
執筆者:米井崇恭(岡山県津山市・米井ファーム(株)代表取締役)
『季刊地域』67号(2026年秋号)「地域まるっと中間管理方式を支える 水栓・水路マッピング」より
担い手同士で農地を再配分
近年、担い手不足や高齢化が急速に進み、一つの経営体だけで地域の農地を守り続けることが難しくなっています。一方で、それぞれの農業者には自分なりの経営方針や得意分野があり、一つの組織にまとめることが必ずしも最善とは限りません。
そこで私は、5人の農家とともに「担い手がそれぞれ自由な経営判断を行ないながら、地域全体で農地を保全していく」という考え方のもと、「一般社団法人LAアライアンス」を立ち上げました。
LAアライアンスは、一つの組織や会社になることを目的としたものではありません。それぞれが独立した経営体として営農を続けながら、必要なところでは協力し合うネットワークです。農地や機械、作業だけでなく、情報も共有することで、限られた担い手でも地域全体の農地を守り続けられる仕組みづくりを進めています。
その取り組みの一つが「地域まるっと中間管理方式」です。従来は農地を一筆ごとに貸し借りすることが多く、管理が複雑になりがちでした。しかし地域全体で農地を中間管理機構へ集積し、そのうえで担い手同士が利用しやすいよう再配分することで、作業効率を高めながら農地を維持することが可能になりました。現在は6人の農家で合わせて150haほどの農地を耕作しています。
【地域まるっと中間管理方式】
・一般社団法人(非営利型)を設立し、農地中間管理機構を通じて地域の農地をまるごと(まるっと)利用権設定する。
・農地を預けたい農家だけでなく、担い手も自作農家も同法人への農地の出し手になる。
・一般社団法人は、農地の利用調整と一部直接農業経営を行なう。
・担い手や自作希望者は、一般社団法人から「特定作業受委託」を受けることで今まで通りの営農を続けられ、生産した農産物は受託者名義で販売できる。
・地域まるっと中間管理方式にすることで、自作希望農家や担い手どうしが共存しつつ、農地の引き継ぎをスムーズに進められるなどのメリットがある。
水路管理が共通の課題
農地を集積する一方で新たな課題も見えてきました。それが水路管理です。
農地を新たに引き継いでも「どの水栓を開ければどこの田んぼへ水が入るのか」「この水路はどこへ流れているのか」といった情報は、ベテラン農家の経験や記憶に頼ることが少なくありません。その方々が引退されると、農地だけでなく、地域の大切な知恵まで失われてしまいます。
そこで私たちは、営農データを管理する「アグリノート」というサービスを活用し、水栓や水路の情報を地図上に記録する取り組みを始めました。
アグリノートでは、グーグルマップのデータを利用して、農地を一筆ずつ地図に登録でき、圃場名や栽培管理記録なども農地ごとに保存して管理できます。保存したデータはスマートフォンやPCから閲覧でき、メンバーで共有もできます。
水路の情報を写真付きで保存
私たちは、スマートフォンを使って、各圃場の位置情報を取得しながら、水栓やバルブの位置、開閉方向、給水できる圃場、水路の流れ、注意事項などを写真付きで保存しています。
何百筆もある農地ごとに情報を追加する作業は手間ですが、いちど保存しておけば、いつでも誰でも現場ですぐに確認できます。今では、新たにその圃場を利用することになった場合でも迷うことなく水管理が行なえるようになりました。また、水路の接続状況や土質など圃場ごとの特徴も記録することで、農地の交換や作業受託の際の情報共有も円滑になりました。
農家支援アプリ「アグリノート」
新潟県にあるアグリノート株式会社が開発・運営。情報を保存できる圃場の数などでいくつかの有料プランがあり、LAアライアンスは上限なしのLプラン(年3万3000円)を利用中。
ホームページ https://www.agri-note.jp/

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先輩の経験と知恵を引き継ぐ
これまで口頭で受け継がれてきた知識をデータとして残すことで、地域全体の共有財産へと変わります。私たちは、この取り組みはデジタル化による単純な作業効率改善ではないと考えています。本当に残したいのは、地図ではなく地域の知恵です。
「この田んぼは雨の後に水が抜けにくい」「この水栓は一気に開けないほうがよい」といった経験は、地域を支えてきた先輩農家の皆さんが積み重ねてきた大切な財産です。それを次の世代へ受け継いでいくことが、持続可能な地域農業には欠かせません。
担い手一人一人が知恵や情報を共有し、新たな価値をともに創り出していく。LAアライアンスが目指しているのは「競争」と「協力」、そして「共創」が生まれる地域農業の実現です。情報共有の仕組みをさらに充実させ、農地だけでなく、地域の知恵や人とのつながりも未来へ受け継いでいきたいと考えています。