千葉県館山市の神余地区では、地域活性化と獣害対策を目的に「フォトロゲイニング」が開催されています。このスポーツは、地図を使ってチェックポイントを回り、指定された写真を撮ることで得点を競うものです。地域のハイキングコースを整備し、地元住民や参加者が自然を楽しみながら、ジビエなどの地域特産品を味わうことができるイベントとして人気を集めています。
千葉県館山市・株式会社ふれあい神余の里、文・写真=編集部
手づくりハイキングコースで新スポーツ
フォトロゲイニング(略してフォトロゲ)とは、地図に示されたチェックポイント(フォトスポット)を制限時間内にできるだけ多く回り、得点を競うスポーツだ。チーム単位で行動し、チェックポイントでは、そこを訪れた証拠に、あらかじめ用意された見本と同じ写真を撮ることで得点が得られる。日本で最初に開催されたのは2002年。一般社団法人日本フォトロゲイニング協会が主催・後援する大会が、年間40回ほど各地で行なわれている。

一般には商店街や街中で行なわれるが、千葉県館山市の中山間地である神余地区では「獣害対策」を狙ってフォトロゲイニングを開催している。
舞台となるのは、市民団体「神余の里を豊かにする会」が整備するハイキングコース。会では5年前にUターンした川崎雅久さん(66歳)を中心に、月に1度5〜6人が集まりコースを整備してきた。
「こっちに帰ってきて、裏山を歩いたら楽しくてね。地域をにぎやかにしたい、人を呼びたいと思ったんだよ」
整備したエリアは神余地区の東側で、人家と田畑を囲むように低い山が広がり、山は昔、薪炭林として使われていた。奥のほうへ入っていくと、今は使われなくなった田んぼや炭焼き小屋など、そこにも人の暮らしの跡がある。

獣害対策効果も!?
ここでフォトロゲをやろうと動いた発起人は松坂義之(57歳)さんだ。地域おこし協力隊として5年前に移住。猟師であり、現在は自分が代表を務める株式会社ふれあい神余の里(イベントの運営など)を経営する。ハイキングコースを整備したし、もっと人を呼びたいと、神余の里の事業の一つとして22年からフォトロゲを毎年開催するようになった。

毎月のハイキングコース整備に加え、一段とにぎやかになるフォトロゲの効果だろう。「人の圧で獣が奥に引っ込んでいった」という実感があるそうだ。
神余地区には山も湖(ダム湖)もあり、山からは海を見渡せる。山あり谷ありのコースでは足の速さだけではなく、地図を読む力、機転が利くことが重要で、街中のフォトロゲとは違った魅力がある。参加者にとっては、等高線を読めるかどうかがチェックポイント攻略の鍵だ。

マラソン大会の開催よりも簡単
大会を開催するなんて準備がたいへんそうだが、そうでもないらしい。
「マラソン大会と比べて、フォトロゲは運営に人手がかからない」と松坂さん。主催者がやるのはチェックポイントの選定と、当日の対応だけだ。というのも、日本フォトロゲイニング協会公認の大会になるとサポートが充実しているらしい。
開催日の4カ月ほど前に、協会に各チェックポイントの写真と座標、50字以内の説明文をまとめて、メールで送る。写真の撮り方などは事前に指導してくれるそうだ。また、開催エリアの規模やプレー時間も相談に乗ってもらえる。
協会では、こちらが送ったチェックポイントの情報をもとに、ほどよい難易度になるように各ポイントの点数を決め、それが記された地図を印刷して送ってくれる。大会ののぼりやスタッフビブスなどのレンタルもある。
開催当日は、最低限スタート兼ゴール(同じ場所)に人を置けばいい。神余では、スタート兼ゴールに2人、参加賞のジビエ試食係に1人、救護班2人と5人で対応している。
なお、街中での開催と違い、歩道がないトンネルや危険な道は通らないように地図に書き込んだり、山で迷子にならないよう木にピンクの目印をつけておくなど、安全面の対策には気をつけているそうだ。
開催する側の楽しみ
参加者の募集は、神余の里のSNSと「スポーツエントリー」というウェブサイト、フォトロゲ協会の公式サイトで。フォトロゲにはどんな場所でも出かけるガチ勢が一定数いるので、参加者ゼロという心配はまずないそうだ。家族で散歩がてらジビエを楽しみに来る人もいる。
大会の開催費用は協会に納める額を含め約15万円で、参加費は大人3000円、子供500円。大人50人で収支トントンになる計算だ。昨年の参加者は15〜16組、30人ほどだった。神余の里の事業として収支は赤字だったが、大会後、月1回開催するマルシェのイベントに足を運ぶようになった参加者もいるので、赤字分はその宣伝費と考えているそうだ。
また地域の人は無料で招待しているとのこと。地元住民でも意外と知らないスポットがあると、楽しんでもらっている。
大会を続けるにあたっては「必要なのは(参加者に)絶対完走させないぞ!の気持ち」「最初は(チェックポイントを)全部回られちゃって悔しかったんだよ」と松坂さん。その後は、スタート兼ゴール地点から遠いポイントを用意したりして、完走を阻止できたとか。
「参加者の反省会を横でこっそり聞くのが楽しいんです。来年リベンジしにきてねって」。松坂さんはそう言うとニヤリと笑った。
◆
お昼にいただいたイノシシのお肉は、白くて甘い脂がとっても美味しかった。今年の大会は5月10日(土)開催。新緑の季節にこのハイキングコースを歩いて、疲れたところをジビエで腹を満たす。いい休日になりそうだ。