令和の米騒動の深刻化によって、多くの問題が浮き彫りになりました。なぜ、このような騒動になったのか。なぜ収まらないのか。
「米は足りているのに流通業界や農協が米を隠した」かのような、責任転嫁の流通悪玉論、農協悪玉論が展開されましたが、根底にある要因への対処が遅れると事態は改善できません。

『季刊地域』64号(2026年冬号)「令和の米騒動はなぜ起きた?「食料安全保障推進法」が必要だ」より
執筆者:鈴木宣弘(東京大学特任教授)
米価高騰は需給が逼迫したから
米価高騰の理由は諸説述べられているが、端的に言えば、価格が高騰したのは需給が逼迫したからである。問題は、その要因が何かということである。
それは、図1を見てもらいたい。単年で見ると、すでに10年以上前から生産量が需要量に達していない年が増えてきていた。これは、①減反のしすぎ、②稲作農家の疲弊、が主因と考えられる。
そこに2023年の③猛暑による供給への影響、④需要の増加、が加わり、米不足が一気に顕在化した。需要の増加はインバウンド需要が指摘されたが、国内消費者が、値上がりした他の食材から、相対的に安い米にシフトしたことも大きかった(宮城大学・森田明教授)。24年の需要実績も政府見通し(674万t)よりも37万t多い711万tだと判明した。
さらに、24年産米も、政府の発表ほどは収穫がなかったし、低品質米の増加で、玄米から精米への歩留まり率が通常の9割から8割台に落ちている、との関係者の声が多く聞かれ、政府も最終的にこれを認めた。これも米不足に拍車をかけた要因である。

本末転倒の流通・農協悪玉論
だから、流通悪玉論、農協悪玉論は本末転倒なのである。農協は米が集まらなくなって困っているのに、米を隠して価格を吊り上げることなどできない。農協以外の業者も何とか米を調達しようと高値で買い、卸売業者間でも融通しあい、また、7、8月の端境期まで米を持たせなくてはならないので、販売量を調整したのだ。誰も、隠して吊り上げて儲けようとしていたわけではない。
政府もついに流通に目詰まりはなかったとの調査結果を25年8月に発表した。原因は、需要増と供給減を見誤り、米が足りていなかったからだとやっと認めた。であれば、流通・農協悪玉論が間違いだったと言わないのはおかしい。米は足りていると言い続け、備蓄米の放出も遅れて事態は悪化した。
25年産米も、8月中旬頃から猛暑による不作への懸念が大きくなり、新米確保への「奪い合い」状態となった。JAの概算金は3万円前後、JA以外の業者は3万5000円前後で買付契約になるまで集荷競争が激化した。またぞろ、農協が「概算金」を吊り上げたかのような批判が出てきている。だが、米不足が解消できていないから競争が激化したのであり、農協が吊り上げたのではない。米不足の根本原因を解消しないと問題は解決できない。
今こそ、課題を総合的に解決し、米需給と価格を安定化して、消費者、生産者双方がウィンウィンで持続できる仕組みの導入が急務となっている。それを実現するのが後述する「食料安全保障推進法」である。
大規模層だけで米供給は維持できない
石破茂前総理は、09年に農水大臣だったときに、筆者の本を3回も赤線を引きつつ読まれて、生産者にとっての適正米価と消費者にとっての適正米価との差を直接支払いする仕組みを「石破プラン」として公表していた。総理大臣となり今度こそそれを実施するのかと期待したが、直接支払いは「努力して規模拡大してコストを下げた人」に限定しないと国民に説明ができない、と言い出した。
いま稲作は、猫も杓子も口を開けば「大規模化」「スマート農業」「輸出増大」でバラ色、という議論ばかりだ。だが、例えば作付面積が15ha以上の層は数で1.7%、面積で27%(図2)。大規模化も大事だが、大規模層を支えるだけでは農村コミュニティも国民への米供給も維持できない。

