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連載地域計画をつくろう季刊地域Vol.54(2023夏号)試し読み

岩手

【どうする?地域計画②】将来予想される町の遊休農地エリア別に活用戦略――農地有効活用リーディングプロジェクト

これまで人・農地プランが地域での話し合いにより作成されてきましたが、農業経営基盤強化促進法の改正により「地域計画」として法制化され、昨年から作成が本格化しています。そこで編集部では、過去に掲載した記事の中から「地域計画」づくりの参考になりそうなものを選んでみました。ぜひご覧下さい。

小川勝弘(岩手県紫波町産業部・農村政策フェロー)

農地の需給見通しを試算

農業体験農園の様子

 地域計画の作成にあたり、農地の貸し手、借り手の意向把握や目標地図(農地1筆ごとの10年後の耕作者を示した地図)の作成が必要なことは言うまでもありません。しかし意向把握のためのアンケート調査は、回収率が100%にならないため、これをもとに地域の農地の需給見通しを明らかにすることは困難です。このため当町では、既存の農林業センサスと認定農業者の経営改善計画のデータを活用して、将来予想される遊休農地を試算し、地域での話し合いの資料としています。

 まず、将来の農地の供給量については、農研機構農業情報研究センターが実施している「AIによる農業経営体数予測モデルに関する研究」のデータを活用しています。このデータは、全国の農林業センサスの個票をもとにAIを用いて離農する経営体を特定し、離農する農業経営体数とそこから供給される地目別の農地面積を旧町村単位で予測したものです。これによると当町では、2020〜30年の間に549haの農地が供給されてくると試算されています。

 農地の需要量については、認定農業者の農業経営改善計画から農地需要面積を求めて旧町村ごとに集計しています。

認定農業者の農地需要面積=農業経営改善計画(作付面積〈目標〉—作付面積〈現状〉)

 23年3月現在でこの農地需要面積を集計すると250haと試算されます。町全体で離農する農家から供給される農地面積549haから需要面積250haを引いた299haの農地が供給過剰になると見込まれ、今後、多量の遊休農地が発生することが懸念されます。

エリア別に見ると...

 エリア別に農地の需給見通しを見ると、平坦地域では、多量の田が供給されるものの、法人や認定農業者が農地を集積し規模拡大が進めば遊休農地の発生は防げるのではないかと見込まれます。

 平坦混住地域では担い手が少ないため、今後供給されてくる多量の農地を活用できず遊休農地が増加することが懸念されます。

 丘陵地域では樹園地が多量に供給されてくるものの借り手がいません。また水田を集積できる担い手もいないことから、多量の遊休農地の発生が懸念されます。

 山間地域では担い手がいないため遊休農地が増加し、鳥獣被害が増えることが懸念されます。

農地有効活用リーディングプロジェクトとは

 地域計画は、地域での話し合いをもとに作成することとなっています。しかし地域で集まっても担い手がおらず話がなかなか進みません。地域の農地の維持管理を今後どうするかという深刻な課題が鮮明になるものの名案が浮かばず、頭を抱えるだけというのが実態です。

 ここで紹介する農地有効活用リーディングプロジェクトは、「地域における農業の将来のあり方」を話し合うときの参考にしてもらうように、町の農業課題を解決するために今後必要になると考えられる施策を試行しているものです。地域の特性に合わせてエリアごとに、平坦地域では子実用トウモロコシの産地化とつなぐビールプロジェクト、平坦混住地域では農業体験農園の設置、丘陵地域では農地の一元的管理主体の創設、山間地域では新たなウルシ産業の創出、という五つのプロジェクトを設定しています。

各プロジェクトの背景とねらい

①子実用トウモロコシの産地化

 平坦地域は稲作の兼業農家が多く、今後リタイアする農家から多量の水田が供給されてくると見込まれます。地域の法人や認定農業者に農地の集積が進んでいますが、認定農業者自体も高齢化しています。地域の農地の集積先となっている法人も含め、これ以上は水稲として引き受けることが困難になってきました。

