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トモシビソウ日記連載季刊地域Vol.58 (2024夏号)

福島

【トモシビソウ日記 第1回】4月末、ある日の「燈日草」

菅家洋子さんは、ご夫婦でカスミソウを栽培する農家。その家業の傍ら、出店本屋「燈日草トモシビソウ」を開くようになって4年目になります。菅家さんが暮らす福島県西部の昭和村では、廃校を利用した交流・観光施設「喰丸小くいまるしょう」で村民がお店を開く事業を村が進めているとのこと。月に3~4日(週末)、菅家さんはここで小さい本屋を開くのです。本の仕入れ方などの詳細は『季刊地域』vol.58(2024年夏号)で紹介しています。この連載では燈日草ともしびそうの日々の様子を綴ってもらいます。本を通した素敵な出会いがあるそうです。

菅家洋子(福島県昭和村・花農家)

夢みたいな本屋

 自宅から20分ほどの場所にある交流・観光施設「喰丸小くいまるしょう」。割り当てられた教室に机を並べて、布を敷き、本を並べる。文字にしてみると簡単だけれど、まずはずっしりと重い本を運び入れるところから、すべてを整えるまでには1時間半くらい、片付けにも同じくらいの時間がかかる。
「この作業がもう少し手軽ならどんなにいいだろう」と、もう何度も思ってきたし今も思っている。だけど、がらんとした教室に、まるでいっときの夢みたいに本屋が現われる、この感じはいいなと思う。そして、「あーできた」ってほっとして、「今日はここにいられるんだ」と思うと、とても幸せな、ぜいたくな気持ちになる。

 冬囲いの外された喰丸小くいまるしょうの窓からは、満開を迎えた桜の木がちょうどよく見えて、その日の店番はお花見をしているのと同じようだった。光も、緑も、何もかもが新しくてまぶしくて、戸惑いのような感情が混ざる春。本のある場所で、本を介して人と会う安心感に支えられていることを感じている。

燈日草の店内。窓の外には満開のサクラ

一冊一冊がたいせつな本

 あたたかくなって自然も人も動き出し、農作業も始まる季節、今回は畑や植物にまつわる本を新しく入荷した。その日はじめてのお買い上げがそのなかの一冊、『農家が教えるよもぎづくし』(農文協)だった。選んでくださったのは母親世代の女性で「よもぎは、いつもは天ぷらにするくらい」とのこと。本を参考に、今年は天ぷらとは違うよもぎ料理を作られるだろうか。一冊の本で、いつもの春がすこし変わる。新しい風を手渡したような気分。

「読んでみてもいいですか」。本を手に取る前に声をかけてくださる、そういう方が時々いる。わざわざ聞いていただくまでもないのだけど、その配慮がうれしい。そして、丁寧に触れてくださる方なんだなと安心する。

 なかには、とても大胆な本の扱いをする方もいる。本のある場所を楽しんでもらいたい、だけど売りものである本の扱いには気をつけてほしい。悩んだ末、お店の入口にこんな言葉を置くことにした。
「一冊一冊、たいせつな本です。気になった本を試し読みされる際は、折れたり汚れたりしないよう、ご配慮ください。小さなお子さまには、お付きそいをお願いいたします」

 本を丁寧に、時間をかけて見てくださる方には、「ゆっくり見てくださってありがとうございます」と声をかける。それは、本当に嬉しいことだから。本そのものの良さ、そして私が選んだ「燈日草ともしびそう」の本にある良さを、大切に共有してもらえているようで、とてもありがたい気持ちになる。

筆者の菅家洋子さん

著者:菅家洋子(福島県昭和村・花農家)

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農文協 編
よもぎは古くから私たちの食や健康に寄与してきた、もっとも身近で人気の高い野草のひとつ。その用途は多岐にわたり、農家のよもぎ活用パワーはとどまるところを知らない。本書では『現代農業』の記事などをもとに、摘み方や保存法、色をよく仕上げる下処理のコツや、農家の考えたあっと驚くよもぎの活用方法を紹介。
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