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【また「地方消滅論」ですか 第2回】地元出身者もどんどん帰りたくなるむら――島根県邑南町より

10年前の増田レポートによる「消滅可能性都市」の名指しに対し、農文協では『シリーズ田園回帰』(全8巻)を発行する中で『人口減少に立ち向かう市町村』(第2巻)の動きを取り上げた。わが『季刊地域』編集部の取材による、人口減少に歯止めをかける工夫や、人口が減っても地域の活力や人のつながりを保つ工夫である。その取材現場の報告(『季刊地域』2015年夏号掲載)から――。

文=編集部

「田園回帰」のモデル

 2014年度『農業白書』は、農村への関心の高い若者を中心に「田園回帰」の動きが出始めていると指摘し、島根県邑南《おおなん》町をモデルのひとつに取り上げた。同町では、町村合併直後の2005年はマイナス85人だった人口の社会減が、2013年にはプラス20人の社会増に転化。しかも、30代の子育て世代が増加しており、合計特殊出生率も2.65と全国平均の1.43を大きく上回っていることが評価されたからだ。

 たしかに邑南町は「日本一の子育て村」を目指すだけあって、0歳~中学生の医療費の無料化や第2子以降の保育料全額免除などおもいきった子育て支援策をはじめ、「地域おこし協力隊」やシングルマザーといった若い移住者を積極的に受け入れていることが功を奏している。だが、社会増実現の要因はIターンだけではない。じつは地元出身者のUターンや地元に残りたくなる地域づくりとの「合わせ技」の効果が大きい。今回の取材では、そうした「ふるさとへの回帰」があちこちに見られた。

集落営農のおかげでUターン続々

 「集落営農が始まって以来、定年組や若いモンがポツポツ帰ってきよるんよ。親や田んぼのことが気になるし、やっぱり地元は暮らしやすいんじゃろな」と言うのは、農事組合法人ファーム布施の営農部長・松﨑寿昌さん(52歳)だ。そんな松﨑さんの息子と娘も県内の大学を出て実家に戻ってきたばかり。

 旧瑞穂町の布施二集落は世帯数20戸ほど、峠を越えれば美郷町という端っこの集落だ。高齢化と人手不足で田んぼが荒れていくなか、「このままではイノシシの住みかになって、誰もおらんようになる」と、2003年に全戸参加型の集落営農法人・ファーム布施を立ち上げた。

 水稲12ha、飼料米2ha、イネの育苗ハウスを活用したトロ箱栽培のミニトマト3aの経営で、年間の売り上げは交付金も含めて1600万円ほど。規模は小さいが、法人ができたおかげで作業も決まった日にみんなでやれる。若手の勤め先である土建屋や森林組合は偶数土曜日が休日なので、田植えやイネ刈りは必ずそこに合わせる。町外からも手伝いに帰って来るので多いときは1日40人以上、農繁期はまるで祭りのようにワイワイ作業する。お楽しみは作業後の慰労と交流を兼ねた飲み会で、これを目当てに帰省する人も多い。

 「イベントだと、マンネリにならんよう企画にエネルギーがいるのでたいへん。それよりは飲み会の『つまみ』にエネルギーをかけたほうがいい。そうすりゃ自然と盛り上がるさ」

 広島から帰って来るAさんは、名物の大きな岩ガキやタコが手土産、地元在住のBさんは自分で仕留めたイノシシでシシ鍋をふるまう。地元出身者が加わって飲めば、昔話にも花が咲く。みんな素性が知れているので、安心して童心に帰れるのがたまらなく楽しいのだろう。ファーム布施ができて12年。都会などに出ていた地元出身者が4戸、Uターンで戻ってきた。

回帰予備軍はけっこういる

 松﨑さんの話が盛り上がってきたので、テーブルに布施二集落の住宅地図をバーンと広げ、地元出身者について一戸ずつ聞いてみた。

 「おお、この家は現役最高齢の78歳のじいちゃんががんばっとる。50代の息子が松江市にいるので定年後に帰ってくる可能性は大だな」「そこは去年、ひとり暮らしのばあちゃんが町の福祉施設に入ったから今は空き家」「ここは有望だぞ。息子が早期退職で広島から戻ってきて法人の組合員になっとる。最近は孫も手伝いに来るようになったわ」という具合で、20戸なのであっという間に終わる。

 こうしてみると、年寄りばかりと思っていた集落も5年後には定年組が戻って来るし、既に30代の若いオペレーターもいる。Uターン予備軍を含めれば、20戸中7戸は後継ぎがいるようで、「今では、集落消滅も後継者の心配もない」と松﨑さんは考えている。

公民館、自治会で「夢づくりプラン」を作成

 布施二集落のように地域が元気なら、I・Uターンの受け入れにも弾みがつく。自治体が定住政策を進めるうえで、移住者だけでなく、地域づくりの支援も不可欠なようだ。

 邑南町では、合併翌年から公民館、自治会、集落単位で「夢づくりプラン事業」を実施。地域の課題や将来ビジョンについて住民が話し合って予算を立て、実施計画を策定する。1年目のプラン策定事業では10万円、2年目からの推進事業で1戸当たり3000円の補助が町から出る。現在までに14の「夢づくりプラン」が誕生した。

 なかでも、2009年に策定された旧瑞穂町の出羽《いずわ》自治会(12集落・400戸)の「出羽夢づくりプラン」は秀逸だ。20年後の住みよい地域づくりに向け、産業、生活環境、定住・交流の3項目の夢をみんなで出し合い、

 「御用聞き・よろずやの復活」や「気軽に使える交通・運搬システム」「空き家・農地の相談員の設置」など、いろんなアイデアが生まれた。そのうえで、地域通貨をつくって地元商店を活性化させたり、LLC(合同会社)を立ち上げて移住者向けに空き家を斡旋するなど、住民が楽しみながら地域経営に乗り出している。

 邑南町では目下、地方創生の「地方版総合戦略」の策定を進めているが、これまでに積み上げてきた「夢づくりプラン」をベースにボトムアップ型にしたいという考え方だ。移住・定住対策と地域づくりは車の両輪であり、地域に夢(ビジョン)と実行力があれば、Iターンだけではない、「ふるさとへの回帰」の流れも一段と進むはずだ。

『季刊地域 vol.22 2015年夏号』「『人口減少に立ち向かう市町村』取材の現場から」より)

兵庫県淡路市からIターン就農した沼田高志さん(左)
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藤山浩 編著
中山間地域など人口減少に直面している地域では、住民の生活を支える基盤が失われ、人口減少に拍車がかかっている。こうしたなか、複数の集落を含む基礎的生活圏において、住民が必要な生活サービスを受けられるような施設や機能を集約し、確保する取り組みが求められている。この小さな拠点づくりは国もバックアップしているが、うまくいっていない地域も少なくない。本書は小さな拠点づくりの国の政策づくりにも関与した著者が、住民主体で小さな拠点づくりを進める手法とポイントを、豊富な具体例とともにわかりやすく解説している。
『季刊地域』編集部 編
人口減少対策はいまや全国の自治体や地域に共通する課題となっている。I・Uターンを多く迎え入れて社会増を実現した地域、他地域に住む地元出身者との関係を強めて活力を維持している地域など、住民自身が動き出した市町村は何が変わったのか。自治体の政策とともに集落・自治会・公民館まで分け入って現場の動きを取材。転換点となる戦略を4つのポイントから掘り起こす。
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