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連載「集落機能強化加算」廃止でいいのか?

岩手

【「集落機能強化加算」廃止でいいのか?②】町が積極推進、町内15協定が活用――岩手県西和賀町

8月30日に2025年度(令和7年度)の農水省予算概算要求が公表されたのを機に、中山間地域等直接支払制度の「集落機能強化加算」廃止がにわかに話題になっている。日本農業新聞の論説([論説]増える買い物弱者 集落維持へ継続支援を、9月11日)でも廃止に対する懸念が表明された。
農水省では10月に、中山間直接支払の第6期対策について市町村への説明を始めるらしい。具体的な変更内容はそこで明らかになってくるだろうが、岩手県西和賀町では集落機能強化加算が町内15もの集落協定で活用されてきた。これを廃止していいのか?

文=泉川道浩(執筆時は岩手県西和賀町農業振興課)

中山間直接支払開始から22年、集落の持続が課題

 西和賀町は、岩手県西部の旧湯田町と旧沢内村が合併し2005年に誕生しました。高齢化率は県内トップの51.0%、毎年の積雪が2mを超える豪雪地域でもあります。このため高齢化対策、それに伴う雪対策が町にとって最も重要な課題です。

西和賀町は豪雪地帯のため、集落機能強化加算を高齢者の除雪支援に利用する集落協定が多い

 2000年に、条件不利地域の農業に対する中山間地域等直接支払制度が導入されました。西和賀地域の農業の条件不利は明確であるものの、急峻な山脈に囲まれた和賀川流域の平らな土地に水田がまとまっているため、20分の1以上の傾斜要件を満たすことができません。当時の県の方針では、緩傾斜農地(1/100以上)は急傾斜に隣接した農地だけが同制度の対象でしたが、西和賀地域のみ緩傾斜農地だけでも対象という特例措置により事業を実施することとなりました。これにより共同活動としての水田の草刈りや周辺の整備が促進され、農村景観が維持されて、町にとってなくてはならない交付金となりました。

 しかし一方で、中山間直接支払が始まった00年には人口7983人、高齢化率33.8%(国勢調査)だったのが、20年の人口は5134人、高齢化率51.0%です。20年間で人口は2849人(35.7%)減、高齢化率は17.2ポイント増と、人口減少と高齢化は容赦なく進んでいます。西和賀町には自治会が29、中山間直接支払の集落協定が44ありますが、集落の役員のなり手不足、資金不足による行事の廃止など、地域の活力が低下してきており、持続できる集落づくりが大きな課題となっています。

営農以外に活用できる加算

 こうしたなかで20年度の5期対策から新設されたのが集落機能強化加算でした。この加算は、営農以外のまちづくりに活用できるので、集落の活動費が捻出できます。町では、積極的に活用するよう各集落協定に働きかけを行ないました。その結果、初年度(20年度)は5集落協定で実施されました。

各集落協定の集落機能強化加算を利用した取り組み内容

集落機能強化加算とは・・・
2000年に創設された中山間直接支払制度の第5期対策(2020~)から新設された加算で、営農以外の新たな人材の確保や集落機能を強化する取り組みに対して利用できる。交付単価:3000円/10a(上限額:200万円/年度)

 以下、活用法の具体例を見てみましょう。

▼ 高齢者への除雪サービス、羊毛や藍染めで特産品開発

 大野集落協定推進組合(高橋雅一組合長)では、本誌48号(22年冬号)で紹介された花巻市の高松第三行政区ふるさと地域協議会と連携し、初年度から取り組んでいます。集落の話し合いを経て「高齢者でも安心して住める集落づくり、地域の特産品の開発」を集落機能強化加算で行なうこととしました。

 豪雪地帯の西和賀町では、10cm以上の積雪があれば県道や町道は通勤に支障のないよう朝3時から除雪が始まります。その除雪技術には卓越したものがありますが、町や県が除雪する道路までの生活除雪が高齢者には大変な作業となっています。そこで加算を利用した除雪サービスの開始に向け、対象者の住宅の障害物除去と除雪機械の導入を進めており、22年度から本格的に実施することにしています。

 また高齢者への買い物支援として対象者を募集し、町の中心地にあるスーパーへの送迎を始めました。

 地域特産品の開発にも利用しています。条件のよくない農地を遊休化させないために、町外からヒツジをレンタルし、夏季は水田放牧、その羊毛を活用します。また、過去に集落内で行なわれていたアイの栽培を復活し藍染めの原料に。さらに雪下ニンジン、薬草など、遊び心を持ちながら様々な品目に取り組み、特産化を目指しています。

大野集落では、水田放牧するヒツジの羊毛での特産品開発にも利用

▼ 集落で温泉施設を運営

 下の沢集落協定推進組合(高橋肇組合長)では、集落内にある町の温泉施設(真昼温泉)を、集落機能強化加算の活用で集落が主体となって経営していこうと21年度から取り組んでいます。

 町では真昼温泉を含む七つの温泉施設の売却を決め20年度に公募しましたが、公募は不調に終わり温泉施設が廃止の危機となりました。真昼温泉は、町外からも若干の利用はあるものの地域の公衆浴場的温泉で、憩いの場となっています。存続のためには地域として運営していくことが求められました。町と協議した結果、加算を活用して管理人の賃金等の経費を補い、地域の大切な施設として経営していくこととしています。

▼ 除雪支援、空き家の維持管理

 新町集落協定推進組合(南川幸一組合長)では、加算を活用する「新町集落機能強化協議会」を立ち上げました。町社会福祉協議会と連携した「シルバースノーバスターズ」による除雪支援に加え、移住者等の新しい後継者を育成するための基盤づくりとして、空き家の調査と、空き家・空き地の維持管理のための点検や草刈りを行なっています。

まちづくり担当課と各集落協定が協力して推進

 集落機能強化加算に取り組む集落協定は、20年度の5協定から始まり、2年目は8協定に、3年目の22年度は現在相談中のところを加え15協定を目標にしており、着実に増えてきています。

 本町は「結」による助け合いの精神が強い地域です。人口が年々先細っていくことは、逆に集落の結束を強める非常によい機会ともいえます。農業サイドのみならず、まちづくりの担当課と協力し、集落機能強化加算への取り組みを推進することとしています。

『季刊地域』vol.49 2022年春号 掲載)

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小田切徳美 著
「にぎやかな過疎」とは「過疎地域にもかかわらず、にぎやか」という、一見矛盾した印象をもつ農山漁村のこと。14章からなる本文に加え、「農的関係人口」などの基礎用語を、著者独自の視点で解説するコラム「農村再生キーワード」を11記事収録。註には本書の背景の深掘り解説や、参考図書の紹介なども多数盛り込む。農村再生のための政策構想を論じた『農村政策の変貌』(2021年)の続編であり、コロナ後の社会と2025年基本計画以降の展開を見据え、農村の過去~現在、そして未来への展望まで総合的に見通す一冊。
佐藤洋平 監修、生源寺眞一 監修、中山間地域フォーラム 編
人口減少・高齢化をいち早く経験した中山間地域は、課題先進地であり、新しいライフスタイルとビジネスモデル提案の場である。中山間地域の歴史とデータからみた現況をおさえた上で、中山間地域における諸課題を36テーマ別に問題の所在とそれにかかわる取り組みをコンパクトにまとめる。さらにこれらのテーマに総合的に取り組む先発地域を紹介し、再生のポイントを識者や現地の実践者が提言する。本書は、類書が無いなかで、中山間地域というプリズムを通した未来社会へのガイドブックとして長く活用されることが期待される。
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