降って湧いたTPP(環太平洋経済連携協定)参加問題。マスコミがまき散らす「参加しなければ日本は乗り遅れる」的な賛成論に、多くの国民が浮き足立ってしまっているかのようだ。
文字どおり地に足を付けて日々暮らす農家は、TPPをこう思う。
食料輸入は将来も安泰?
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唐突なTPP参加表明
菅首相による、TPP協議参加の表明はあまりに突然だった。そして、国内の農業政策など重要政策の検討もそこそこに、APEC首脳会談で自由化の 意思表明という国際公約まで進めてしまった。食料自給率50%を国民に公約した政府が、簡単に完全自由化を受け入れるというのは信じられないことである。 日本がTPPに参加することになれば、農業が受ける打撃は、1993年のガット・ウルグアイラウンド交渉によるミニマムアクセス米(MA米)受け入れとは 比較にならないものになる。
TPPはもともとシンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイの4カ国が2006年に結んだ自由貿易協定で、アジアに巨大な貿易権益が生まれ ることを見越したアメリカが参加を表明、日本政府に参加を促したのだろう。日本中の農家や地方の反対にあって、政府はTPP正式参加を見送り、準参加国と して、近い将来に決断をせまられることになった。この先、事態がどう展開するか、油断することはできない。
消費者との強い絆があっても…
さて、私は北海道の中央部、美唄市で10haの農業経営を行なっている。稲作を中心に七割近くが環境保全型農業である。私が環境保全型農業を始め たのは一九八九年からであるが、無・低農薬米の生産と共同販売を行なう農家グループ「元氣招会」を有志とともに設立して、今日に至っている。会の目的は消 費者との強い絆を作り、新しい農業経営を築くことであったが、これまでの22年間は、農政のめまぐるしい変動のなかで、試行錯誤の連続だったといえる。と くに1993年の大凶作と同時にやってきた、外米の緊急輸入とガット・ウルグアイラウンド合意によるMA米の受け入れは、私たちに大きな衝撃を与えた。こ のときを境に、米価はじりじりと下がりはじめ、現在に至っている。
この間、私たちはお客様の理解を得ながら、ここ10年来、契約価格を維持することができている。その理由は「安全・安心プラスおいしさ」という目 標を立て、さまざまな稲作技術の積み上げと、お客様から信頼と信用を得るためあらゆる手立てを講じてきたからと考えている。具体的にはハーブの畦畔植栽や 害虫駆除機など害虫防除技術の開発、そして設立当初から続けている、すべての農産物に履歴書を添付したり、「あかとんぼ通信」などでお客様にさまざまな情 報を伝えるなどの取り組みである。現在では個人客はじめ米穀店、レストラン、おにぎり店などへ販路を広げている。
残念ながら、私たちの取り組みも、TPP加盟後も大丈夫かというと、けっしてそうではない。私たちも地域の一農民でしかない。米や畑作物の大幅な 値下がりが起きると、農業後継者をめざしている若者たちも他産業に流れてしまう。活気を失った農村には次々と離農者が生まれるだろう。仮に一時的に生き 残ったとしても、廃耕地が増えていけば、用水の確保もままならず、結局農家としてはやっていけなくなるだろう。六次産業化法案も農地法の改正による大規模 化への誘導も付け焼刃にしかならない。対策が場当たり的で計画性がないからである。
食料は本当に輸入し続けられるか
私は別の問題にも危機感を持っている。それは、現在政府が検討しているTPPは、あくまで現在の条件でしか検討していないということである。現在 の条件とは、日本が自由に農産物を輸入できているということである。じつはこの条件はあくまで一時的なものであり、将来の保障はなにもないのである。なに もないどころか、不安に満ちたものであるということを、政府もマスコミも論じていない。
事実、世界の穀物価格は、数年前から高騰が続いている。原因は世界人口の増加とバイオ燃料、さらに地球温暖化による異常気象などによって需給バラ ンスが大きく崩れてきているためといわれている。さらに、世界の人口は年間8000万人近く増加し、2050年の人口は91億人と予測されている。一方で 飢餓人口は8億5000万人ともいわれていて、日本が世界中から食料を買いあさることは、飢餓人口を増大させることにもなる。お金を出しても食料を売って くれない時代が、すぐそこまで来ているのかもしれない。実際に、自国の食料を優先、国外へは輸出抑制している国家も最近出現している。
また、食料が投機対象となり、少量の不足でも大幅に高騰することも考えられる。最近、小麦、コーヒー、砂糖、食用油等の値上がりが始まり、食品業 界の経営を圧迫している。この原因は、アメリカの金融緩和により農産物が投機対象となったことによる。これが食料不足下でおきると、その影響は計り知れな いものとなるだろう。
どの国家も自国の食料を確保することは、当然のこととして対処している。将来の食料確保も考慮しない無策のTPPは、日本の農業と食料、そして地域・自然・文化をも滅ぼす、最悪の選択と私は危惧している。
(北海道美唄市・農家)
TPPは育ち始めた集落営農をつぶしかねない――ワシはTPPよりPPK(ピン・ピン・コロリ)島根県・糸賀盛人 |