 その点、子実用トウモロコシは、水稲の20分の1の作業時間ですむ省力的な作物です。大規模な水田作経営体がさらに農地を集積した際に導入が必要となってくる作物と考えられます。リーディングプロジェクトでは、20年から子実用トウモロコシの栽培実証と肥育牛への給与実証を行なってきました。

 今後、現地実証を踏まえて、生産拡大と耕畜連携による循環型農業の確立を目指しています。

子実用トウモロコシの収穫

②つなぐビールプロジェクト

 つなぐビールプロジェクトは、岩手大学のクラフトビール部(学内カンパニー)が耕作放棄地を解消するためにビール用大麦の生産を拡大し、地元の醸造所と連携して、県産原料を使ったクラフトビールを生産しようとするものです。

 紫波町では同部と連携し、新たな転作作物の候補として22年秋からビール麦の栽培実証を始めました。同部の学生たちは、地権者とともに栽培したビール麦を買い取り、醸造所に販売します。町は「酒のまち紫波推進ビジョン」に基づいて醸造関連事業の創出を目指していることから、町産ビール麦を使ったビールの商品化につながることを期待しています。

つなぐビールプロジェクトのビール用大麦の収穫

③農業体験農園の設置

 町中央部の平坦地域は、国道4号線と東北本線が通り、盛岡市や花巻市のベッドタウンとして混住化が進んでいます。認定農業者は極めて少なく、農業法人もないため、今後リタイアする農家から供給されてくる農地の引き受け手がおらず、多量の遊休農地の発生が懸念されます。

 一方でこの地域は非農家が多いことから、自分で家庭菜園をやってみたいというニーズがあります。そこで遊休農地を活用して消費者が農業に親しめる農業体験農園の設置を進めています。農業体験農園が新規就農、半農半X、産直の新たな出荷者等の多様な担い手の確保につながることを期待しています(『季刊地域No.53 2023年春号』p48 参照)。

④農地の一元的管理主体の創設

 丘陵地域は農地を集積できる大規模な水田作経営体がいないため、地域全体で農地を維持管理する仕組みをつくることが必要です。

 町内の漆立集落では、20年に地域の農地をすべて農地バンク(農地中間管理機構)に貸し出し、一般社団法人里地里山ネット漆立がそれをすべて農地バンクから借り受け、一元的に管理する仕組みをつくりました。可知祐一郎氏(魅力ある地域づくり研究所)による、いわゆる「地域まるっと中間管理方式」です(『季刊地域No.37 2019年春号』p110 参照)。

 地域の農地を一元的に管理する主体をつくることにより、農地の集団化、ブロックローテーションの円滑な運営が可能となり、リタイアした農家の農地を引き受けるセーフティネットにもなります。今後、町内の丘陵地域でこの方式が広がることを期待しています。

⑤新たなウルシ産業の創出

 山間地域では、耕作条件の悪い農地の遊休化が進み、荒廃した農地の周辺でクマ、シカ、イノシシ等の獣害が多くなってきています。

 近年はウルシの需要が増加していますが生産拡大が進んでいません。県内では現在、樹齢5〜7年のウルシの木を伐採し搾汁する技術の開発が進められています。この方式であれば短期間で収益を得られることから、林業経営の新たな樹種になる可能性があります。

 このため21年から町有地で栽培実証試験を始めました。その結果を踏まえて山間地域の遊休農地で栽培を拡大し、遊休農地の増加や鳥獣被害を抑えることを期待しています。

ウルシの植栽

地域計画の作成はまったなし

 わが国の稲作の基幹的農業従事者は、平均年齢が男性71.8歳、女性72.7歳(2022年)です。一方、健康寿命は男性が72.68年、女性が75.38年(2019年)です。稲作の基幹的農業従事者の平均年齢はまもなく健康寿命に達し、一気にリタイアが進みます。地域計画の作成はまったなしの状況です。

 今回紹介した農地有効活用リーディングプロジェクトは、同様の地域特性を持つところで適用可能ではないかと考えられます。地域計画の作成に当たり参考にしていただければ幸いです。

 なお、本稿で紹介した農地の需給見通しや農地有効活用リーディングプロジェクトの詳細は、産業政策監調査研究として紫波町のホームページで公開していますので併せてご覧ください。

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