政府自民党は、稲作の構造転換のために2.5兆円の別枠予算を確保したというが、5年間の総額なので年間5000億円だ。かつ中身は水田区画の大規模化、施設整備、スマート農業、輸出産地の育成、となっている。しかも、予算の多くは既存の予算の名前を変えただけだし、その利益の多くは農家でなく関連企業にいく。苦悩している稲作現場をスピーディに救えるとは到底思えない。
また、最近は乾田直播による規模拡大が推奨されている。代かきをしないため水田から出るメタンの抑制につながるとして、グローバル種子農薬企業のM社を買収したB社のCEOも推奨しているとのこと。しかし、種モミを播いた後に除草剤を散布するなど、農薬量が増える側面も指摘されている。気象データを活用した栽培管理システム活用も有効といわれるが、これもB社の関連企業が行なっている。
そもそも稲作の構造転換は27年度に向けて検討するとしているが、これでは間に合わないし、対象を大規模層に絞ったら役に立たない。なぜ、農家の所得を支える仕組みがすぐに出てこないのか。このままでは、全国各地で小規模でも頑張っている人たちを非効率として排除し、日本の地域コミュニティを破壊し、一部の企業を儲けさせるだけだ。
生産調整から出口調整へ
米の不足感と不足への懸念が解消されず、集荷競争が激化し米価が高騰している一方で、25年産米は豊作となった。需給が緩んで価格が下落する可能性も指摘され始めた。こうしたチグハグな事態の改善には、農家の疲弊の解消と併せて、もう一つ、需給安定機能の強化が不可欠だ。
そもそも豊凶変動が大きい農業で、生産で調整しようとしても限界がある。猛暑の影響が強まる中ではなおさらだ。これまで農家も農協もよく頑張ったが、それでも米価は下落し続けて農家は苦しくなった。「安すぎる米価」で農家を追い詰めてきたことには、小売・流通業界や消費者にも、それを放置してきた国にも責任がある。
これからは生産調整でなく出口で調整する仕組みの強化が不可欠だ。一つは、備蓄用や国内外の援助用の米の政府買い上げ制度を構築する。買い上げと放出のルールを明確にして需給の調整弁とする。さらに、輸入小麦によるパンや麺、飼料用の輸入トウモロコシも米で代替し、輸入に頼る油脂類も米油で代替するといった需要創出に財政出動することだ。
米づくりを支える明確なビジョンを
各地を回って聞いてみると、大規模農家も含めて多くの農家は、60kgあたり2万2000~2万5000円の生産者米価が経営継続に必要だと話している。
一方、国民所得の中央値は30年間で150万円も下がっている。じつは、国連食糧農業機関(FAO)の「飢餓地図」を見ると、日本はアフリカ諸国などとともに栄養不足人口が多い国に分類されている(*)。日本はもはや先進国ではない。消費者が払える米価と生産者にとって必要な米価にギャップが出てきている。
*FAOのHUNGER MAPによる。ウェブサイトの最近のものは「No data」になっているが(日本政府がデータを取り消した?)、2019-21のPDFファイルでは栄養不足人口2.5~4.9%に分類されている。
生産者と消費者がみんなで理解し合って妥協点を見いだせればいいが、そういう状況ではない。両者のギャップを埋めるのは、政策、政治の役割だ。ところが財政負担を増やしたくない財政当局は、国民の自己責任に委ねようとしている。
筆者は、超党派の「食料安全保障推進法」を制定し、「財源の壁」を打ち破る提案をしている。3本柱となる施策のイメージは、
①食料安全保障のベースになる農地10aあたりの基礎支払いを行なう
②コスト上昇や価格下落による所得減を直接支払いで補完。農家を助けると同時に消費者には安く買えるようにする
③増産した米や乳製品を政府が買い上げ、備蓄積み増しや国内外の援助などに回す
というものである。
この提案は、ほぼ全政党の勉強会で賛同を得ており、各党の農政公約にも反映されている。農家への直接支払いにはバラマキ批判があり、対象農家を大規模層に限定すべきだとの議論があるが、それでは多くの農家・農村が破綻する。対象を限定しなくとも、補填基準米価を高すぎないように努力目標として設定すれば、バラマキにはならない。
「スピード感」と言うならば、一日も早く、消費者・生産者双方が持続できるように、最低限の生産者米価を保証する政策を打ち出すことが不可欠だ。農家へのセーフティネットの中身を問われて「コストダウンとスマート農業と輸出」と答えた政治家がいたが、セーフティネットの意味を理解していない。これでは稲作の衰退が止まらず、中長期的に米騒動が繰り返すことになりかねない。
では、必要な政策とは何か。
・米は用途を問わず、60kgあたり2万2000~2万5000円を基準に市場価格との差額を補填。何をどれだけ作付けるかは現場の判断に委ねる
・米の政府在庫は、米価が1万5000円を下回ったら買い入れ、2万円を超えたら放出、といったルールを明確にして運用
・麦や大豆の生産振興も必要だから転作奨励金は維持
今こそ、こうした具体的な数値に基づく詳細な政策枠組みの提示が急がれる。
鈴木宣弘(すずき・のぶひろ)
1958年三重県生まれ。博士(農学)。著書に『食の属国日本 命を守る農業再生』(三和書籍)、『世界で最初に飢えるのは日本 食の安全保障をどう守るか』(講談社)、『「岩盤規制」の大義』(農文協)ほか多数。