
地域みんなで話し合いたいことはあるのに、なかなか前に進まない。困りごとはあるけれど、何から話せばよいかわからない。女性や若い人や移住者は遠慮してしまって、結局いつもの人しか話さない。
そんな時、私たちが各地のワークショップでよく使うのが1枚の地図です。防災、空き家、草刈り、農地、子供の居場所……。話し合うテーマは違っても、まずは地図を囲んでみる。すると不思議なことに、みんなのやる気とアイデアがわいてくるんです。
執筆者:阿部典子(岡山市・特定非営利活動法人みんなの集落研究所)
『季刊地域』67号(2026年秋号)「みんなで地図を囲もう!」より
「地図ワーク」からなら動き出せた
岡山県倉敷市真備町川辺地区で、こんなことがありました。2018年7月の西日本豪雨で川辺地区はほとんどすべての家屋が浸水するという大きな被害を受けました。自分たちの生活の立て直しに精いっぱいで、町内会で助け合うことも、川辺地区まちづくり推進協議会として活動することも、もう考えられない状況でした。それでも話し合った結果、「地図ワーク」からなら始められるかもしれないと、それぞれの家の状況を整理することになりました。
地図ワークとは、大きな地図を広げて、そこに参加者それぞれが持つ情報を書き込みながら進める話し合い。川辺地区のワークでは、60近くある町内会ごとに「帰ってきた家」「帰る見込みのある家」「帰らないらしい家」「わからない家」を地図に書き込んでいきました。
参加者の中には、顔は見たことがあるけど話したことがない方もいました。でも地図を見て「私、この家なんです」という一言から、近所のこと、災害ごみのこと、災害当日の様子、被災後の困りごとへと話が進み、ほとんど面識がない人同士でも、少しずつ言葉を交わせるようになっていきました。
そもそも地域の話し合いの場では、とかく意見を求められがちです。でもそれは意外と難しいこと。自分一人の考えだけで地域の将来を語るのは勇気がいります。「間違っていたらどうしよう」「誰かを傷つけたらどうしよう」「反対されたらどうしよう」と、言葉をのみ込んでしまうこともあります。
でも、向こう三軒両隣のことなら誰でも話せます。「この空き地は今どうなってる」「この道は誰が管理している」など、各々が知っている事実を一つ一つ出してもらう。すると「そうだったんだ」「うちでも、それが問題になっている」「それなら、こんな方法もあるね」と考えが重なり、少しずつ未来の話ができるようになっていきます。地図ワークで大切なのは、地図を完成させることではなく、知っている事実を持ち寄るところから対話が始まることです。
川辺地区ではその後、数々の話し合いと楽しくたくましい工夫が重ねられるようになりました。今では、近所のつながりを大切にしながら災害時の助け合いに様々な工夫を重ねる地域として注目されています。

テーマとエリアを決める
では、地図ワークのやり方とコツをお伝えしていきましょう。まずは、何について、どの範囲の地域について話し合うかを決めます。
話し合う範囲は一つの集落でも、一つの町内会でもかまいません。テーマは、地域で気になっていることや、解決したいけれど何から手をつければよいかわからないことから選びます。たとえば、大雨の時に不安だった場所、最近増えてきたイノシシ、子供の通学路、増えてきた空き家など。地区の防災計画をつくったり、農地の地域計画や土地管理構想を考えたりするきっかけとして、地図ワークをやってみた地域もあります。
範囲とテーマが決まると、「このことについて話し合うなら○○さんにも来てもらおう」と、一緒に考えたい人も自然と見えてきます。

必要なものを用意する
①地図
地図ワークで一番大事なものです。小さな地図では、みんなで囲んで話せません。住宅や道路、水路、田畑など、地域の様子がわかる地図を大きく印刷して、テーブルに置いて、みんなでいろいろ書き込めるようにします。
地図はカラーよりも白黒がおすすめです。書き込んだ情報が後で見やすいからです。縮尺2500分の1程度で、一つ一つの家の形や細かい道路の幅までわかるものがよいです。役場で購入してもらえる場合もあるので、相談してみるのも手です。空き家について話し合う場合は、住宅地図を切り貼りしたり、グーグルマップを印刷したりすることもあります。
②透明なシート
もう一つ用意したいのが、地図に重ねる透明なシート。
地図ワークでは、地図に直接書くことはおすすめしません。直接書こうとすると緊張します。そのため、たいてい器用な人が代表して、みんなの指示を受けながら「間違ってはいけない」とドキドキした状態で書くことになり、話し合いどころではなくなります。そこで、地図の上に透明なシートを重ねて、そこに油性ペンで書き込むようにします。
コーワライティングシートという製品が便利です。大きなラップのようなシートで、ミシン目が入っているのでハサミがなくても好きな長さに手で切ることができ、テープや画鋲を使わずに静電気の力で地図に貼り付けられます。
あるいは透明なごみ袋や資料袋、ホームセンターで売っている透明なシートや養生用のポリシート、薄手のテーブルクロス等でも代用できます。とにかく、透明で油性ペンで書ける素材のものならなんでも大丈夫です。
透明シートを何枚も用意して、書き込む情報ごとにシートを替え、書き込んだ後のシートを重ねると、複合的に地域の状況を眺めることもできます。また、個人情報を書き込んで、それが気になる場合も、シートと地図を別に保管しておけば安心です。

③油性ペンとシールと付箋
油性ペンは6~8色、いろいろな太さのモノを用意します。凡例をいくつかご紹介します。自分たちで凡例をつくりながら、何色が何を示すのか、イメージしやすい色、後でわかりやすい色を使うようにしてください。
色付きの丸シールや付箋も何色か用意しておくと、印をつけたい場所に貼るだけで、情報が整理しやすくなります。かわいいシールもたくさんあるので揃えておくと、子供たちと地図ワークする場合も楽しくできますよ。

④アンメルツとティッシュ
私が地図ワークに必ず持っていくのが、肩こりに塗る「アンメルツ」です。たいてい誰かが「なんでアンメルツ?」と聞いてくれます。そこで、油性ペンで書き込んだ文字をアンメルツでサッと一こすりします。すると文字が消えてビックリ。また、それを見て「間違えても大丈夫なんだ」と気も楽になり、みなさん安心して地図に書き込んでくれるようになります。アンメルツの代わりに、消毒用のアルコールや除菌シートでも消すことができます。
地図ワークでは「消せる」ということがとても大事です。また、もう一つ大事なのは、きれいな地図をつくろうとしないことです。ハードルを低くして、みんながそれぞれに知っていることを自分の手で書いてもらうようにします。

地図を囲んで話し合う
必要なものが用意できたら、あとはみんなで地図を囲むだけ。最初にすることは、地図の中に自分の家を見つけること。次に……