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高知

【担い手】「ここに住んでよかった」と思える地域を描く

農文協が運営する農業情報サイト「ルーラル電子図書館」で読者が注目した『季刊地域』の記事を連載形式で公開します。
今回は農業の「担い手」について、新規就農、集落営農、半農半X、兼業、定年帰農、体験農園など、多様な人材を育成していくにはどう仕掛けていけばいいか、実践的な記事を選びました。
*この記事は『季刊地域』2022年夏号(No.50)に掲載されたものです。

高齢化・人口減が進む中山間地域の集落機能を補う農村RMO(*)。

*生活の困りごとを解決する従来の地域運営組織(Region Management Organization)に、農用地保全や地域資源を活用して収入を得る事業を組み合わせた組織。

その成り立ちは地域によって様々だが、今回は「集落営農発展型」として動き始めた事例だ。


浜田好清(高知県四万十町・(一社)四万十農産)

集落営農の立ち上げから20年

(株)サンビレッジ四万十と(一社)四万十農産のメンバー。前列左から2人目が筆者

「集落営農から永続する地域づくりを」。酒を飲むといつも仲間と冗談交じりにそう話し合っていたが、いつの間にか二十数年が過ぎてしまった。集落のみんなに参加してもらいたい一心で呼びかけたのがきっかけで、2001年に集落営農組織「ビレッジ影野営農組合」を立ち上げた(その後、10年に農事組合法人ビレッジ影野、14年に現在の株式会社サンビレッジ四万十になる)。この組織の存在が、後々ずっと私の考え方の中心に居座り続けているように思う。

7年前、農文協の月刊『現代農業』(2015年7月号)で当法人を紹介した。当時は60代前半で健康診断も正常値が並び、妻には「農業しゅうき身体に悪いところは見当たらんで」と自慢げに話していた。しかし、歳を重ねるとともにだんだん機能低下が見え隠れしてきた。「生涯現役を貫きたい」と密かに思い描いていたことが少々不安になっている。

園芸作物、発電――経営が進化

ビレッジ影野営農組合が誕生した当時は、まだどこも機械の共同利用組織があったころだが、影野下集落24戸(12ha)の一集落一農場方式の集落営農は県内初の試みだった。

当初、近隣集落からはあまりよい反応がなく「いまにいろいろトラブルが発生し、いずれ解散するだろう」とウワサされていた。だが、組合員たちはがんばった。土日の共同作業の楽しさや将来の農地管理の不安解消、農機具の経費削減など、勤め人が多かった影野下集落の人たちにとっては喜びのほうが大きかった。

それでも時間の経過とともに年々1人、2人と組合員の出役が少なくなっていく。営農組織の法人化ととともに専従職員を雇用しなければと、10年に集落内外から3人の若者を採用した。そして、ショウガ、ピーマン、サトイモなどの園芸作物を導入し、農地管理と雇用態勢を整えていった。

また、さらなる収益確保のため14年には営農型発電施設(ソーラーシェアリング)を設置。パネルの下では、ハスイモや万次郎カボチャ、シイタケ、レタスなどを栽培している。

サンビレッジ四万十のソーラーシェアリング。約1haの太陽光パネルの下では原木シイタケやハスイモなどを栽培する

広域組織で農地を守る

15年頃になると、近隣集落で後継者不足が叫ばれだし、サンビレッジ四万十にも農地管理の依頼が来だした。一方では、周辺8集落に共同のライスセンターの建設を呼びかけるとともに、将来の農業についての話し合いを始めた。

何度も会合を重ねるうち、4集落から「10年先を考えたら、地域を担っていく広域組織をつくったらどうか」という要望があり、17年に広域集落営農法人(一社)四万十農産が誕生した。

同法人は、仁井田にいだ地区(影野小学校区)内を対象とし、各集落の農地を借りて水稲やネギを栽培するほか、ライスセンターの運営やドローン防除などの作業受託も行なう。初年度90aから始まった受託面積は、年々依頼が増えており、現在は合計で26haを超えている。

