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【また「地方消滅論」ですか 第5回(最終回)】「消滅可能性」を「消滅」させた町村はどこか

前回(第4回)の筆者の藤山浩さんは、10年前に日本創成会議が発表した「消滅可能性自治体」について、独自の人口予測による「持続可能性市町村ランキング」を公表しています。4月24日公表の新たな「消滅可能性自治体」のリスト(人口戦略会議による)ではどうなるでしょうか(『季刊地域』vol.31(2017年秋号)より)。

文=編集部

『中央公論』2014年6月号に日本創成会議による「消滅可能性都市896」のリストが発表されるなど、「地方消滅論」が大きな衝撃を与えてから3年。全国の市町村の人口はどうなっただろうか。

 「持続可能な地域社会総合研究所」(藤山浩所長、略称「持続地域総研」)は過疎指定797市町村を中心に全国の自治体の2010~15年の人口の動きを調べ、今後の人口予測と合わせてその結果を発表した(8月21日)。若い女性世代の人口を増やしたり、人口の社会増を実現した自治体を見ると、意外にも離島や山間部などの小さな町村が大健闘している。

図 30代女性増加率ベスト30(過疎指定市町村) 数値は増加率(%)10位までは順位を入れた *過疎指定市町村で2010年女性25~34歳と2015年女性30~39歳のコーホート変化率を比較。増加率が129.4%ということは、2010年の129.4%分増加、すなわち2.294倍になったということ。同じく83.3%ということは、1.833倍になったということ。 四角囲みは離島。豊根村以外は平成の大合併で合併しなかった自治体

30代女性をつかむ離島、山間部の町村

 持続地域総研が最初に注目したのは、結婚・子育て世代である30代女性の人口の動き。2015年時点で30~39歳の女性は2010年時点では25~34歳である。この両者を比較することでこの世代がどれだけ移入(移出)したかが推計できる。その増減率を見ると、全国の過疎指定797自治体の41%にあたる327市町村でこの世代の人口が増加していた。上の図のように、増加率上位30市町村には離島や山間部の小規模な町村が並ぶ。トップ20はすべてが「平成の大合併」で単独自治体を選んだ町村であった(表)。

 このトップ20について、さらに今後30年の30代女性の人口変化の予測を見てみよう。このうち16町村は、日本創成会議の予測では20~39歳の女性(子供を産む中心世代)が半減以下となる「消滅可能性市町村」とされていた。それが、持続地域総研の新しい分析では20~30代女性の人口を大幅に増やす予測となっているところが少なくない。人口全体を見ても半数近くが維持もしくは増加予測に転じている。

表 日本創成会議と持続地域総研の人口予測の比較(過疎指定市町村)

 持続地域総研所長の藤山さんは「『過疎』という用語の発祥地である中国山地をはじめとして、過疎化が先行したところほど行政や地域の取り組みも早い。島根県では30代前半の女性が子供連れでIターン・Uターンする例が目立つ。この世代には都会よりも人や自然、伝統のつながりに恵まれた地方、『田舎の田舎』を選択する傾向が強まっている」という。

 この田園回帰の流れをつかんだ町村が、先んじて「消滅可能性」を「消滅」させつつあるといえる。

国土の両極に人口が流入

 次に社会増を見てみよう。社会増とは人口流出数と流入数の差のプラス分のこと。2010年の0~64歳と2015年の5~69歳の人口を比較し、自然減分を補正して割り出した。その結果を見ると、過疎市町村のなかで93市町村(11.7%)が実質社会増を実現している。

 増加率の上位には、鹿児島県十島村(トカラ列島)の27.7%増をトップに、新潟県の粟島浦村(粟島)、沖縄県の与那国町、渡名喜村、島根県の海士町、知夫村(いずれも隠岐島)が続く。粟島浦村をのぞけば、西日本の離島の町村だ。また7位には、村議会廃止を検討していることで注目を集める高知県大川村が食い込んでいる。

 社会増を全市区町村について見ると、この5年間で社会増率が高いのは離島・山間部と東京都心の特別区にくっきりと分かれる。藤山さんは、「前者は30代女性でもみられた田園回帰による『縁辺革命』、後者はタワーマンションブームと符合する。『田舎の田舎』『都会の都会』という国土の両極で社会増が見られ、中間的な地域は人口を逃している」と見る。

 今回の調査は、このような離島・山間地域の健闘=「縁辺革命」に注目する一方で、過疎指定市町村全体として見ると、厳しい人口減少傾向が続くことも指摘している。

 過疎指定市町村とそれ以外に分けて、今後30年間の人口増減率を見ると、全市町村の63.3%、過疎指定市町村の86.9%が3割以上の人口減となる。過疎指定市町村では5割を上まわる人口減となるところが46.5%におよぶ。しかも、これら人口急減市町村ではその後も安定化せず人口減少が続く見通しだ。人口安定化の方策を早急に考える必要があるのはまちがいない。

人口比1%の定住増加を

 藤山さんは著書『田園回帰1%戦略』(農文協)のなかで、20代前半男女、30代前半子連れ夫婦、60代前半夫婦の3世代が、毎年、同じ組数だけ定住することで住民を1%程度ずつ増やすことができれば、子供の人口も全体の人口も安定化するという理論を提唱した。

 「総合的人口安定化」のためには、今後30年間に
(1)人口総数1割減以内
(2)高齢化率が低下するか、または40%以内
(3)子供人口が1割減以内
の3条件を満たす必要がある。かなりハードルが高い。現時点で、この条件を満たしているのは全国の過疎指定797市町村中13町村にすぎないが、毎年人口比1%の定住増加で41.2%、328市町村で条件達成が可能だという。

 今回の調査結果では、山村留学などの短期的移住政策が反映していると見られるデータも随所に含まれている。それをあえて補正せずに提供するのは、地元の自治体職員や住民の方にその意味も含めて考えてもらいたかったからだ。

 「たとえ短期的な人口政策でもそれが継続すれば、長期的な人口安定化につながる。今回のランキングを手がかりに、そのような市町村がどんな果敢な取り組みをして人口取り戻しに成功しているか、自治体同士、地区同士で学び合ってほしい」と藤山さんはいう。
(「『季刊地域』2017年秋号「消滅可能性」を『消滅』させた町村はどこか」より)

◎この記事で紹介した予測の詳細は『図解でわかる田園回帰1%戦略「地域人口ビジョン」をつくる』藤山浩編著(農文協)に収録されています。

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