農文協が運営する農業情報サイト「ルーラル電子図書館」で読者が注目した『季刊地域』の記事を連載形式で公開します。
今回はいま話題の農村RMO(農村型地域運営組織)について、組織の立ち上げ方やねらい、活動・運営の様子を取り上げます。
*この記事は『季刊地域』2023年秋号(No.55)に掲載されたものです。
広島県庄原市山内自治振興区・松田一馬
私が住む山内自治振興区は、中国山地の麓に位置する小さな町です。東西4km、南北8km、耕地標高200〜250mの典型的な中山間地域で、約700世帯、1500人(高齢化率50%)が暮らしています。
ブランド米づくりで協同組合を設立

耕作放棄地が増えるなか、人の手が入らず、田畑や民家の軒先まではびこるようになった放置竹林が問題になっていました。そこで2010年、伐採による環境整備と切った竹を活用した特産品づくりを目的に、自治振興区内に「竹パウダー製造組合」と「米つくり研究会」を設立し、竹パウダーを使った米づくりを始めました。

竹を農業利用する発想は、昔よく山の下草刈りで出たクマザサなどを牛舎の敷料にした後、野積みして発酵させて田畑の肥料にしていたことをヒントに生まれました。「厄介物の竹でおいしい米をつくろう!」を合言葉に、生産者7人で1.7haの試験栽培からスタートしました。
2年後、第2回「大阪府民のいっちゃんうまい米コンテスト」でグランプリを獲得。以降、毎年各コンテストで優秀な成績を重ね、品質のよさが認められて価格面でも有利に販売できるようになりました。
米つくり研究会への参加者も年々増え、生産者50人、50haに拡大したのをきっかけに法人化の話が進み、18年に「協同組合庄原里山の夢ファーム」を設立しました。竹堆肥を使って生産した米は「里山の夢」という地域ブランドで、広島、大阪、東京、名古屋などへ販売しています。

協同組合の理想を農村RMOで実現したい
当協同組合を結成する時、ブランド米づくりによって地域の農家をはじめ若者も希望を持って農業に取り組める環境をつくりたいという理想がありました。法人化してよかったのは、総務・経理・生産・販売の組織体制が整い、機械の共同運用が強化できたところです。加えて、ブランド米生産にあたって田植え時の株間や水管理、乾燥調製などを統一し、担当者を決めて管理できるようにもなりました。
しかし、組合員の年齢構成は60〜70代が中心のため、徐々にリタイアする生産者が増え、現在は42人、44haに減少しています。米価低迷や肥料・燃料の高騰など米を取り巻く状況が厳しさを増していることもそれに拍車をかけます。また、コロナ禍の3年間で高価格帯の米の需要が低迷し、在庫が発生するなど販売面の課題も浮き彫りとなりました。
そんな時、県の委嘱で当協同組合の経営コンサルタントをしていただいた古川充さん(行政書士、地域活性化伝道師)より、農水省の新しい事業として「農村RMO形成推進事業」を紹介されました。この事業は、農用地保全、地域資源活用、生活支援の3本柱を中心に、おおむね10年後を目標とした地域ビジョンをつくり、3年間の事業実施期間を通じて地域運営組織(RMO)を立ち上げることを支援するものです。
山内自治振興区自体がすでに地域運営組織ですが、そこに農村RMOを加えることでより充実した自治振興区ができる。また、協同組合の設立時に掲げた理想の実現や、地域の課題解決を図るうえで有効な事業内容だと思い、初年度には対応できなかったものの今年度採択に向けて申請し、6月に内示をいただきました。
内示の1カ月前には、この事業を中核的に担う組織である「庄原市山内集落地域振興協議会」を立ち上げました。下図の通り、役員、自治振興区内の全自治会長、消防団、社会福祉協議会、女性会、夢ファームのほか、3本柱に対応した部会で構成しました。私は事務局と農用地保全部の部長をしています。

運営会議には、役員、各部会長、地域マネージャーのほかに地元選出の市議会議員、外部人材として産学官コーディネーターとアドバイザーが加わり、そこで事案をまとめたうえで、地域振興協議会でさらに検討します。

山内のお宝を考えながら立案
事業計画の立案は、事務局が住民と協議して困りごとや課題を抽出し、素案をまとめました。そこで出た課題は以下の通りです。
- ・高齢化や獣害による農地の荒廃
- ・農業所得の低下
- ・高齢者、一人暮らしの増加
- ・人口減少と空き家の増加
これらに対応するように事業計画を作成しました。山内のお宝は何か、地域人材を生かした活動ができないかということを意識しながらまとめたものです。計画の要点を以下に記します。
- (1)獣害対策はICTのワナによる効率的な捕獲方法を検証し、専門チームの設立を目指す。
- (2)竹堆肥の温室効果ガス削減効果を県立広島大学と共同研究。J-クレジット取得など、さらなる付加価値をつけたい。
- (3)ブランド米「里山の夢」の海外輸出。輸出先の調査・PR活動等を実施。女性会を中心に、米粉スイーツやおむすび屋など田舎の繁盛店の開店も目指す。
- (4)高齢者や一人暮らしの方を近隣住民が見守り、声かけ、緊急連絡先を共有する「おたがいさまネット」を実施。空き家対策・移住支援は「山内てごぉし隊」が活躍中。何でも屋的な生活の困りごとをサポートできる組織も設立したい。
(1)を農用地保全、(2)と(3)を地域資源活用、(4)を生活支援と位置付け、各部会で活動していくことになります。
*山内てごぉし隊の活動については『季刊地域』54号(2023年夏号)p38をご覧ください。
部会で進める農地保全
耕作できなくなった人の農地は、農用地保全部会を核に、夢ファームや、その会員である集落営農法人、認定農業者が請け負えるよう調整する体制を構築したいと考えています。人・農地プランの法定化に伴う地域計画の作成についても、当部会で推進、取りまとめをする予定です。
また、中山間直接支払の集落協定14組織、多面的機能支払の8組織についても、現状はそれぞれ独自の運用をしていますが、今後の持続的な農地維持のためには隣接する組織同士の協力体制づくりが必要になってきます。広域化も一つの選択肢で、それによる広域化加算を活用し、リモコン式草刈り機や防除機器をそろえるのも有効だと考えています。
『季刊地域』2023年秋号(No.55) 「竹堆肥のブランド米組合を核に農地保全や生活支援も」より
ルーラル電子図書館は、一般社団法人農山漁村文化協会(農文協)が運営する「有料・会員制の農業情報提供サイト」です。農文協が発行した雑誌・書籍・事典・ビデオなどを多数収録しており、病害虫の診断から登録農薬の情報、栽培・飼育の技術、加工・販売のノウハウまで、さまざまな角度から農業に関する情報を検索・閲覧することができます。

「ルーラル電子図書館 市町村プラン」とは?
市役所や町村役場の職員のみなさま向けに、おもに農業関連の政策・事業のテーマに沿った記事や動画を集めた、数ページで読み切れる早わかり記事、イラストによる図解、3分でわかる動画など、はじめて担当になった方にもおすすめのコンテンツを揃えた新サービスです。
市役所や町村役場へのルーラル電子図書館導入をご検討の方は、以下のフォームより農文協 電子図書館担当までお問い合わせください。