四万十農産で雇用した3人の職員は農業経験ゼロ、預かる農地はへんぴで条件が悪く、資金がないところからの出発だったが、サンビレッジ四万十からの作業支援やノウハウの伝授により、様々な困難を乗り切ることができた。

使い切れない農地にクリ、ユズ

課題の一つであった条件不利農地の管理について、四万十農産では、水利のない狭い農地や山裾の農地を預かった際は米づくりの合間にできる果樹(クリ・ユズ)を植えている。

四万十農産は、山裾の農地に比較的手がかからないクリの苗木を植えている

果樹栽培に馴染みの薄い土地柄だったので、当初、多数の役員は反対だったが、町がクリ生産協議会を立ち上げ補助制度ができたことで風向きが変わった。

近年は「クリでもユズでもかまんき、農地を管理してや」と頼みに来る農家が出てくるようになった。栽培開始から5年でクリは4ha、ユズは40aに広がっている。初年度に植えたクリは昨年から収穫が始まり、近隣の食品業者から購入の話や連携集落から圃場管理の協力依頼も届くようになった。

一方、農地が拡大するとたいへんなのが草刈りである。3人の職員では到底手が足りず、刈り遅れて苦情がくることもある。そうした状況を見かねた連携集落の役員が「うちで草刈りや水見の世話をしてやってもええで」「集落の草刈りの日に合わしてやるかよ」と声をかけてくれ、集落と合同で地域全体の草刈りをすることになった。今後は、中山間直接支払の広域協定を締結することを見据えながら、この方式で他集落の協力を仰いでいくようにしたいと考えている。

生活支援の拠点「集落活動センター」

こうした農地管理と農村の未来を考える話し合いは、16年の集落活動センター「仁井田のりん」開所にもつながった。

集落活動センターとは、住民が主体となって地域の活性化や生活機能の維持を図る高知県独自の「小さな拠点」づくりのこと。仁井田のりん家は、旧影野保育所に事務所を置き、(1)地域の台所部会、(2)交流部会、(3)地域サポート部会、(4)観光開発部会、(5)農業支援部会の五つの部会が活動している。

たとえば、地域の台所部会は地元の農産物を使った惣菜・弁当の販売をしている。交流部会は米粉パン教室、ヨガ教室などのイベントを定期的に開催する。また、地域サポート部会は宅老所を運営し、高齢者の居場所づくりや福祉に役立っている。

交流部会が提供する「モーニング」を楽しむ地元の高齢者たち

気づくとビジョンが次々実現

「住み続けられる地域づくり」をテーマに、今できることをコツコツやる。身体が動かなくなってからでは遅い。気概もしぼんでしまう。何かを少しでもやっておけば、何かが残っていく。この繰り返しが地域の魅力となり、活性化の資源となり、何かが生まれ、人々が関心を持つ。この連鎖が地域に育ってほしい。

地域全体が先々まで安心して生活できる姿として、集落営農を始めた当初から「影野地域ビジョン」を描いてきた。忙しい日々の刹那、そのことを忘れるときもあったが、気づくと、ビオトープや炭焼き小屋、観光果樹園、共同の機械倉庫など、次々にできあがっていった。ビジョンで描く夢は、農家や農業だけのビジョンではなく、「ここに住んでよかった」と思える集落全体のビジョンでもある。

10年先には組合員の多くがリタイアしているだろう。だが、魅力ある田園風景と後継者が育つ環境を思い描き続け、みんなで共有していけば、永続する地域づくりが可能になると信じている。

『季刊地域』2022年夏号(No.50) 「集落営農から農村RMOへ 「ここに住んでよかった」と思える地域を描く」より


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『季刊地域』2022年夏号(No.50) 集落」のコーナーには以下の記事も掲載されています。ぜひ本誌(紙・電子書籍版)でご覧ください。

  • 中山間直接支払 二つの新しい加算で若い農家が増えた!
  • 特定地域づくり事業協同組合 設立・運営の困りごと解決
  • 新しい物流システム やさいバスってなんだ?
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