
執筆者:吉田涼子(徳島県神山町・神山町移住交流支援センター、四方山(よもやま)設計)
『季刊地域』64号(2026年冬号)「床下に注目 地面とのつきあい方」より
「傷んだ空き家」の典型的な光景は、床が抜けている図かもしれません。シロアリや腐食が直接の原因で、その元をたどれば湿気の多い床下環境に起因します。今回はそんな建物と地面とのつきあい方に注目します。
雨や霧の多い気候、傾斜地で建物と石積みが密接している、周囲の木が高く日当たりが悪いなどは、湿気が溜まりやすい立地です。日の当たる表の部屋はきれいでも石積み側の床だけ落ちていたり、納屋や蔵が隣接している、室内外問わず物が積んである、水回りが近いなどの状況で、局所的に床が落ちていることもあります。
古民家の床のつくり
まずは、空き家案内でよく見る伝統的な日本家屋の床のつくりを図解してみます(下図)。畳の下には「荒床」と呼ばれる木の板の床があり、荒床は「根太」「大引」という木材に、大引は「礎石」に載せた「束」に支えられています。

古民家の基本形を理解しておくと工法の時代変遷や家個別の変化球が把握しやすく、不具合の感じ方も変わってくるでしょう。例えば、歩いて床がフワフワする場合、畳が傷んで柔らかく感じるのと根太が傷んで床がたわむのでは話が違います。床下がイメージできれば原因の仮説も立てやすくなります。
床下の通気が重要
伝統的な日本家屋の床が高いのは、できるだけ地面から離し十分通気させることで床を守ろうとする考えからです。古民家を見たことがない方は古い寺社を想像してみるとよいかもしれません。高床式倉庫もありますね。昔から湿気対策で建物形状が工夫されてきたことがわかります。

このタイプは適切な床下換気ルートが重要になってきます。家の外周に草が茂っていたり、側溝が掃除できていなかったりで湿気が溜まるのも避けたいところです。
時代が下ってからの例としては、床下換気口に送風ファンを付け、機械的に空気を回している家もありました。床下送風機が付けられた部屋の床は他と比べて新しめの板だったので、床が抜けて修繕した時に湿気対策として付けたのかな?と想像しました。
土間に見る湿気との付き合い方
一方、床が高く上げられていない部分はどうでしょうか。土間、玄関や水回りが典型的です。
空き家としてよく紹介する昭和の家で、玄関や台所などにコンクリートが打たれている場合、湿気が染み上がっている例はよくあります。床が濡れているので雨漏りかと思ったら、地面からの水分だったという話は、多くの人が体験する古い家エピソードの一つかもしれません。冬は大丈夫でも梅雨や夏には濡れていることもあるので要注意。当時のコンクリート土間は、地面の影響を直に受けているのです。こうした状況の部屋の柱の足元には、水を吸い上げた染み跡もよくあります。
あれ!?コンクリート土間なんて普通によくあるじゃないかと思った方も多いでしょう。現代でつくられているのは、コンクリートの厚みを適切に確保し、下に防湿シートを敷いているのです。防湿シートを敷いた段階の工事現場では、裏に水滴がたくさん付いているのを見ることができます。地面からの湿気を抑えて上部の環境をつくるという考え方です。
コンクリートが土間に使われるより昔は、本来の意味の「土」の「間」、つまり土を固めた三和土(たたき)だったでしょう。土なので湿気があるときは室内に上がり、湿度が下がれば乾きます。こちらは水分を出し入れするものという前提でその上に住む、という考え方です。
畳上げも大事な習慣
建物自体だけでなく、例えば「畳上げ」という習慣があります。毎年梅雨から夏の何日間かは、畳を立てかけて風に当て湿気を払います。畳は1枚1枚少しずつ大きさが違うため、戻せるよう、各畳の裏と荒床の位置には対応する番号がちゃんと書かれています。
荒床や柱の足元のシロアリの痕跡を目視することもでき、早期発見の機会にもなります。かつて年中行事のように行なってきた習慣は、家を守る工夫から生まれたものも多くあったのでしょう。


