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また「地方消滅論」ですか連載

秋田

【また「地方消滅論」ですか 第3回】むらを離れても気持ちはつながっている――秋田県五城目町より

 10年前の増田レポートを受けて発行した『人口減少に立ち向かう市町村』(『シリーズ田園回帰』〈全8巻〉第2巻)の取材現場からもう1事例紹介する(『季刊地域』vol.22(2015年夏号)掲載)。
 秋田県五城目《ごじょうめ》町は500年以上続く朝市で有名な町。現在は人口約1万人だが、2040年には約5000人に半減するという予測もある。
 人口減少がすすむ秋田県のなかでも先頭を走る五城目町。だが町長の渡邉彦兵衛さんは「乱暴な『地方消滅論』が出され、五城目町も『消滅可能性都市』に挙げられていますが、『消滅』というなら、ずっと前に五城目では『小倉消滅論』がささやかれたことがあります。ところがどっこい、小倉集落は今も立派に存続しています。人数が少なくなっても地域が回っていく仕組みをつくってきたからです。『消滅』などという言葉自体が(意味が)ないのです」という。
 かつては交通が不便で、つい3年前まで水道も引かれていなかった小倉集落が、世帯数こそ減ったもののいまもまとまりよく暮らしているという。さっそく訪ねてみることにした。

文=編集部

むらとのつながりを表す小さな家

 五城目町役場のある町の中心部から小倉まで山越えの道を車で走れば10分ほどで着く。いまは軽自動車がなんなく越えるこの峠道、いまから10年ほど前にてっぺんのところを10mばかり掘り下げるまで、とくに冬場は4WD車でも難儀するほどの悪路だった。

 集落に入ると、道路や川べりの草はきれいに刈られ、田んぼには稲のほかに特産のセリも植えられている。初夏にはこのあたり一帯にホタルが飛び交うという。

 小倉は50年ほど前には27戸百数十人が暮らしていたが、いまは17戸34人に減ってしまった。だが驚いたことに町内会長の佐藤広勝さん(64歳)の玄関には子供の靴がたくさん並んでいた。佐藤家は母親の千代子さん(84歳)と本人夫婦、息子夫婦とその子供3人(小4・小2・幼稚園年長)の4世代8人住まい。息子さんは集落の大人でいちばんの若手。集落の小学生は広勝さんのお孫さん以外はひとりだけ。佐藤家1軒で集落の人口維持と平均年齢引き下げに大いに貢献しているわけである。

 では小倉をいったん離れた人はこの集落から切れてしまうのであろうか。けっしてそんなことはないという。年1回の村内の道と神社と墓所の草刈りには、町の中心部や隣の八郎潟町に住む4人の「他出者」がいつも参加する。道がよくなってむらに若い人が残るという期待は裏切られたが、出ていった人の多くは車で10~20分圏内に住み、奉仕活動にはたいてい来てくれる。もう少し遠い秋田市内に引っ越した人たちも、彼岸や盆の墓参りは欠かさない。

 近年、町が実施した空き家調査によれば、世帯数4200戸弱のこの町に空き家は368戸もあった。だが小倉には意外なことに空き家は一軒もない。小倉には集落を出ていくときは、家を壊していくという不文律があるからだ。だがそれでむらとの関係がすっかり切れてしまうというわけではない。隣町に住むある人は、定年退職後、「クラインガルテン」風に8畳一間くらいのかわいい家を小倉に建ててその周りは菜園とし、毎朝5時に畑の世話に通ってくる。建築現場にあるような「スペースハウス」を建て、墓参りのときの親戚の宿所にしている家もある。それぞれの距離感で小倉につながりを残しており、それが残された「家」の形に表現されているのである。

小さな家を建て直して周りを菜園にした家

帰ってくるきっかけに行事を復活

 小倉の共同墓所は集落の入り口の高台にあるが、そのすぐ下に広勝さんの畑がある。千代子さんは、この畑に朝から出ているので、自然に墓参りの人と顔を合わせることになる。「どなたの墓参りですか」と千代子さんが声をかけると、故人の話、生まれ育ったころの小倉の話でひとしきり盛り上がる。

