菅家洋子さんは、ご夫婦でカスミソウや様々な草花を栽培する農家。その家業の傍ら、出店本屋「燈日草」を開くようになって4年目になります。菅家さんが暮らす福島県西部の昭和村では、廃校を利用した交流・観光施設「喰丸小」で村民がお店を開く事業を村が進めているとのこと。月に3~4日(週末)、菅家さんはここで小さい本屋を開くのです。本の仕入れ方などの詳細は『季刊地域』vol.58(2024年夏号)で紹介しています。この連載では燈日草の日々の様子を綴ってもらいます。本を通した素敵な出会いがあるそうです。
菅家洋子(福島県昭和村・花農家)
1冊の注文
昭和村はもう、1m以上の積雪になっている。燈日草は、ただいま冬休み中。
12月30日、今季初めて、山の神様のお宮の雪下ろしをした。ここ数年は浅雪で、一昨年は確か一度だけ、去年は一度も雪下ろしすることなく春が来た。この冬の積雪は「例年通り」という予報なので、3回くらいはスコップを持って屋根に上がることになるかなと思う。
ご家族の介護のため、しばらく村を離れている友人から電話がかかって来た。ちょこちょこ村に帰ってきているようだけれど、最後に会ったのはもう1年も前だろうか。変わらない朗らかな声に、ほっとした。本を頼みたいとのこと。私は「ちょっと待ってくださいね」と言って、ペンとメモを用意した。
頼まれたのは、1冊だった。これまでのように、数冊の注文があるのかなと思っていた。だけど、がっかりなんてするはずがない。かえって私は、その1冊のために、わざわざ電話をかけ、燈日草に頼んでくれる友人の気持ちが、うれしいを通り越して、切なくさえ感じた。ネットで買えばすぐだ。送料も、振り込みの手間も、振り込み手数料もかかる本屋に頼むなんて、なんの得もない。損かもしれない。
気持ちをもらっている。そのことを痛いほどに感じて、「あーこの気持ちに私は何ができるんだ」と身もだえするような思いになる。
「村に行くのは来春になるけど、また会ってお話したいと思っています」と友人は言ってくれた。「私も、そう思っています」と伝えた。

燈日草は私自身の居場所
燈日草のスタートから、5月でまる4年になる。元々、覚悟を持って始めたわけではなかった。本屋を開くことは、絶対的な夢や目標というわけでもなかった。
たった今までまったく考えたことがなかったけれど、ここで、ふいとやめてしまうこともできるなと思う。やめればやめられる。石にかじりついてでも、ということでもない。
不思議だなと思う。ただぼんやりと、一本のろうそくの燈のように、続けていこうという静かな気持ちがある。来てくれるお客さんたちの顔を浮かべながら、私自身がいちばん、燈日草を必要としているのだと思う。自分の居場所として。私はもっと、「燈日草」を自分の一部みたいにしたいと思っているということに、いま気がついた。
4年目ともなると、「難しいな」と感じる、具体的・感情的な事柄がはっきりとしてくる。そういうことを我慢したり、見ないふりをして、続けていくことはできない。惰性でなんて、考えただけで気分が悪くなってくる。そんなことするならやめたほうがいい。「燈日草」では、私は嘘をつきたくないんだな。これも、いま改めて気がついた。
またここから
今年最初の取次さんへの発注日は、1月6日。その日に、冒頭に書いた友人の本を発注する。友人の、あたたかで粋なふるまいを思う。大切に届けたい。
燈日草を続けていくことに、不安がないわけではない。だからこそ、「何の得もない。損かもしれない。だけどやってみたい」、そういうところにどっしりと腰を下ろして、新しい燈日草の一年を積み重ねてみたいと思う。またここから。
2025年も、燈日草での時間、お客さまとの出会い、本との出会いを楽しみに。どうぞよろしくお願いします。

著者:菅家洋子(福島県昭和村・花農家)