
毎年、米づくりが始まる前に、地域の共同作業として水路掃除(泥上げ)をするところが多いのですが、高齢化にともない人手不足が課題になっています。
栃木県鹿沼市の「板荷畑いつくし美会」は、多面的機能支払交付金を活用し、農地や水路の保全活動に取り組む地域組織。ソバ栽培や直売所の運営で、地域内外の交流も促進してきました。また、未整備の素掘り水路の維持管理も行なっています。環境(生態系の保全)に配慮した工法の採用や都市部の子どもとの交流も進め、水路を核とした地域づくりの創出に取り組んでいます。
執筆者:亀山貴則(栃木県鹿沼市・板荷畑いつくし美会事務局長)
『季刊地域』65号(2026年春号)「生きものを育む素掘り水路を守る」より
兼業農家が水稲やソバを栽培
国内有数のイチゴ産地で「いちご市」の名称を掲げる栃木県鹿沼市。その北部の板荷地域に「板荷畑いつくし美会」はあります。
2008年3月に「農地・水・環境保全対策事業交付金(現在の多面的機能支払交付金)」を活用し、農業や農村の環境保全等に取り組む地域組織として設立しました。活動エリアの板荷4区(通称:板荷畑)では、圃場整備が行なわれていない農地を利用して、兼業農家が水稲やサトイモ、ソバを栽培しています。
世代交代を進めながら活動中
いつくし美会では、設立当初から将来を見据え、30~40代が事務局を務めるなど運営の核となり、さらに地域の連帯感を高めるため、小学生以上の自治会住民を構成員としてきました。そのため世帯数は57でも、構成員は153人にもなります。
また設立以前から、地域には「鹿泉会(長男会)」という後継者世代の会があり、親睦活動とともに環境美化活動やベンチづくり、掲示板設置などの地域貢献活動を行なっていました。私は、この鹿泉会で農作業もやってみれば将来の農業後継者が増えるのではと考え、耕作放棄地を活用したソバ栽培を提案しました。09年から本格的に栽培が始まり、面積も2.5haにまで広がり、22年には育てたソバを使ったそば屋「板荷畑いつくし美庵」も開店しました。
さらに、14年には無人直売所の運営も開始。幅広い世代が出荷し、世代間や地区外の人との交流にもつながっています。
当初の予想どおり、住民の高齢化は進みましたが、世代交代して活動に参加する世帯も多く見られます。こうした取り組みが評価され、16年度に「栃木県元気な農業コンクール」で最高賞を、18年度に「豊かなむらづくり全国表彰事業」で農林水産大臣賞を受賞しました。

3分の1が素掘り水路、泥上げは共同で
圃場整備が行なわれていないため、当地区の主要な水路約1500mのうち、約500mは素掘り水路です。素掘り水路は、水草が繁茂して水の流れが悪くなるだけでなく、土砂が堆積して河床が上昇したり、土手が軟弱化したり、管理に手間がかかります。草刈りや泥上げなどは、水路に隣接する農地所有者が作業してきました。しかし、それでは個人の負担が大きいため、泥上げは「多面」の共同活動として行なうようになりました。

毎年10~11月に水路関係の施設を点検し、補修等の必要があれば12~3月に共同での泥上げや、護岸の修繕工事を実施しています。4月にも施設点検と保全を行ない、8月に農地に隣接していない水路周りの草刈りを共同で行なっています。こうした共同作業の日当や補修に使う資材代などに交付金を活用しています。
世代交代がうまく進んでいるので人手不足は生じていませんが、高齢化による体力低下に対応するため、可能な限り機械利用も進めています。幸い地域には、共有のバックホー1台、個人所有のバックホー3台とバケット付トラクタ5台があり活躍しています。

生きもの調査で気づいた水路の価値
農地・水・環境保全対策事業のころから、地域の子供や親たちとともに、田んぼと水路の生きもの調査も欠かさず続けてきました。
第1回の調査の際、栃木県版レッドリストに掲載されている生きものが水路に生息していることが確認され、専門家の渡邉知義先生から「生態系の多様性を生むこの水路と周辺の環境は他では見られない貴重な資源」と評価されました。定点観測を続けることで、環境の変化が確認できるし、地域資源としての裏付けを得られるとも考えています。


また、水路の保全や災害時の復旧工事の考え方も見直しました。


生きものへの影響に配慮し、コンクリート製品の使用を抑え、使用する場合も継ぎ目にゴム板を挟んで土砂を残す工夫や……