地域経営の新地平』2010年、有斐閣)。
 イタリアの協同組合の研究者、田中夏子氏によると、イタリアでも「全自治体の8割を占める小規模自治体は、人口構成上も財政運営が厳しく」、地域課題に対応するために「コミュニティ地域協同組合」が着目されており、そのコミュニティ協同組合は「新たな法人格の設立を呼びかけるものではなく、むしろ既存の協同組合が事業領域を越えて、地域を軸に横につながるプロジェクトを意味する」とか。

 10月5日には、千葉県鴨川市で「NPO法人大山千枚田保存会設立10周年シンポジウム」が開催されました。
 明治学院大学准教授で見沼・風の学校事務局長の猪瀬浩平さんによる「農力主義 地の力、人の力」と題する講演に続き、「中山間地域の未来を描く」というパネルディスカッションが3時間にわたって開催されました。そのパネリストは保存会関係者以外も含めてなんと14名! 理事長の石田三示さんに保存会以外の団体にもパネリスト参加を呼びかけた理由を尋ねると、「10年間で都市との交流による活性化という点では一定の成果をあげることができた。これからは、地域の他の団体の皆さんとともに地域の課題を解決していきたいから」との答えでした。その石田さんは2009年から衆議院議員を一期だけ努め、昨年の選挙には立候補せず、中央政界から地域社会に帰ってきた人です。

 池田町の杉本町長はまた、「池田町は人と金と仕事が逃げないまちづくりをめざしています」とも語っています。「大量・拡大・効率といった経済に挑戦するのではなく、地域の人と資源と技をつなぎ合わせ、循環させることで新たな仕事と金と仲間を生む地域社会づくりです」と。それはまた13号で明治大学教授の小田切徳美さんが語っている「中規模の経済を押し上げる小さな経済の積み上げ効果」とも重なる考え方でしょう。

 政府がアベノミクス、原発再稼働、TPPばかりかオリンピック招致、リニア着工、消費税引き上げにまで踏み切って、あからさまな大企業、大都市中心主義の姿勢を明らかにした今、全国、あるいは世界各地の、「小さな経済」を積み上げる地域の動きから目が離せません。


甲斐 良治(かい りょうじ)
1955年、宮崎県生まれ。農文協編集局次長。『季刊地域』元編集長。
1999年、『定年帰農』『田園住宅』『田園就職』『帰農時代』の「増刊現代農業帰農4部作」で農業ジャーナリスト賞受賞。その後も人々の新しい農的生き方を追究するとともに、「地元学」による各地の地域づくりの現場に出没する。NPO法人地球緑化センター理事、NPO法人中山間地域フォーラム理事、明治大学農学部客員教授。

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