8月30日に2025年度(令和7年度)の農水省予算概算要求が公表されたのを機に、「集落機能強化加算」の廃止がにわかに話題になっている。
集落機能強化加算とは、「中山間地域等直接支払制度」の中で本体交付金とは別に設けられた加算措置の一つ。この加算金はどんな役割を果たしてきたのか、廃止してもいいものなのか、考えてみたい。
「中山間直払い加算新設」!?
中山間地域等直接支払制度(*1)は日本型直接支払の一つで、多面的機能支払、環境保全型農業直接支払と合わせた三つの中ではもっとも早く2000年に始まった。平地と比べて生産条件が不利な中山間地に、農地管理などについての集落協定を結ぶことを条件に補助金を支払い、農業生産を継続することで耕作放棄地の拡大を防ぐことが目的。この制度は、零細農家、高齢農家、自給農家も排除しない「農家非選別主義」であること、農家を支える集落を強く意識した「集落重点主義」であることが、当事者の農家からも評価されてきた。
*1 中山間地域等直接支払制度についてさらに詳しくは農水省のウェブサイトを参照。https://www.maff.go.jp/j/nousin/tyusan/siharai_seido/
制度は5年ごとに更新され、今年は第5期の最終年。2025年度からは第6期対策となる。その更新内容が来年度の概算要求で明らかになった(表)。
9月5日の日本農業新聞では「中山間直払い加算新設」との見出しで報じられたが、「新設」とされた「ネットワーク化加算」はこれまでの「広域化加算」を、「スマート農業加算」は「生産性向上加算」を、それぞれ支援対象のバージョンアップや〝衣替え〟をしたもの。地域にとって影響が大きいのは、この記事では控えめにふれられていた「集落機能強化加算」廃止のほうだと思う。
集落機能強化加算が果たしてきたこと
集落機能強化加算は第5期になって初めて設けられた。集落外からの新たな人材の確保や、営農以外の「集落機能の強化」に取り組む計画に対して加算するという点で、従来の中山間直接支払では対応できない部分に踏み込む画期的なものだった。それは、2020年の「食料・農業・農村基本計画」(これも5年ごと(*2))が「農村政策の再生」を目指していたことと軌を一にしていたように思える。農水省のこうした意向も受けて、中山間直接支払を利用していた集落では、営農ボランティアの受け入れや、高齢者の移動支援、配食サービス、除雪支援などに加算を利用してきた。
*2食料・農業・農村基本計画については、【基本法改正にもの申す 第2回】基本法制定の経緯と食料安保の位置づけへの期待(荒川隆)を参照ください。
「営農以外」をうたったことで、従来の中山間直接支払の運営態勢を活性化した面もある。新たな人材や組織との連携を生み出した。たとえば、社会福祉協議会と連携して集落機能強化加算を原資に高齢者の移動支援を始めた地域がある。あるいは、若手の農家・住民が複数集落横断の地域協議会をつくり、この加算を原資に撤退したAコープの建物を使って「むらの店」を始めたり、高齢者支援の活動を始める、などである。
現在、農水省では、農村型の地域運営組織(農村RMO)の設立を小学校区単位や複数集落で立ち上げることを進めているが、集落機能強化加算がその素地を作ったとも言える。その意味では政策間の連携がとれていたように思うが、第5期の5年だけで廃止してしまっては、農村RMOを今後さらに増やすことが難しくなるのではないだろうか。
だが、それよりもまず、農村ボランティアや高齢者支援の原資となってきた加算金が突然途絶えることの影響である。来年度はこうした活動の中止を決めたところがすでに出ていると聞く。
農村RMOだけでいいのか?
来年度の概算要求を見ると、農水省では来年度も農村RMOモデル形成支援事業(上限3000万円、年基準額1000万円×事業年数)のほか「農村RMO活動着手支援」事業(1年間、上限50万円)を設けている。後者は、農村RMOの立ち上げをさらに準備段階から1年間支援するものだ。集落機能強化は農村RMOで…ということなのかもしれないが、こちらの補助金は3年とか1年に限られたもの。高齢者支援活動などを続けていくには別の原資が必要になる。
次回からは、『季刊地域』のバックナンバーから「集落機能強化加算」の活用事例を取り上げて、この補助金が果たした役割をふり返ってみたい。