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試し読み季刊地域No.62(2025夏号)

岩手

山採り盆栽で裏山・里山がにぎわう

写真=編集部

山野から採取した苗を育てる「山採り盆栽」。自然がつくり出す素材の形が何よりの魅力。みんなで苗を探し歩く山採り会は、家の裏山や地域の里山を活かすアイデアとして注目だ。

執筆者:高橋久祐(岩手県紫波町)

『季刊地域』2025年62号

山採り盆栽は自然の作品

筆者(46歳)。スギの林床を利用してオオイチョウタケ栽培にも取り組む(2025年冬60号p30参照)。写真=編集部

 盆栽を始めて1年が経ちました。きっかけは、友人に誘われ訪れた盆栽展で見た1本のアカマツでした。幹はねじれ、苔むした根元は大地にしがみつくようで、まるで百年の時を語っているように見えました。小さな鉢の中に、大きな自然が閉じ込められている。そんな感動から、私の盆栽生活は始まりました。

 盆栽には大きく分けて、園芸的に苗から育てる「つくり盆栽」と、山野から採取して育てる「山採り盆栽」があります。私が特に惹かれたのは後者。自身の山を含め東北の山に足を踏み入れ自然に育った樹木を見て回るうちに、つくられた美しさではなく、時が育てた美しさがあることに気づいたのです。

 東北地方は寒冷で積雪も多く、山の気候が厳しい。それでも根を張り風雪に耐え、曲がりくねった幹を伸ばす木々たち。自然の力を借りて形づくられた素材は、独自の「渋み」や「風格」を宿しています。
 たとえばアカマツ。岩場でよく見かけるこの針葉樹は、盆栽としても人気があります。風雪にさらされて育ったアカマツは、幹の曲がりや肌の割れ方がじつに味わい深い。どれも人の手ではつくれない造形美で「自然の作品」なのです。

 そして、雑木林の代表格であるコナラ。落葉樹ならではの四季の移ろいを感じさせてくれる存在です。春には若葉、夏には深緑、秋には黄葉、そして冬は枝ぶりを楽しむ―まさに「四季の宿る盆栽」と呼ぶにふさわしい一本です。山で見かけるコナラの幼木は、地面いっぱいに葉が広がるように育っており、盆栽としても非常に扱いやすい素材になります。

 またクロモジも、東北の山ではよく見られます。楚々とした姿と、枝や葉にほのかに香る香気。盆栽にすると、野草的な風情を持つ一本になり、どこか茶道の精神にも通じる「静けさの美」を感じさせてくれます。

木の声を聴いて手入れする

 日々の手入れとして、盆栽を育てる中で大事なのが置き場所と水やりです。これが思っていた以上に奥深い。採取した山の環境を覚えておくとよさそうです。

 アカマツは、人工林の伐採跡にいち早く生えることからもわかるように陽を好みます。庭の中でもできるだけ日光に当たる場所に置き、乾き気味に育てるのが基本。私は最初、水をあげすぎて葉が茶色くなってしまい、慌てて先輩の盆栽仲間に相談しました。

 一方、クロモジは半日陰の湿った環境を好み、乾燥するとすぐにしおれてしまいます。夏場は風通しのよい棚下に置き、朝晩しっかり水やりをすることで、ようやく元気を取り戻してくれました。

 コナラはその中間で、日当たりを好みますが、水切れには注意が必要。季節によって水やりのリズムも変える必要があり、まさに「木の声を聴く」ような日々です。

採取には配慮が必要

 さて、ここまで山採り盆栽の魅力を語ってきましたが、山から木を採るという行為には慎重な配慮が必要です。というのも、山林の多くが個人や自治体の所有であり、無断で樹木を採取することは森林法により禁じられているからです。

 また、森林法では森林を健全に管理し、水源涵養や生物多様性などの公益的機能を守ることが定められています。私たちが自然と共に生きていくには、「山を守ること」が前提にあるのです。

 ですから、山採りを行なう際には必ず山主の許可を取り、必要以上の採取は控えます。採って終わりではなく、山から預かった命を盆栽という形で次の世代につなげていく。それが私の中で山採り盆栽の核心になっています。

