
執筆者:吉田涼子(徳島県神山町・神山町移住交流支援センター、四方山設計)
『季刊地域』65号(2026年春号)「時代を映す建材アスベスト」より
今回は、新築の家にはなく、空き家には存在する素材に注目です。
石、土、竹、茅(カヤ)など、建築生産の近代化や暮らしの変化が理由で使われなくなったものは、今までの連載でも登場しました。それとは別の話として、環境や人体に悪影響があるため使われなくなったものもあります。冷蔵庫のフロンなどは有名ですし、農薬も今と昔では成分の規制が変わっていますよね。
そのような観点から、空き家を見るときに避けて通れないアスベストを取り上げようと思います。
「夢の素材」だったアスベスト
石綿ともいわれるアスベストは、名前の通り綿のように細い繊維状の天然鉱物です。耐火、断熱、保温、防音、絶縁、耐摩耗など、重宝される性質を持つため、日常生活に関わる様々な材料に使われてきました。建物以外にも、自動車のブレーキパッド、設備機器のガスケット、こたつやオーブントースターのコードなんかにも使われていたそうです。
一方、加工しやすい細い繊維状は、裏を返せば飛散しやすいということ。存在自体が即問題になるわけではないですが、一定量を体内に吸い込むと、石綿肺・肺がん・悪性中皮腫などの健康被害があるとされています。これらの病気はそれぞれ10~50年もの潜伏期間があり、すぐに発症しないことが被害を認識しづらくしています。
現在では、使用禁止はもちろん、労働安全衛生法、大気汚染防止法、廃棄物処理法など、法律に基づいて飛散防止・予防のための対策が定められています。
よくある「空き家」で要注意
1970~90年代は、特にアスベスト含有建材の使用量が多かった時代です。今、いわゆる空き家として扱われている家は、まさにこの時代に建てられています。「平成の建物だから大丈夫やろ」と言う方もいますが、使用が禁止された2006年は平成! 規制が進んで最盛期ではなくとも、可能性はゼロではありません。

もっと古い昔ながらの素材で造られた古民家だとしても、昭和の時代に改修されていることが多くあります。生活の中で改修のニーズが大きいのは台所などの水回り。火を使うので耐火性も求められる部分です。
実際に当センターで関わった空き家でも、台所の天井、壁から検出された例を体験しました。

知識なしのDIYにリスクも
現在リフォームや解体時は、すべての建物に事前のアスベスト調査が義務づけられています。自分が気にしないからいいということではなく、近所や工事に携わる職人の安全に関わります。
空き家のDIY改修に挑戦する方も多いと思いますが、こうした基本知識を持っている必要があります。誌面では書ききれないので、勉強過程もDIYのうちと思って調べてみることをおすすめします。
アスベスト含有建材があっても、パニックになる必要はありません。適切な撤去・処分の方法があります(要資格)。飛散の危険性が少ないタイプの建材であれば、撤去せず封じ込める工法も存在します。
一方で存在を知らないと、DIYで壊してしまう、地震で倒壊して飛散するなど、不慮の出合い方で吸い込む可能性があります。
阪神・淡路大震災で復興現場に従事した方が、中皮腫で労災認定を受けたニュースを見た方も多いかもしれません。潜伏期間の長い病気なので、これから表面化する被害はもっとあることでしょう。
将来的にもよい素材か?
ここまで負の側面を書いてきましたが、使われた理由もあったわけです。アスベスト含有建材が火事の延焼を防ぎ、助かった命があるかもしれません。
よかれと思って主流だったことが、後の時代の重荷になってしまうという歴史は、他にも似た事象が見つかるでしょう。特に経済性や社会風潮で一気に広がったものは、後生のインパクトも大きく、処分にも大変なコストがかかります。
となると、現在の世の中の当たり前も、本当に将来にわたって「よかれ」なのか。渦中にいるとなかなか難しいですが、長い時間を内包する空き家を眺めると、そんなことを痛感させられます。
アスベストについて下記のサイトが参考になります