TPP参加をめぐって日本中大騒ぎである。しかし、一般紙やマスコミは「農業保護VS国益」の対立軸をいたずらに煽っているとしか思えない。一部 の輸出産業が頑張ることで国民すべてが豊かになるならいいことだが、農業は衰退し、とくに中山間地域は今以上にクマやイノシシ、サルなど野生動物の楽園と 化することであろう。
補助金がむらに生み出したもの
農産物輸入の問題は何も今に始まったことではない。とくに米では、平成6年頃からだったと思うが、ミニマムアクセス米(MA米)輸入が決まり、国 は競争力ある農業をつくるため、ガット・ウルグアイラウンド対策費として6兆円にも及ぶ金を各地にばらまいた。この対策でできたものは、圃場整備された水 田、農産物販売の拠点となる道の駅、農産物を運ぶ農道の新設と改良などが目につくところである。この対策でただちに外国農業と競争力がついたとは思わない が、地域にある資源のいくらかを消費者に提供できる機会が増えたし、そのための基盤も整いつつある。
その後、ガットがWTO(世界貿易機関)に変わり、新たなルール作りが行なわれ、環境に配慮した農業なら保護も可とのことで、平成12年に始まっ たのが「中山間地域等直接支払制度」(以下、「中山間直接支払い」)である。この制度は、いずれ農産物輸入自由化に向けて強い農村づくりを行なうことを目 的に、農家に直接現金を支払うという今までになかった制度である。
平成17年には中山間直接支払いも第2期対策となり(22年から第3期対策が始まっている)、19年には「農地・水・環境保全向上対策」(以下、 「農地・水」)も始まった。環境保全型農業の振興に大きく貢献し、以前と比べると農村はきれいになったと思う。おかげで、わがおくがの村では、セイタカア ワダチソウを1本も目にすることはない。
いま、農地を守る協同の力が発揮され始めた
「中山間直接支払い」や「農地・水」の制度では、個人払いのほか、地域での共同活動への支払いが盛り込まれた。わがおくがの村が全国に先駆けて取り 組んだ「集落営農」への応援である。集落営農は、協同の力を発揮し、様々な無駄を省くことで地域を守るという、日本の農業と農村の状況にもっとも合致した 手法だと思う。
民主党政権に代わり、戸別所得補償制度が始まった。だが、個々の農家がわずかな水田を作るために高額な機械を導入し、隣近所と競争を続けていて は、10a当たり1万5000円の助成を国から受けても経費を賄うことは不可能。わずかな金をあてにせず、協同の力を発揮できる集落営農へ農家が参加する ことで地域を守っていかなければ、中山間地は山地への道を歩むことになるだろう。集落営農で経費削減等を行ない、戸別所得補償をまとめて交付金を受けるこ とでメリットもより発揮できる。
資源のない日本にあって農地は貴重な資源である。その農地も国の力をいただき美しく機能的に整備され、数多くの集落営農が育ちつつある。ハードと ソフト両面を整えることで、食料自給率50%へ向け何らかの方向が見え始めたこの時期に、国内農業つぶしのTPP参加ではたまったものではない。
都市住民も目覚めたか
また、都会ではこのところ家庭菜園ブームとの報道があり、今やその数200万人とか。すごいことである。人間は、金があっても食料がなければ生き られないことがわかってきた証と考えるのは早計かもしれない。しかし、自分で作って自分で食べることに目覚めた都市住民が増えたことはとても喜ばしいこと である。もっと言えば、そういう都市住民の数パーセントでも田舎へ入り、農業を始めることとなれば万々歳だ。わが地域はそのような方々を迎え入れる準備を 着々と進めている。わが津和野町へ、おくがの村へ、ぜひ足を運んでほしい。
発言もするが、粛々と集落営農を続ける
国ではTPP参加に向けて、問題の農業対策について、菅総理を本部長とする「食と農林漁業の再生推進本部」を設置し、2011年6月を目処に基本 方針を決定するとのこと。諮問機関である「実現会議」の外部有識者委員も決定された。今までは疎外されていたJA組織も、今回は全国農業協同組合中央会の 茂木会長が委員として参加できるようで、われわれ百姓の代表として、何があっても頑張ってもらいたい。基本はTPP参加のための会合ではあるが、新たな対 策を立てる場として臨んでほしいと思う。
各分野からの委員の発言は千差万別、とりまとめは困難を極めることであろう。アメリカ主導で押し切られたようなTPPを、せめてFTA交渉からで もやれないものかと願う日々である。国内対策は、最後には戸別所得補償の増額程度で落ち着く可能性もありそうだが、国民が理解できる形を作るには十分な情 報提供が必要である。
いずれにせよ、われわれ百姓は、しっかりと発言もするが、日本の原型を保つためにも、国民の食料基地を守るためにも、粛々と集落営農を継続する。 そして、「朝・昼・晩と自前の野菜で米を食らい」「死ぬまで働いて汗をかき」「土へと帰って行く」。「それまでは働いて楽しく生きる」。TPPならぬ PPK(ピン・ピン・コロリ)が私の持論である。
(島根県津和野町 農事組合法人おくがのむら代表)
『現代農業 2011年2月号』では、以下の記事が続きます。
倒れるのは農家だけじゃないよ
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生きるための、文化としての、公共財としての農業を見直したい北海道・西川直哉 |
オタオタするのはやめよう
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