農文協|季刊地域
甲斐良治の取材こぼれ話-
最近の投稿
アーカイブ
カテゴリー別アーカイブ: 未分類
トリクルダウン幻想vs積み上げ効果
連載第1回にご登場いただいた長野県泰阜村の松島貞治村長は、「泰阜村は人口が縮小しても落ちそうで落ちない『低空飛行の村』(笑)。リーマンショックでもショックを受けなかったかわりに、株価3万円でもいいことはない村ですが(笑)」とお話を締めくくられました。松島村長、このフレーズを3月の小田切徳美さん(明治大学教授)との対談でも語られたようで、小田切先生は近刊予定の『アベノミクスと日本の論点 成長戦略から成熟戦略へ』(農文協ブックレット8)に次のように書かれています。 「控えめな表現ではあるが、ダッチロールを繰り返す都市経済に対して、むしろ『低空飛行でよかったのだ』という松島氏のある種の確信を筆者は感じ取った。こうした脱成長への確信が、むしろ『失われた20年』のなかで、農山漁村では静かに広がっているだろう」 その小田切先生は、13号のインタビューで「『小さな経済』が『中規模の経済』を押し上げていく。トリクルダウンとまさに逆の動きですね。波及効果ではなく『積み上げ効果』です」とも述べられています。 したたり落ちなかった富 トリクルダウンとは、富める者が富めば、貧しい者にも自然に富がしたたり落ちる(トリクルダウン)という考え方。現在のアベノミクスがそうであるように、まず株や土地などの資産を持っている層や輸出企業が豊かになれば、資産を持たない層、内需企業もいずれその恩恵(おこぼれ)にあずかれるというものですが、実際にはそうはならないことは小泉内閣時代に輸出が伸びたにもかかわらず、むしろ国内格差が拡大されたことからも明らかです。 このことについては哲学者の内山節さんも「バブル崩壊以降の日本では、経済成長と雇用環境の改善が結びつかなくなってしまった」「今日の課題は、単なる経済政策ではない。どんな社会をつくって、どんな働き方や暮らし方をするのが人間を幸せにしていくのか。課題はそのことの発見にあり、その手段としてどんな経済社会をつくったらよいのかを論じなければならない」と述べています(東京新聞2013年4月21日「時代を読む」―「さまよう亡霊」)。 土台のゆるい「たられば幻想」 トリクルダウンを信じる人たちは「GDPが伸びたら」「輸出が増えたら」「株価が上がれば」「円安になれば」と言いますが、それはいわば「たられば幻想」。松島村長が人口1800人の村で20年前に「高齢化という地域の特性と福祉という地域の課題」を発見し、そこから在宅介護を中心とする社会福祉協議会の仕事を積み上げてきたのとは真逆です。 「町村長インタビュー」の旅は、「トリクルダウン幻想vs積み上げ効果」発見の旅になりそうです。 甲斐 良治(かい りょうじ) 1955年、宮崎県生まれ。農文協編集局次長。『季刊地域』元編集長。 1999年、『定年帰農』『田園住宅』『田園就職』『帰農時代』の「増刊現代農業帰農4部作」で農業ジャーナリスト賞受賞。その後も人々の新しい農的生き方を追究するとともに、「地元学」による各地の地域づくりの現場に出没する。NPO法人地球緑化センター理事、NPO法人中山間地域フォーラム理事、明治大学農学部客員教授。