
文・写真=編集部
『季刊地域』64号(2026年秋号)「盛岡発 ナラ人気、広葉樹人気の現場より」より
各地でナラ枯れが問題になる一方で、いま、北海道や東北ではナラ材ブームが起こっています!
編集部が、ナラをはじめ、広葉樹材のメッカとして知られる岩手県盛岡市の木材流通センターと伐採現場を訪ねました。
多様な広葉樹を切る現場
11月中旬、広葉樹、なかでもナラ(ミズナラ・コナラ)の人気が高まっていると聞いて岩手県盛岡市に向かった。岩手県森林組合連合会(岩手県森連)が運営する盛岡木材流通センターは、北海道旭川市や岐阜県内の銘木市と並ぶ広葉樹材のメッカとして知られる。2024年度は、約3万3000m3の木材取扱量のうちなんと72%が広葉樹。スギに代表される針葉樹を圧倒している。
その盛岡センターに広葉樹の丸太を出荷する(有)砂子澤(いさござわ)林業の伐採現場を訪ねた。代表の砂子澤元(つかさ)さんは祖父から引き継いだ会社を切り盛りする36歳。砂子澤林業では、おもに集落周辺の広葉樹の立木を買って、用材になる丸太を盛岡センターへ、それ以外は製紙用のパルプ工場へ販売する。

この日の現場は、盛岡市街から南東に20kmほどの地元・砂子沢集落で、川沿いの北向き斜面で伐倒された広葉樹を、プロセッサと呼ばれる造材機械が玉切りしているところだった。用材向けに仕分けられた丸太を見せてもらうと、クリ、オニグルミ、ケヤキ、シナ、ニレ、トチ、カツラ、ミズキ、イタヤカエデと9種類もある。対照的に、川を挟んだ反対側の南向き斜面はコナラばっかり。目の前にある農家の裏山のコナラを切る仕事をちょうど1年前に請け負ったそうだ。
この日切ったところもそうだが「後継者がいないから、子供は山に興味がないから、自分の代で始末をつける」という理由で伐採を依頼されることが多いという。以前は、広葉樹は切っても針葉樹は残してくれと言われたものだが、ここ3~4年はそれも切ってくれと頼まれることが増えた。砂子沢集落に暮らす住民は40軒。平均年齢は80歳になる。

別の現場でミズナラも見せてもらった。砂子澤さんが子供の頃は「ミズナラは家(床や家具など)に使う、コナラは薪に使う」と教わったが、盛岡センターの市でつく価格にはほとんど差がない。コナラもミズナラ同様に、径級(*)24cm以上で2.2mの直材がとれればよく売れる。
見せてもらった広葉樹は12月の市日(毎月第3木曜日)に向けて出す予定だが、11月の市にも50m3ほど出荷している。その中にはまっすぐに伸びたクリの木があり、これは7.2mと長く切って出すことができた。クリの長材は高値が期待できるそうだ。
*径級は木材の太さを表わす数字で、末口(木材の細い側の断面)の短径。2cm刻みで示す。
各地から232社の買い手が集まる広葉樹市場
盛岡センターはじめ岩手県森連が運営する9カ所の木材流通センターは、東日本大震災後に先進的なウェブ入札の仕組みを導入している。盛岡センターでは、ウェブサイトにアップされた画像をもとに、その週の月曜から当日木曜の昼12時まで競り合う。ただし、ウェブの画像だけで購入する買受人はまずいない。24年度は、岩手県内の120社を筆頭に、北は北海道から南は徳島県まで全国で232社の買受実績があるが、どこも市日までに足を運んで現物を確認する。この日も100社くらい来ていたようだ。

ミズナラだけでなくコナラも人気
取材に訪れた日の翌日、11月20日が盛岡センターの市日だった。盛岡市の隣の矢巾町にあるセンターの土場は運び込まれた丸太でいっぱいだ。温暖化の影響もあり、冬が切り旬の広葉樹の出荷が本格化するのはこの11月からになる。
話を聞かせてくれた岩手県森連の阿部慎也副参事によると、盛岡センターが扱う広葉樹の中でナラはダントツに多い。全2万3415m3の広葉樹のうち半分近い1万798m3を占める(24年度)。注目はその平均単価で、16年度が1m3あたり2万3523円だったのに対し、24年度は4万7107円。ちょうど2倍だ。その平均単価の順位も全樹種の中で2番目。価格が急に上がったのは22年度からで、世界的な木材供給不足で国産針葉樹が値上がりした「ウッドショック」に1年遅れてのことだ。