山採り会を開いた

山採り会の様子。伐採時に林道をつくった山だと、法面から上に伸びようと曲がりのついた稚樹が見られる

 昨年、山採りできる場所を紹介してほしいと所属する盆栽会から依頼がありました。上記のことを踏まえ、適した山林を所有している方へ特用林産物としての山採りの魅力と自然への環境負荷について説明し、採取許可のお願いをしました。すると、その方にも山採りに興味を持ってもらい、山採り会を開催できました。

 採取に向くと考えたのは、家の裏山のカラマツの伐採跡と、広葉樹林で実生苗が豊富な場所の2カ所。カラマツの伐採跡は、伐採前から何度も下草刈りされているため、芯が止まって幹の太い稚樹が見つかります。

カラマツの伐採跡に生えたアカマツ


 山採り会に参加したのは15人。みなさん山を持っておらず、普段はホームセンターやインターネットで苗を購入しているそうです。掘り取るのは木々が芽吹く前がいいと考え、山の雪が解けた5月中旬に実施しました。山採りの経験がある盆栽会の先生に採取方法を教わりながら山を案内しました。

 2時間ほどの会でしたが、たくさんの稚樹の中から掘るものを選ぶ姿は真剣です。そんな中でも「この曲がりがいいね」など、稚樹を見ては声を掛けあって和気あいあいとした時間でした。

曲がりが面白いヤマツツジを掘り取った



 採取するのは樹高10~15cmほどのもの。器をイメージしながら選びます。作業に特別な道具は必要なく、スコップや剪定バサミのほか、根が長いときに切るノコギリと保湿に使うポリ袋や新聞紙を持参。なるべく細根を切らずに掘り取り、根を乾かさないようポリ袋に入れて持ち帰りました。

 私も広葉樹、針葉樹、数種類ずつ採取し、大事に育てている最中です。

一鉢に東北の山の風景を宿す

 盆栽を始めて1年。まだまだ失敗ばかりですが、木と向き合う時間が、私の暮らしの中に静かな喜びをもたらしてくれています。春、芽吹きに気づいたときの感動。夏、葉が茂る姿に生命力を感じ、秋には色づく葉に季節の深まりを想い、冬は静かな枝ぶりに、しんとした時間が流れる。たった一鉢の中に、東北の山の風景が宿っているように感じます。

山採りしたアカマツ(左側)とトドマツ


 その背景には、自然の摂理と、人間の営みの交差点としての「森」があります。盆栽は、自然を切り取るアートではなく、自然に寄り添い、自然と共に生きる術なのだと、最近ようやくわかってきました。これからも、山と語らいながら一本一本大切に育てていこうと思います。小さな鉢の中に大きな自然を宿すように。

鉢土は、山から持ち帰った土より、小粒の赤玉土からふるい落ちた小さい粒のものを使うとよい。気に入った器が見つかるまで、ひとまず仮植え

山・里山」のコーナーには以下の記事も掲載されています。ぜひ本誌でご覧ください。

  • ・まちづくりは木から始まる②
  • ・スマホで簡単!森林情報がすぐに調べられる「ちいもりず」
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農文協 編
特集:有機農業 点から面へ
農文協 編
明るい里山林を取り戻すには、継続した除伐や下草刈り、つる切りなどの手入れが欠かせません。それは以前なら特別な労働ではなく、生活に必要な資源の採取の繰り返しが、里山の管理につながっていましたが、現代社会にそれを望むのは無理というもの。でも、刈り取った草木が収入になれば「手入れという苦労」が「収穫という喜び」になる。 えっ、そんなもの誰も買わないだろうって。普通はそう思いますよね。でも、売れました! 多い月は3万円ていどの小遣い稼ぎになっています。ぜひ、ページをめくってください。あなたをナタ1本で稼げる「里山林業」の世界に誘ってご覧にいれます。 里山林業とは、山に勝手に生えるお宝植物(天然枝物)で稼ぐ新しい林業の形。ナタ1本で誰でもでき、肥料も農薬もいらない。自分のペースで作業できる。本書は、売れる天然枝物&植物リストから採取・出荷の実際、多様な販路まで、まるごとわかる「里山林業」入門書です。
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