 他出者も世代が代わって、広勝さんの知らない人が墓参りにくることもある。会えば会釈ぐらいはするが、「せっかく小倉に来たのに、むらの人に頭を下げられただけで帰られたらやっぱりさびしい」と広勝さんは思う。それでいえば、千代子さんは他出者の気持ちをむらにつなぎとめる役割を果たしていることになる。

 むらの出身者と小倉のつながりをもっと強めることはできないか。広勝さんが思い当たったのは、定年後も秋田市内に住む小倉出身者から遊びにいきたいといわれ、神社の秋祭りに誘って大変喜ばれたことだ。このむらには立派な神社があり、春と秋にはお祭りがある。「さなぶり」や「収穫感謝祭」はやらなくなって久しいが、これを復活させて集落出身者を幅広く誘ってみようか。誘うときは通知文書を送るような堅苦しいやり方ではなく、「○○があるから、一杯やろう」と気軽に声をかけようと、広勝さんは決めている。

 小倉はかつてセリの産地化に取り組み、秋田市公設地方卸売市場で「小倉セリ」として銘柄化に成功した歴史をもつ。また近年は、最上流に位置するホタルの里として環境保全運動に取り組み、ホタル観賞ツアーを受け入れたこともある。しかし、そのような産地化や観光の取り組みは集落維持の決定打とはならなかった。いまも小倉セリの出荷は続いており、ホタルの棲むきれいな川は保たれているのだから、むらの大事な財産にはなっているのだが、広勝さんはそうした経済的関係だけではなく、もっと地道に地元出身者との関係を強めたいと思うのだ。大事なことは、小倉を離れても気軽に戻ってこられて、このむらに気持ちが残っていること。そのような関係のなかからやがては集落に戻る人が出てきて、そのなかから広勝さんの家のように集落の核となる4世代家族が生まれることだってあるかもしれないではないか。

71町内会すべてで10年後のビジョンを

 五城目町では県と共同で「秋田県市町村未来づくり協働プログラム五城目プロジェクト」に取り組み、2013年からは「元気と安心で幸せを実感できるまちづくりプロジェクト」を実施中だ。今後の地域づくりのあり方にかかわるアンケート調査を行ない、その報告と地域の将来の目標を話し合うワークショップを開催してきた。71町内会中じつに68町内会で、10年後の未来に向けた「町内会ビジョン」を作成済みだ。小倉町内会のプランは「地元出身者の協力を得て、さなぶりや収穫感謝祭を復活させること」。この1行の目標の背後には広勝さんの先に書いたような思いがあった。

 町では昨年12月に、山形県の若い女性を集落支援員として採用するなどして、町内会ビジョンの実現をサポートする。
『季刊地域』2015年夏号「『人口減少に立ち向かう市町村』取材の現場から」より)

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藤山浩 編著
中山間地域など人口減少に直面している地域では、住民の生活を支える基盤が失われ、人口減少に拍車がかかっている。こうしたなか、複数の集落を含む基礎的生活圏において、住民が必要な生活サービスを受けられるような施設や機能を集約し、確保する取り組みが求められている。この小さな拠点づくりは国もバックアップしているが、うまくいっていない地域も少なくない。本書は小さな拠点づくりの国の政策づくりにも関与した著者が、住民主体で小さな拠点づくりを進める手法とポイントを、豊富な具体例とともにわかりやすく解説している。
『季刊地域』編集部 編
人口減少対策はいまや全国の自治体や地域に共通する課題となっている。I・Uターンを多く迎え入れて社会増を実現した地域、他地域に住む地元出身者との関係を強めて活力を維持している地域など、住民自身が動き出した市町村は何が変わったのか。自治体の政策とともに集落・自治会・公民館まで分け入って現場の動きを取材。転換点となる戦略を4つのポイントから掘り起こす。
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