ミズナラとコナラに価格差がないというのはその通り。センターでは、聞かれればどっちのナラかわかるようにしているが、土場に並んだ出荷木のラベルにも樹種は「ナラ」としか表示されていない。
最近のナラの需要の増加は、床板のフローリング用とウイスキーの樽用に代表される。どちらもそれほど長い板が必要なわけではないので、曲がりや反りが出やすいコナラの欠点は問題にならないそうだ。それに、かつてのフローリングは木目や色合いが揃うのが前提で、径級30cm以上の丸太の赤身(中心部)だけを使っていたが、最近は樹皮に近い白太(しらた)も使う。むしろ赤白混ぜて使ったりするのでそこまで太くなくてもよい。ウイスキーの樽も、径級40cm以上は必要だがミズナラかコナラかは関係ないという。
同席してくれたノースジャパン素材流通協同組合の鈴木信哉理事長によれば、赤身だけで木目が揃ったフローリングは、むしろプリントされた偽物かと疑われるそうだ。木目や色が揃っていない、小さい生き節がパラパラ見えるほうを好む「ナチュラル志向」が高まっている。ウイスキーの樽もハーフ樽という半分サイズで仕込むことが増えているので、曲がりや反りはなおさら問題にならない。
また、人気が高まっているのはナラだけではないらしい。阿部さんによると、広葉樹全体の1m3平均単価も、16年度の2万3000円から24年度は3万6000円まで伸びている。

広葉樹人気の背景には、阿部さんらセンター側の山主や素材生産者への情報提供もある。針葉樹と違い多様な広葉樹は、どの樹種をどう切れば高く売れるかよく知られていない。たとえば、一般に無節は好まれるが樹種によって程度が違う。径級は24cm以上がよいが、16cmでも売れるオノオレカンバのような木もある。ブナやイタヤカエデ、トチノキなどは白太部分が多い材が高値で売れる。そのためには、カビが入らないよう、切ったら早めの出荷を呼びかけている。
ホワイトオークがナラに チェストナットがクリに
ところで、鈴木さんが理事長を務めるノースジャパン素材流通協同組合というのは、どんな組合なのだろうか。
組合の設立は03年。当時、ロシアが丸太の輸出に関税をかけることになり、ロシア材に頼っていた日本の大手合板工場が大慌てとなった。合板の原料というのは、かつては東南アジアのラワン材が使われた。それが熱帯雨林を破壊しているという批判を浴びるようになり、ロシアの針葉樹に切り替えていたところで関税問題が起きた。そこで国産材を集めて合板工場に供給しようと、東北6県の素材(丸太)生産業者が集まりノースジャパンをつくったそうだ。現在の組合員は約250社で、冒頭の砂子澤林業もそのうちの1社だ。
鈴木さんは元林野庁の職員で中部森林管理局長などを務めた。ノースジャパンの理事長となって8年。最近は里山の広葉樹活用についての情報発信に力を入れており、たびたび講演もしている。

鈴木さんによれば、アメリカによるウイスキー・ワインの樽市場の活性化やロシア・ウクライナ戦争による広葉樹流通量の減少、円安による輸入材の高騰で、国産広葉樹に対する注目が高まっている。もともと日本では、国内の広葉樹需要に対し国内からの供給量は1割しかなかった。しかもその4分の3は木材チップ用で、製材用はごくわずか。だが、日本は広葉樹資源が豊富だ。それも奥山に入る必要はない。かつての薪炭林、里山など、集落のすぐそばから切り出せるところが多い。

用材として人気が高まっている広葉樹は、家具メーカーがこれまで頼みにしていた輸入材を置き換えられる樹種だ。ホワイトオークはミズナラ・コナラ、ウォールナットはオニグルミ、ブラックチェリーはヤマザクラ、チェストナットはクリに、といった具合だ。また、従来は使われなかったのに最近需要が増えている樹種もある。シラカバ……