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地域計画をつくろう連載季刊地域Vol.39 (2019秋号)試し読み

福井

【どうする?地域計画④】地域まるっと中間管理方式やってみた! 人・農地プランの見直しもスムーズに

これまで人・農地プランが地域での話し合いにより作成されてきましたが、農業経営基盤強化促進法の改正により「地域計画」として法制化され、昨年から作成が本格化しています。そこで編集部では、過去に掲載した記事の中から「地域計画」づくりの参考になりそうなものを選んでみました。ぜひご覧下さい。

福井県小浜おばま市・(一社)太良庄たらのしょう荘園の郷、文・写真=編集部

「これならうちの区(集落)にぴったりや!」

 小浜市太良庄地区の農地利用最適化推進委員を務める高鳥佐太一さだかずさんは、愛知県農業振興基金が提唱する新しい集落営農の形、「地域まるっと中間管理方式」(季刊地域37号参照)をインターネットで知り、大興奮した。これからの地区の農業をどうしていくか、人・農地プランの再編も含めた話し合いを進めていた2017年のことだ。

個別農家がまだまだ元気

太良庄には鎌倉~室町時代中期にかけて東寺の荘園(太良荘)があった。中世荘園の代表例とされる

 太良庄地区には約65戸350人が暮らす。整備された73・5haの水田が広がる純稲作地帯で、耕作者の多くがサラリーマン兼業農家だ。

 勤めがありながらも地域の田んぼを守っていこうと、1997年に兼業農家14戸で「太良庄農産」を設立、2007年に法人化した。現在の組合員は21戸。農機を集約し、作業には土日を中心にメンバーが交代で出役する。地区になくてはならない法人だ。

 といっても、設立から20年経った17年の時点で、太良庄農産に集積した農地は34・4haと、地域全体の半分に満たない。それ以外の部分は、数戸の個別認定農家がそれぞれこだわりをもって経営してきた。コウノトリの復活をめざし、冬水田んぼ(冬期湛水)に取り組む有機農業のグループもある。また、兼業農家にも、自作を希望し田んぼを太良庄農産に預けない人もいる。皆、できる限り自分でやりたいという意向が強く、全農地を一つの組織にまとめるのは無理な状況だった。

 しかし、地域農業をリードしてきた認定農家も、今や全員が60代後半~70代後半に入った。まだ現役バリバリとはいえ、耕作を続けられなくなる日はいずれ来る。そのときうまく移行できるのか……。地域の共通の心配事だった。

まずは今までどおり営農

 そんなとき高鳥さんが見つけた「まるっと方式」は、営農と農地利用調整を担う一般社団法人を設立し、農地中間管理機構を通じて、農地をいったんすべて「まるっと(まるごと)」一般社団法人に貸し付けるという仕組みだ。担い手や自作希望者は、一般社団法人から「特定農作業委託」を受けることで、今までどおりの営農を続けることができる。

 また、農地の利用権は一般社団法人に設定されるから、もし担い手等が離農する場合も、法人内の調整によって、次の耕作者にスムーズに移行できる。これこそ、担い手にも土地所有者にも、地域にもよい「三方よし」の方式ではないか……。

 話し合いの席で「太良庄みんなの思いをかなえるシステムです」とこの方式を提案したところ、みんな賛成してくれた。

 区民説明会などを経て、18年5月、「一般社団法人太良庄荘園の郷」を設立。理事長には認定農家の一人が就任した。11月に土地所有者と農地中間管理機構との貸借契約、12月に機構と「荘園の郷」との貸借契約が締結され、63haの農地を集積。19年8月時点では71haと、100%に近い集積率となっている。

 これで、すべての農地を守る受け皿ができた。「後は、農地の集約は焦らず、ゆっくりやっていこうと思います」と高鳥さんは言う。一方、認定農家も、「うちの経営地も、もともと借りた土地。もうあと何年かは頑張るが、リタイアした後はきれいに太良庄農産にバトンタッチしたい」と言ってくれたという。「地域の農地をみんなで守りたい」という思いは皆同じだったのだ。

一般社団法人が「多面」交付金の受け皿となることも可能だが、会計が混乱しないよう、「多面」の活動は従来からある「太良庄荘園の里保全隊」が担い、一般社団法人とは組織を分けている *耕作状況は「荘園の郷」設立当時のもの

後継者づくりにも「まるっと」が生きる

「荘園の郷」をつくったことで、太良荘には農地集積以外にもいいことがたくさんありそうだ。

 太良庄で長年ネックになっていることの一つが、分散錯圃。太良庄農産が預かった土地以外は、地権者と個別農家の間で相対で貸し借りが行なわれてきたため、農地が飛び飛びになっている。さらに、隣の高塚地区からの入作地も7.5haほど散在している。

「荘園の郷」の設立を機に、少しずつこの状態の解消を図っている。利用権は荘園の郷に設定されているから、法人内で調整するだけでよく、農業委員会の許可をその都度とらなくてよい。また、入作者にも法人の「社員」になってもらっている。

 さらに、2人の50代の兼業農家が、定年後はもっと面積を増やし、個人の専業農家としてバリバリやりたいと意気込んでいるそうだ。その2人が営農をやりやすいよう、少しずつ農地をまとめているところだという。地域の後継者の営農条件を皆で整えるということが、「まるっと方式」ならばやりやすい。

将来の土地改良もスムーズに

「まるっと方式」は土地改良事業にも役立ちそうだ。

 太良庄の農地は30a区画に整備された市内有数の優良農地で、水利はパイプライン化もされている。だが、この土地改良事業から30年以上を経過し、排水路の破損やパイプラインの故障が頻繁に起きるようになってきた。また、大雨等でイネが水に浸かりすぎる田面の低い箇所のかさ上げ工事をしたい。さらに、中アゼを取り除いて区画も拡大したい。

 17年の土地改良法の一部改正で、農地中間管理機構を通じて一定面積以上連担化した農地について、都道府県が農業者の負担を求めず基盤整備を実施できる制度がつくられた。この制度の活用をめざしている。

 今は採択のための要件を整えているところだが、実現した場合は、長期間かけて順繰りに工事を行なっていくことになる。工事範囲にかかった農家には、代替の農地を手当てする必要があるが、それも「荘園の郷」内で調整すればよく、スムーズに進められることだろう。

新しい人・農地プランもできた

 太良庄では13年に最初の人・農地プランを策定していたが、「荘園の郷」設立後に新しいプランをつくった。

「今後の地域の中心となる経営体」を、13年のプランでは複数の認定農業者としていたのに対し、新プランは「法人2経営体、個人3経営体」として、「荘園の郷」を地域の中心に位置づけている。

 市がプランを公表した文書には、「新法人では、離農者や土地持ち非農家の農地の受け皿となり、地域の農地の維持管理に取り組んでいくとともに、農地中間管理事業を有効に活用して担い手に再配分する事で、分散錯圃状態の解消等農地利用の最適化にも取り組み、地域農業を守る組織として機能していく事が期待されている」とある。

「まるっと方式」によって、守りの仕組みのいちばんの基礎が整い、共通のビジョンもできた。その土台の上で、それぞれ頑張ってきた太良庄農産や個人農家が、ますます力を発揮しそうだ。

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