これまで人・農地プランが地域での話し合いにより作成されてきましたが、農業経営基盤強化促進法の改正により「地域計画」として法制化され、昨年から作成が本格化しています。そこで編集部では、過去に掲載した記事の中から「地域計画」づくりの参考になりそうなものを選んでみました。ぜひご覧下さい。
土佐 祐司 (京都府福知山市川合地区・(農)かわい代表)
2階建て集落営農で農地を守る
福知山市川合地区は、旧三和町内の6集落からなる小学校区で、約250世帯・550人が暮らす中山間地域である。中心を流れる川合川に張り付くように小さい農地が点在しており、今では「担い手」と呼ばれる農家は皆無に等しい。
1970年代後半の圃場整備事業の際、旧三和町では21集落すべてに「営農組合」が設立され、今も営農活動の機能が引き継がれている。
しかし90年代に入り、川合地区では人口減少や農家の高齢化が進み、単独集落での農地保全が難しくなってきた。そこで、2000年の中山間直接支払の開始を機に6集落がまとまって「川合地域農場づくり協議会(以下、協議会)」を結成。互いに連携しながら農地の保全に努めるようになり、09年には地区内外152戸から計650万円の出資を得て「農事組合法人かわい」が誕生した。
これ以降、川合地区では農地の利用調整機関としての協議会と、耕作を担当するかわいの「2階建て集落営農」方式で農地を守っている。
集落役員の事務負担に限界
この間、協議会は中山間直接支払や多面的機能支払の活動を牽引するほか、「人・農地プラン」(京都府では「京力農場プラン」と呼ぶ)や農業委員会の「農地利用地図」の作成なども議論してきた。そのため、農地に関する多くの事務作業が各集落役員に集中的に課せられてきており、ひいては後任の役員選出にも支障をきたすようになっていた。
また高齢化で農家が減り続け、かわいの経営面積は年々増加。当初の6haから10年で22haを超えるまでになった。なかには機械が入らないような小さな農地など条件不利地も多数あり、これ以上の規模拡大に限界を感じつつあった。
「守るべき農地」を線引き
転機は4年前、農業委員会に「農地利用最適化推進委員」が設けられ、さらに「人・農地プランの実質化」に向け、農地利用の意向調査が始まったことである。私は常々感じていたことを実行してみようと、農地利用最適化推進委員に立候補した。それは、「守るべき農地」と「守り切れない農地」の線引きである。
川合地区の場合は2階建ての組織構造のため、個々の農家が直接法人に農地の引き受けを依頼することはない。耕作できなくなったら、まず隣近所の農家に、次に集落の役員に相談。それでも受け手が見つからないときは、協議会で調整してかわいに耕作を依頼するという手順を踏んでいる。したがって、法人に依頼が来る前に各集落や協議会で法人に依頼できる農地か否かが話し合われており、これが「守るべき農地」と「守り切れない農地」の線引きの一つになっている。
話を戻そう。推進委員となった私の役目は、農業委員とともに旧三和町の「農地利用地図」をつくることである。一筆ごとに判定する作業は、調査に協力いただく各集落役員の負担が大きくなることが予想できた。なんとか簡素化できないか考えた結果、「中山間」「多面」農地利用地図のいずれにも共通する農地=「守るべき農地」は一枚の地図にまとめられるという結論にいたった。
中山間、多面、農地利用地図を一体化
「守るべき農地」のマップ化の手順は以下の通りである。
①まず、地区の白地図(市町村の農政課や「農地ナビ」で入手できる)と、「中山間」「多面」の協定農地リストを用意する。
②次に、協定農地を白地図にすべて落とし込む。
③さらに農地利用地図(協定農地以外、地域で決めた「守るべき農地」)の情報を白地図に書き込んだら完成。集落ごとに1枚の地図にする。
人・農地プランの実質化について話し合うときは、この一体化した地図を使えば「守るべき農地」のエリアが一目瞭然。農地の利用に関するアンケートの配布や集計、担い手の確定、将来にわたるプラン作成などの作業はあるものの、作成がスムーズに進むと考えた。
旧三和町では2年前から集落ごとにこの「守るべき農地」のマップづくりを開始。その後の話し合いで集落を越えて農地を守っていけるよう、従来の集落や小学校区単位だった人・農地プランを今春、旧三和町単位で一本化した。
自給的農家の存在が大きい
川合地区では総農地119haのうち、各集落が「守るべき農地」と判断した農地は合計55haになる。これは「中山間」と「多面」の協定農地41haと農地利用地図で「守るべき農地」とした14haを合わせたものである。現在、かわいは22ha(約300枚)の農地を預かっており、受託作業も含めれば、合計45haを超える機械作業をこなしている。
法人に作業の一部を委託しているといっても、30a未満の農地で米づくりに励んでいる自給的農家の存在は大きい。現状は「守るべき農地」55haの半分以上を自給的農家が耕作しており、それ抜きに農地を管理していくのは不可能である。
そのため、かわいでは自給的農家から余剰米を買い取るなどして、屋敷まわりの小さい田んぼを守ってきた。
見える化で引き継ぎがスムーズに
「守るべき農地」以外は、イノシシやサルの被害が深刻な山際の休耕田や、木が茂って再生が困難な荒廃農地が多い。なかには、現時点で高齢農家が作付けしているが将来法人に請け負わせるのが困難と協議会で判断した農地もあり、こうした「守り切れない農地」が総農地の半分を占めている。
所有者は苦渋の思いとなるだろうが、今後、場合によっては農地を山に還すことも視野にいれなければならない。高齢農家のなかには「終活」の一環と考え、農業委員に非農地証明の発行を依頼する人も出てきた。
しかし一方では、30代の移住者が空き家に付随した16aの荒廃農地を購入。開墾して野菜の無農薬栽培を始めたことから、新しく「守るべき農地」に加えたところもある。また、昨年から50代のUターン者が10aの荒廃農地にクリを植え始めており、中山間の協定農地に加えるかどうか検討する予定である。
これから先、役員の交代や協定農地の更新が来るが、「守るべき農地」の地図があれば簡単に現状を共有でき、話し合いを積み重ねられる。何より「地域の見える化」が進むことで、引き継ぎがスムーズに行なわれると思う。